インタビュー

小林太郎 “IGNITE”



小林太郎



[ interview ]

ロック・ヴォーカリストとしての表現力とパワーについては、間違いなく天才。ただし生来の感覚主義者というか、何でも〈やってみなけりゃ納得しない〉タイプのため、さまざまな試行錯誤を重ねてきた小林太郎だが、どうやらその時期にもひと区切りがついたようだ。CDとDVDがセットになった新作EP“IGNITE”で聴くことができるのは、豪快でオーセンティックなハード・ロックや、J-Popの持つ歌謡性を強調したメロディアスなナンバー、洋楽ロックの有名曲の大胆なカヴァーと、心の赴くままに作り上げた自然体のサウンドと歌。それでもまだ23歳という、破格の才能がいよいよその本性を剥き出しにする時がやってきた。



革ジャン、ジーンズ、バイク



――今回のリード曲になっている“IGNITE”って、ハーレーダビッドソンのタイアップ曲としての書き下ろしですか?

「そうです。そのために書きました」

──太郎くんって、バイカーでしたっけ。

「いや。免許を持ってないので(笑)」

──でもジャケット写真の革ジャン姿も、“IGNITE”のハード・ロックな曲調も、めちゃめちゃ似合ってる。バイカーっぽい。

「MVにバイクが出てくるのでまたがらせてもらったんですけど〈無免許とは思えない〉って言われました(笑)。でも、たぶん俺の音楽のなかでもロックめの曲は、もともとこういうイメージだったんですよ。革ジャン、ジーンズ、バイクみたいな」

──ああ~。確かに。

「もちろんハーレーダビッドソンのブランド・イメージとか、バイクの独特の爽快感とかを表現しようと思ったんですけど、もともと近いところで曲を作っていたので。スムースに出来ましたね」

──しかも今回のEPは、最後の曲がステッペンウルフ“Born To Be Wild”のカヴァーでしょう。ということは映画「イージー・ライダー」でしょう。バイクで繋がってるな~と思った。

「『イージー・ライダー』は、3年ぐらい前に観たんですよね。今回は、DVDに収録されているものも含めて洋楽を4曲カヴァーしたんですけど、そのあとにハーレーダビッドソンの話をもらって。しかも“Born To Be Wild”が、いちばんヴォーカルの表現力がすごくストレートに歌えたと思っていたから。だから偶然なんですよね」

──そうなんだ。初めにコンセプトありきかと思った。

「違うんですよ。でももともと、車よりバイクのほうが興味があったんですよね。何でバイクに興味があったのかな?と思って考えたら、仮面ライダーでしたね。(自分と)同じ名前のウルトラマンもいたけど、それよりも俺は仮面ライダーが好きだった!って(笑)」

──いま気付いた(笑)。

「よく絵を描いてたんですよ、仮面ライダーのバイクの絵を。で、高校でやってたバンドの時に、ハーレーダビッドソンのピックを使ってたんですよね。あのマークがプリントしてあるやつ。なんか、微妙にいろんなところで繋がっているのがおもしろかったです」

──今回のEPの初回盤は、全7曲入りのCDと、いま言ってたカヴァー曲のスタジオ・ライヴ演奏も含めたDVDのセットになっていて。まず、CD収録曲に関しては?

「2013年に出したシングルも入ってるし、〈去年作った曲を入れました〉という感じです。去年はいろいろやってみようと思っていた年で、シングルで出した“鼓動”や“太陽”では歌詞を勉強したり、カヴァーをやったり。一貫性はないかもしれないけど、すごくヴァラエティーに富んでると思います」

──僕は、太郎くんとはだいたい数か月おきに会ってるけど、例えば1年前の『tremolo』の時には〈音楽的な知識を学びたい〉と言っていて、そのあと、シングルの“鼓動”の時には〈言葉の表現力を学びたい〉と言っていて。毎回テーマがあって、毎回それをクリアしてきてるのがすごく印象的で。

「音でいうと、『tremolo』でひとつ区切りがついたんですよ。曲を作った時のイメージを形にする、知識や技術が身に付いた。『tremolo』はそのための教材みたいなアルバムだったから、ものすごくいろんな幅の曲を作って、1曲1曲ものすごく細かいところまで突き詰めて。〈じゃあ次は?〉ということで、これからは言葉の研究をしたいと思って、“鼓動”の時には歌詞を突き詰めて、歌モノ寄りにして。“太陽”も同じ流れなんですよ。どちらも恋愛ソングという位置付けながら、それまで歌ってきたような、社会のなかでの孤立感をテーマに、そこに僕と君がいて……というものにして。いままで歌ってきた曖昧な部分を、“鼓動”と“太陽”でははっきり言葉にして、自分なりの歌詞の書き方のコツを掴むことができた。2曲だけですけど、何回も書き直して、凄まじい作業だったので、歌詞の勉強は十分にできたなと思ったんですよね」

──ああ。なるほど。

「いままで、お会いするたびにテーマを言っていたのは、自分ができないことをできるようにしたいということで。インディー時代のファースト・アルバム『Orkonpood』(2010年)を作った時に、自分の頭のなかのイメージをそのまま音にするのがすごく難しくて、まったくできないから勉強しなくちゃいけない、と思ったところから、毎回テーマを決めて勉強してきたんですけど。もうその流れも終わりでいいかなと思ったんですね。それは“太陽”で終わったんですよ」

──うんうん。

「で、タイミング良く、ハーレーダビッドソンからタイアップの話をもらったので。もしもそれ以前にこの話が来ていたら、〈これも勉強〉と思っていたかもしれない。でもそうじゃなく、何も考えずに作ろうと。もちろんイメージは作りましたよ。実際曲を作る前に、ハーレーの後ろに乗っけてもらったし」

──偉いね(笑)。そうなんだ。

「ハーレーの人と話した時に、強制じゃないけど、〈乗ってもらったほうがよりイメージがわかるんじゃないか?〉って言われて、それはそうだなと。イメージを作るためにそういう作業はしました。実際すぐにイメージが湧いたし、曲もサッと出来て、レコーディングもすぐに終わって、気持ち良かったですね。そこにいつもみたいなテーマはなかったし、知らないことを知ろうという気持ちもなかったし、いいものが出来たらそれで終了」

──じゃあ“IGNITE”は、これまでのまとめでもあり、新しいスタートでもあり。

「卒検って感じ(笑)。いままで学んできたことでも、必要じゃなければやらないし、そう思う前に感覚でわかるから。自然体で出来た曲だなと思います」

──それでわかった。“IGNITE”を最初に聴いた時の突き抜けた爽快さの理由が。

「なーんにも悩んでないですからね。本当に気持ち良かった」

──この曲、ツイン・ギターになってるでしょう。この絡みのカッコ良さ、ギター好きにはぜひチェックしてほしいなと。

「俺のハーレーのイメージは、どこまでも続く平坦な道を、ゆっくりドコドコ走って行くイメージなんですよ。だからリフも激しいけどある意味単調で、ずーっと同じリズムでドコドコいってるイメージで、疾走感はあるけどあんまり速くない。そこに男臭さを加えたいと思っていた時に、俺の中にX JAPANが響いたんですよ。ギター・ソロのところで、HIDEとPATAのツイン・ギターが浮かんできた」

──ああ~。そうか。

「そこまではアメリカン・ロックのイメージなんですけど、ギター・ソロでいきなりHIDEとPATAが現れる(笑)。ああいうツイン・ギターって、男の子が好きそうな感じじゃないですか」

──間違いないでしょう(笑)。

「めちゃめちゃ難しくて死ぬかと思ったけど(笑)。でも上手くいったと思うし、カッコイイな~と思います。そういうのも、全部感覚なんですよ。走って行くイメージで、わざとズレるようにラフに弾いたりして、思い付いたことを片っ端からやっていった。本当にスッキリしましたね」


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掲載: 2014年02月12日 18:01

更新: 2014年02月12日 18:01

インタヴュー・文/宮本英夫