あべまに通じる言葉の使い手たち
阿部真央いわく「どちらかというと男性はサウンド志向で、歌詞を深く聴くのは女性が多いと思う」と。なるほど、その傾向は確かにあるかも——というわけで、ここでは彼女と同じく自他共に認めるリリックにコンシャスな、女性らしい恋愛観や人生観を表現するアーティストを挙げてみよう。
阿部真央の言葉を借りれば〈痒いところに手が届く〉、世の女性たちを魅了するラヴソングの歌い手と言うとaiko、10代からの支持が高い西野カナといったあたりが真っ先に浮かぶが、最近の若手で気になるのは過激な言葉で恋愛の本質や対人関係のきわどさを赤裸々に描く〈情念系〉とでも言える面々だ。なかでも、小南泰葉の描く精神的な闇と光の世界観や、大森靖子の曲に登場する女性たち(例えば“パーティー・ドレス”の風俗嬢)の心の叫びはよりアーティスト自身の内面に近い。一方で、さめざめの曲で執拗に登場する〈セックス〉という言葉にまつわるさまざまなストーリー、惑星アブノーマルの失恋ソングに窺える滑稽と悲しみが入り混じった生き様(例えば“フラレ唄”)などは、作家的な想像力を活かして物語が編み出されたものと言っていいかもしれない。
さらに、チャラン・ポ・ランタンはその中間と言うべきか。ダーク・ファンタジーのような恋愛ナンバーもあれば、突然〈あんたにやった(手切れ金)57万円〉(“潮時”)などという生々しい言葉が飛び出すドロドロとした恋愛地獄を見せたりもする。またハルカトミユキは、ラヴソングというよりも時事性のある社会的なテーマに冷めた目線で真っ向から挑んでみせ、男女問わず心に響く言葉を乗せていたりも。
ちなみに、阿部真央が挙げた歌詞の好きなアーティストは、実は男性。「back numberが大好きなんですよ。〈わたがしを口で溶かす君はわたがしになりたい僕に言う、楽しいねって〉とか、その描き方にすっごいキュンキュンします」と語っている。女心のツボを押すポイントは〈繊細な視点と確かな表現力〉だと言う彼女。時代を映し、人の心を細やかかつ豊かに映す歌は、意識せずとも耳に入ってくるものだ。
▼関連盤を紹介。
左から、aikoの2013年のシングル“Loveletter/4月の雨”(ポニーキャニオン)、西野カナの2013年のシングル“涙色”(ソニー)、小南泰葉の2013年作『キメラ』(ユニバーサル)、チャラン・ポ・ランタンの2013年作『ふたえの螺旋』(Mastard)、ハルカトミユキの2013年のEP『真夜中の言葉は青い毒になり、鈍る世界にヒヤリと刺さる。』(H+M)、back numberの2012年作『blues』(ユニバーサル)、大森靖子の2013年作『魔法が使えないなら死にたい』(PINK)、さめざめのベスト盤『さめざめ問題集』(Colorful)、惑星アブノーマルの2013年のミニ・アルバム『何でも無い凶器』(redrec)
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