ROBERT GLASPER EXPERIMENT 『Black Radio 2』
ラジオの時間は終わらない。権威付けもエクスキューズも不要な境地で思うままに紡ぎ出されたのは、前作以上に親しみやすいアーバン・グルーヴの決定盤だ!!
より世界が広がったもの
ロバート・グラスパー・エクスペリメント(以下RGE)の『Black Radio』について、グラスパー自身は「普段あまりジャズを聴かない人たちにも向けた、もっとポップでメインストリーム寄りのものを意識したアルバム」と述べていた。ジャズというより、むしろR&Bの意識が強い同作は、結果として第55回グラミー賞の最優秀R&Bアルバムを獲得。そして、待望の第2弾が発表される。「ピアノ・トリオでやるジャズが嫌いになったわけではないし、またああいった世界に戻ってアルバムを作るかもしれない。でもいまは、よりR&Bの世界に身を置いたアルバムを作りたいという気持ちが強いんだ」という『Black Radio 2』の基本線は前作と同じ。RGEの演奏を軸に、曲ごとにゲスト・シンガーやラッパーが変わる。RGEのドラマーはクリス・デイヴからマーク・コレンバーグへ代わったが、彼もグラスパーからの信頼が厚い若手有望株だ。
「前作は友達や知り合いに参加してもらったけど、今回はそれにプラスして、面識がなくてもいっしょにやってみたい人がいたら、いろいろなツテを頼って声を掛けた。だから、より世界が広がったものになっている」というように、ゲストは多彩。昔から馴染みのコモンのほか、ジル・スコットなどネオ・ソウル的な前作の流れを継承するゲストもいれば、フォール・アウト・ボーイズのパトリック・スタンプが参加していたりと、あっというような顔合わせもある。
「実はジルの新しいアルバムに参加しているんだ。そのセッションでスタジオに入った際、僕もアルバムを作っているんだという話になった。その時にふと思いついたフレーズがあって、ピアノを弾いてジルに聴かせたら気に入って、後で歌を入れて“Calls”が生まれたのさ。パトリックとは去年の〈iTunes Festival〉で初めていっしょにやったけど、ケーシー・ベンジャミンやルーペ・フィアスコとかの繋がりが前からあったから、別に不自然なことではないよ。それと彼はシカゴ出身で、コモンも同じシカゴだから、“I Stand Alone”はそんなシカゴ・コネクションから生まれた曲でもあるんだ」。
ドラムンベース調のリズムに驚かされる“Let It Ride”に登場のノラ・ジョーンズとは、Q・ティップ『The Renaissance』で共演して以来のセッションだ。
「ノラとは高校時代からの友人だけど、なかなかいっしょにやる機会がなくて、ずっと待っていたんだ。今回、それが叶ってとても満足している。曲のアイデアは彼女をイメージしたらピンと来たもので、いいものができる確信があった。そのイメージをムスィーナーに伝えて曲を書いてもらったんだ。ピッタリの曲ができて、ノラとうまくマッチしたよ」。
また、UKから参加のエミリー・サンデーとは、彼女のNY公演時の楽屋で知り会った。
「彼女はソングライターとしても素晴らしい才能があるけれど、その頃僕はチャカ・カーンのアルバムのプロデュースをしていて、そこでエミリーにソングライターとして共同作業してもらえないかと頼んだんだ。いろいろあって、そちらはいま中断してしまってるけど、その前にRGEでアルバムを出すから、そっちでいっしょにやろうということになり、参加してもらった」。
より作り込んだアルバム
やや意外な感じもするブランディとフェイス・エヴァンスの参加については、「中学や高校時代は彼女たちの曲をよく聴いていたんだ。僕にとってのアイドルみたいな存在さ。今回参加してもらえて本当に嬉しかったし、ワクワクしたよ」とのことだが、それは彼にとってヒーローのような存在だったスヌープ・ドッグにも当てはまるだろう。スヌープとルーペ・フィアスコがフィーチャーされた“Persevere”には、テラス・マーティンが共同プロデューサーとしてクレジットされている。
「スヌープも昔よく聴いたけど、実は彼は大のジャズ・ファンなんだ。『Black Radio』もとても気に入ってくれてたみたいだ。〈自分もこんなアルバムなら出たい〉と言ってるという話をテラスから聞いて、それじゃあということで話が進んだ。テラスとは昔から知り合いで、彼はジャズ・サックスもやってるけれど、高校時代のコロラドでのサマー・キャンプが最初の出会いさ」。
レイラ・ハサウェイが歌うスティーヴィー・ワンダー“Jesus Children Of America”は、2012年12月にコネチカットの小学校で起きた銃乱射事件の被害者への追悼の意が込められている。
「以前からレイラとたびたびステーヴィーのトリビュート・コンサートを開いていて、この事件が起こった朝もショウの日だった。友人が事件で娘を亡くし、僕にも4歳の息子がいるから、とても他人事には思えなかった。そんな気持ちがこの曲へ繋がったんだ」。
カヴァーでは、他にビル・ウィザースの“Lovely Day”もある。
「老若男女の誰もが知ってる曲をアルバムに入れたくて、それがまさに“Lovely Day”なんだ。前に一度ライヴでやっただけのぶっつけ本番で録音したけど、それがとても満足のいく出来だった。そして、マネージャーがそのテープをビルに聴かせたら、彼はとても喜んでスタジオに遊びに来てくれた。そこでビルからメッセージをもらって、頭の部分に入れたんだ」。
そのような曲も披露しながら、全体の印象としてはオリジナルの比重が増したアルバムとなっている。
「今回は全体の曲数も増え、たくさんの曲を作ったけど、そうした点でソングライティングに力を注いだアルバムだ。それと、僕だけでなく他のいろいろなソングライターともコラボしている。プロデューサー的に言えば、より作り込んだアルバムだね」。
▼『Black Radio 2』に参加したアーティストの作品。
左から、ジル・スコットの2011年作『The Light Of The Sun』、コモンの2011年作『The Dreamer/The Believer』(共にWarner Bros.)、パトリック・スタンプの2011年作『Soul Punk』(Island)、ノラ・ジョーンズの2012年作『...Little Broken Hearts』(Blue Note)、エミリー・サンデーの2012年作『Our Version Of Events』(Virgin)、ブランディの2012年作『Two Eleven』(RCA)、フェイス・エヴァンスの2012年作『R&B Divas』(eOne)、スヌープ・ライオンの2013年作『Reincarnated』(RCA)、ルーペ・フィアスコの2012年作『Food & Liquor II』(Atlantic)、レイラ・ハサウェイの2011年作『Where It All Begins』(Stax/Concord)、ドゥウェレの2012年作『Greater Than One』(eOne)、マーシャ・アンブロシアスの2011年作『Late Nights & Early Mornings』(RCA)、アンソニー・ハミルトンの2011年作『Back To Love』(RCA)、エリック・ロバーソンの2011年作『Mister Nice Guy』(Dome)、ジャズミン・サリヴァンの2010年作『Love Me Back』(RCA)、メイシー・グレイの2012年作『Talking Book』(Savoy Jazz)
▼『Black Radio 2』に参加したソングライターの作品。
左から、ムスィーナーの2008年作『Pre.lude』(CIRCULATIONS)、PJモートンの2013年作『New Orleans』(Young Money/Cash Money/Republic)、“Jesus Children Of America”を収めたスティーヴィー・ワンダーの72年作『Innervisions』(Motown)、“Lovely Day”を収めたビル・ウィザースの77年作『Menagerie』(Columbia)
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2013年10月23日 17:59
更新: 2013年10月23日 17:59
ソース: bounce 360号(2013年10月25日発行)
インタヴュー・文/小川 充