インタビュー

孤高のロック・バンド、黒夢の20年



常に変貌し続けることで、確固たる地位を築いた黒夢。91年に地元・岐阜県で活動をスタートさせた彼らのサウンドの変遷は、99年の無期限活動休止に至るまで、大まかに前・中・後期に分けられる。前期は、ダークかつグロテスクな世界観をハードなサウンドで叩き付けていた。この頃は黒服を纏って濃いめのメイクを施した、後にヴィジュアル系と括られるスタイル。またライヴでの過激なパフォーマンスなども話題を呼び、インディー・シーンで頭角を現した黒夢は、94年にシングル“for dear”でメジャー・デビューする。

それまでのダークさが薄れていき、ポップ性を増していくのが中期。ギタリストの脱退という出来事を経て完成した3作目『feminism』(95年)は、中性的なヴィジュアルに耽美な世界観、歌謡曲的な哀愁のあるメロディーを合致させたラヴソングが多く、バンドの新たな扉を開いた。また、この頃からV系バンドがJ-Popのヒットチャートに顔を出すようになるが、そんななかでも黒夢はいち早くメイクを落とし、カジュアルなスタイルへシフトしていく。CMで取り上げられたシングル“BEAMS”(95年)でより幅広くリスナーを獲得しながらも、同曲が収録された4作目『FAKE STAR 〜I'M JUST A JAPANESE FAKE ROCKER〜』(96年)では打ち込みを多用してインダストリアルに接近。一方で、表題曲の“FAKE STAR”が後にライヴの1曲目で演奏されるようになることからも窺えるが、以降の作風はパンキッシュ&アグレッシヴになっていった。

その攻撃性が全開となったのが後期だ。5作目『Drug TReatment』(97年)はパンク/ハードコアが中心となり、歌詞は潜ませていた毒を解放。拝金主義のオトナたちや、スタイルばかりを模倣する安易なフォロワーを痛烈に批判した。セックスやドラッグをテーマにしたものも多く、過激すぎるがゆえに作品のブックレットでは歌詞を掲載できないこともあった。また、TVへの露出はほとんどせずライヴをメインに切り替え、97〜98年にかけてのステージ数はなんと200本超え! 当時の現場の凄まじさはライヴCD/DVD『1997.10.31 LIVE AT 新宿LOFT』にパッケージされている(途中でライヴハウスのブレーカーが落ちるハプニングもそのまま収録)。その後、シングル“少年”“MARIA”、そして同曲も収めた6作目『CORKSCREW』(98年)とヒットを連発。男性ファンも増え、カリスマティックな存在となっていった——しかし度重なるライヴでバンドは疲弊し、99年1月29日、名古屋ハートランド公演をもって無期限の活動停止を発表する。

その後、清春はsadsを始動。結成当時は後期の黒夢を継承したような、シンプルなロックンロール・サウンドだったが、徐々に妖艶さを帯びたヘヴィーで凶暴性を極めたものへと移行していく。また、ドラマ「池袋ウエストゲートパーク」の主題歌“忘却の空”などヒット曲も生まれた。さらに2003年からはソロ活動をスタートさせている。一方、黒夢の活動中にもソロ作を発表していた人時は、人時PIRANHAHEADSやDummy's Corporationといったバンドで活躍。またジャンルを問わず、さまざまなアーティストのレコーディングやライヴでのサポート・ベースを務めた。

〈活動停止〉とはいえ、多くが再始動はあり得ないと思っていたかもしれない。しかし、2008年にデビュー15周年を迎えた清春が自身のライヴにて、〈前に進むために〉という決意のもと、2009年1月29日に日本武道館で一夜限りの復活/解散ライヴを行うとを発表。そのステージ〈清春 15th Anniversary Presents kuroyume "the end" 〜CORKSCREW A GO GO! FINAL〜〉は活動停止直前のライヴが踏襲され、シングル曲はほとんど演奏せず、アルバム曲が大半を締めるセットリストで行われた。このライヴをもって、黒夢は正式に解散する。

が、過去を裏切り続けるのが彼らである。解散の1年後、2010年1月29日に清春が自身のブログでバンドの再結成とアルバム制作を開始すると発表。翌年に約13年ぶりのシングル“ミザリー”をリリースし、オールタイム・ベストなセットリストで臨んだ国立代々木競技場第一体育館でのライヴ〈XXXX THE FAKE STAR〉で完全復活する。そして、待望のアルバム『Headache and Dub Reel Inch』を発表。円熟味を増した艶のあるバンド・サウンドにデジタルな要素を採り入れた音像は、かつて彼らがそうしてきたように、過去に囚われることなく新たな黒夢像を提示したものだった。

時にはみずからの過去すらも否定しながら突き進んできた黒夢。自分たちが表現したいものを曲げずにリスナーへ突きつけるアティテュード、予定調和を嫌い、次にどんなアクションを起こすのか予測させない様は、いまの音楽シーンに足りないものだと思うし、彼らがカリスマと言われる所以でもあるだろう。



▼関連盤を紹介。
左から、黒夢の95年作『feminism』、96年作『FAKE STAR 〜I'M JUST A JAPANESE FAKE ROCKER』、97年作『Drug TReatment』、98年のライヴ盤『1997.10.31 LIVE AT 新宿LOFT』、98年作『CORKSCREW』(すべてユニバーサル)、sadsの2000年作『BABYLON』(avex trax)、人時PIRANHAHEADSの2000年作『FILL IN THE BLANKS!』(TRAP)、黒夢の2009年のライヴ盤『kuroyume "the end" 〜CORKSCREW A GO GO! FINAL〜』、2011年作『Headache and Dub Reel Ince』(共にavex trax)

 

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2014年01月22日 18:00

更新: 2014年01月22日 18:00

ソース: bounce 363号(2014年1月25日発行)

文/山口哲生