FRANZ FERDINAND 『Right Thoughts, Right Words, Right Action』
子供騙しはもうウンザリ。女にモテたいなら、グルーヴが欲しいなら、ワンランク上をめざしたいなら、スマートにカッコつけたいなら、この4人の英国紳士が鳴らす粋なダンス・ロックを聴けばいい!
今回はしっかり楽しみたかった
何とも鮮やかな帰還である。前作『Tonight: Franz Ferdinand』から4年ぶりとなるフランツ・フェルディナンドのニュー・アルバム『Right Thoughts, Right Words, Right Action』は、世界をまさに虜にした、あの〈踊れるフランツ〉の魅力がぎっしり詰まった一枚だ。アレックス・カプラノス(ヴォーカル/ギター/キーボード)が、まずは彼らが3年ぶりに日本の地を踏んだ、昨年の〈SUMMER SONIC〉について語ってくれた。
「日本のファンが凄く歓迎してくれていることを感じて嬉しかったよ。それに野球場(東京会場のQVCマリンフィールド)があそこまで大きいとは想像していなかったから、ちょっと驚いたね。何より、本当にお客さんが素晴らしかった。日本では久しぶりのショウで、しかも〈サマソニ〉は初めての出演だったわけだけど、良い経験ができたと思う」。
アレックスによると、その時点ですでにアルバム用のレコーディングは何曲分か終わっていたのだとか。しかし完成までさらに1年を要したというのは、〈踊れるフランツ〉を体現した作品にするため、時間をかけて楽曲を吟味する必要があったということか。振り返れば、前作はタイトル通り夜を想起させる、ダークでセクシャルな薫り漂うコンセプチュアルなアルバムだった。そこで実験的とも試行錯誤とも言える作風にシフトしたことで、バンドは原点回帰へと向かったのかもしれない。
「いや、特定のコンセプトやイメージを持って、制作に臨んでいたわけじゃないんだけどね。それは前作にしたってそうで、結果的に〈コンセプト・アルバム〉と捉えられるものになっただけなんだ。まあ確かに、ニュー・アルバムは前作と違うものにしたいという意識はあったけど、音楽的な部分ではないというか……。実は、前回は制作プロセスをあまり楽しむことができなかったんだよ。だから今回はしっかり楽しみたかった。そのうえで、4人のメンバーがいっしょに演奏している姿がリアルに伝わるアルバム、そしてどこを切り取っても、10秒も聴けばフランツ・フェルディナンドってわかるアルバムにしたいと思ったんだよね」。
〈楽しむこと〉〈4人感〉〈フランツならではの音〉——それらすべてに納得がいくまでじっくりと取り組んだ結果、完成したのが『Right Thoughts, Right Words, Right Action』というわけだ。だからこそ、ポップでキャッチーでダンサブルで、そのなかに〈粋〉や〈ダンディズム〉といった大人の美学が貫かれた、彼らの魅力を改めて伝える作品に仕上がったのだろう。
「そんなふうに言ってくれてありがとう。デビューできて、それなりの成功を収めてしまうと、時代や流行がどんどん変わっていくのを見てパニックに陥ったり、あるいは無理して変わろうとしたりしがちだけど、何より自分たちらしくあり続けること、またそういう自分たちに自信を持ち続けることが大事だと思うんだ。そうじゃないと、アイデンティティーを見失ってしまうからね」。
ダイナミックでハイエナジー
フランツ・フェルディナンドは、このアルバムを初のセルフ・プロデュース体制のもと、ピーター・ビヨーン&ジョンのビヨーン・イットリング、ホット・チップのアレクシス・テイラーとジョー・ゴッダード、トッド・テリエなど、多彩なゲスト陣と積極的にコラボレートしながら作り上げた。これも今作における〈自分たちらしさ〉のひとつと言えるだろう。
「今回はいわゆる専業プロデューサーという感じの人じゃなくて、自分たちと同世代、しかも自分たちと同じミュージシャンで、プロデュースもやりますよっていう人たちと、コラボレーションという形で共同プロデュースしてみたんだ。これまでとは全然違うやり方だね。ノルウェーのトッド・テリエなんかはダンス/エレクトロ系のクリエイターなんだけど、あえてそうじゃない曲を作ったり、なかなか興味深かったよ」。
また、クラフトワークやカン、ノイ!などクラウトロックの名作を数多く手掛けたプロデューサー、コニー・プランクが使っていた機材でミキシングしたり(アレックスいわく「読者のみんなにとっては全然つまらないオタク話になっちゃうかもしれないけど……(笑)」とのこと)、サックスの音を採り入れたり、結成当初に行っていたというメンバーとの会話を歌詞に発展させる手法を用いたりと、さまざまな試みも加えられている。
「そうやって歌詞を書いた一例が“The Universe Expanded”で、ボブ(・ハーディ、ベース)とウディ・アレンの『アニー・ホール』のことについて話していたんだ。あの映画にはビッグバンの後、宇宙はどんどん拡張し続けるけど、もうこれ以上大きくなれないっていうところまで進んでしまったら、今度は逆に縮んでいくという発想があるんだよね。しかも、物理的な大きさとか距離とかだけじゃなく、時間まで縮んでいくっていうわけ。それがおもしろいと思って、そういう発想から物語を作ってみたんだよ。別れた人をずっと愛し続けている主人公が、宇宙がそうやって縮むなら同時にその人との距離も縮まってくれるんじゃないかと希望を抱く……っていうね」。
そう、つまり今作でフランツ・フェルディナンドは、バンドの真価を最高の形で提示しつつ、進化と深化を刻み込むことに成功しているわけで、だからこそ彼らは〈正しい思想、正しい言葉、正しい行動〉という自信に満ちたタイトルを付けたのだろう。
「ポジティヴィティーだよね。冒頭曲の歌詞から引用したんだけど、僕はそれがいまのバンドの状態とこのアルバムを象徴していると思うんだ。凄く前向きな感じで」。
もちろん、11月に開催が決定した単独来日公演でも、そのポジティヴ・モード全開のパフォーマンスで私たちを踊り倒させてくれるはずだ。
「前回のワンマンの時は最後に長いインストを演ったかと思うんだけど、もうあれは演らないんじゃないかな(笑)。躍動感に溢れたダイナミックでハイエナジーなロックンロール・ショウにするつもりだよ」。
▼フランツ・フェルディナンドのアルバム。
左から、2004年作『Franz Ferdinand』、2005年作『You Could Have It So Much Better』、2009年作『Tonight: Franz Ferdinand』(すべてDomino/Epic)
▼関連盤を紹介。
左から、ピーター・ビヨーン&ジョンの2011年作『Gimme Some』(Cooking Vinyl)、ホット・チップの2012年作『In Our Heads』(Domino)、トッド・テリエの2010年作『Remaster Of The Universe』(Permanent Vacation)
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2013年08月21日 18:00
更新: 2013年08月21日 18:00
ソース: bounce 358号(2013年8月25日発行)
インタヴュー・文/鈴木宏和 写真/アンディ・ノウルズ