Rie fu 『Rie fu sings the Carpenters』
カーペンターズを〈いちばんのルーツ〉と語り、その個性、精神を誠実に自身の〈歌〉へと還元してきた彼女が、満を持す形で作り上げたカヴァー・アルバム!
「7歳から10歳までアメリカに住んでいて、その頃に両親が持っていたカーペンターズのアルバムを聴いたんです。歌い出しの低音の感じなどに子供ながら惹かれて、何度も聴いては歌の真似事をしていました。カーペンターズは、恥ずかしがり屋だった私に歌を教えてくれた、そのなかで自分自身の歌声の個性にも気付かせてくれた……本当にいちばんのルーツですね」。
シンガー・ソングライター、Rie fu。2004年のデビュー以来、彼女の歌声は〈カレン・カーペンターのようだ〉と賞されてきた。彼女が生まれたとき、カレンはすでにこの世を去っていたが、いつ、どんなふうにその歌声と出会い、親しんでいたかは冒頭の通り。デビューしてからもカヴァー・ライヴを行うなど、日頃からカーペンターズへの愛情を露わにしてきた彼女だが、カレンが没してちょうど30年となる今年、その思いを存分に込めたカヴァー・アルバム『Rie fu sings the Carpenters』を作り上げた。
「没後30年というタイミングで出したものではありますけど、デビュー間もない頃に出していたら視野の狭まったものになっていたかも知れないですね。Rie fuの歌声だったり個性をある程度表現してきたところで改めてルーツを振り返って、ただのカヴァーじゃなく、独自の視点で捉えたカーペンターズの魅力も……そういう意味で、自分自身の個性とトリビュートというものがうまくミックスできた作品になったと思います」。
アルバムの前半は、自宅スタジオ〈ATELIER FU〉で編まれた音源で、メールの着信音やヴァイブレーション音を取り込んで今風な解釈を施した“Please Mr. Postman”や、リズム・トラックを前面に押し出した“We've Only Just Begun”など、エレクトロニックな風合いも新鮮だ。
「私がカーペンターズを初めて聴いたときにいちばんの衝撃だったのは、やはり歌声だったんですね。いかにして自分の個性を出していくかというところで、いままで音のアレンジだったりコード進行でいろいろ悩んできたんですけど、自分だけのものであるこの歌声さえあれば、周りは何でも良い……っていうわけではないんだけど、いちばん大事にしなきゃいけないものが何なのかっていうのが、今回の作品を通して発見できたところはありますね。そのなかでいくつかひねりのあるアレンジにしてるんですけど、ひとつだけ原曲に忠実にしたいと思ったのは、コーラスライン。カレンの歌声もそうなんですけど、コーラスラインが醸し出す不思議な感覚はカーペンターズならではのものだと思うので、そこは崩さないようにと」。
そしてアルバムの後半は、“Yesterday Once More”“Close To You”など、昨年11月にソノダバンドを従えて行ったBillboard Live TOKYOでのカヴァー・ライヴ音源。彼女の体温が直に感じられるような、鳥肌モノのパフォーマンスだ。そして……このアルバムの最大のハイライトとなっているのは、彼女がカレンに手紙を宛てるように書き下ろした“Dear Karen”。アルバムの最初と最後に、それぞれ英語詞と日本語詞で収められている。
「低い歌声で始まって、物悲しさもありつつ盛り上がっていくというカーペンターズらしい曲調もトリビュートしてみました。私に歌を教えてくれたカレンへの感謝の手紙であり、音楽自体への賛歌でもあり、自分がいままで作った歌のなかではもっとも壮大なテーマの曲になりましたね」。
アルバム・ジャケットの中面には、ヘッドフォン・ステレオでカーペンターズを聴いている20年前の自分、カーペンターズの曲をピアノで弾き語っている現在の自分、そしてその音源を100年後に聴いている誰か、というイラストが彼女の手によって描かれている。自分自身とカレンのように同じ時代を生きることができなくても、その歌声や音楽に注がれた情熱は時代を越えて受け継がれて行く──『Rie fu sings the Carpenters』は、カーペンターズへの愛情だけでなく、彼女の音楽家としての熱意と夢を乗せたアルバムなのである。
▼関連盤を紹介。
左から、Rie fu & the fu名義の2012年作『BIGGER PICTURE』(Rie fu inc.)、ORANGE RANGEの廣山直人とのユニット、delofamiliaの2013年作『archeologic』(SUPER (((ECHO))) LABEL)、ソノダバンドの2012年作『火の玉』(ユニバーサル)
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2013年09月04日 17:59
更新: 2013年09月04日 17:59
ソース: bounce 358号(2013年8月25日発行)
インタヴュー・文/久保田泰平