堂島孝平 『フィクション』
[ interview ]
堂島孝平がすこぶる快調だ!──と思わせるのは、昨年末のおめでたいニュースがあったから……って、それだけではない。1年2か月ぶりとなるニュー・アルバム『フィクション』がたまらなくエネルギッシュだからだ。長年に渡ってセルフ・プロデュースで作品を編み続けてきた彼が、今作では共同プロデューサーに石崎光(cafelon)を迎えてチームを結成(共作曲も多数!)。持ち前のキャッチーさとユーモア・センスに磨きをかけながら、デビュー20周年を前にしたミュージシャンとして、38歳を迎えたひとりの人間としての覚悟が、この銀盤には刻まれているのだ!
人に委ねられるモードになったのはデカい
――すこぶる調子の良さを窺わせるアルバムですね。聴いた印象、まず感じたのは、非常に引っかかりの強いアルバムだなと。
「それ、大事ですよね。これまでいろんなものを作ってきたんですけど、ここへ来て、本当に堂島孝平を世に問いたいというか、良い音楽のムードとか、音楽のここが良いよねっていうようなポイントをみんなに問いたいっていう気持ちはすごくありましたね。自分のなかで常に新しいことに挑戦するっていうことはいままでもやってきたんですけど、今回は本当に……新しい表現っていうのを獲得できたかなと、自分なりに」
──〈最高の音楽〉というところに向かっている鉱脈を、いままであちこちから掘り下げてきたと思うんですが、今回はまたを新しい入口を発見したというか。
「好きな音楽はいろいろあって、ルーツを辿るのは好きなんですけど、ルーツ・ミュージックをそのままやろうとは思わないタイプなんですね。音楽家としての姿勢としては、いろんなところを掘り下げながらも自分自身を発見していくっていう、そっちのほう。で、もはやどこから掘り下げていってもおもしろくなるような、そういう音楽の作り方っていうのができてきたような気がするんですよね。もともとジャンルには囚われてないですけど、自分がシンガーとかパフォーマーとしてどういうふうに歌ったらいいのかとか、僕自身はそういうところに焦点が向いてて……っていうことで言うと、おっしゃるように今回は開けていなかった入口から掘り下げていったアルバムだと思うんですよ」
──世の中には良い曲を書く人はいっぱいいるし、でも、曲とサウンドが良ければそれでOKかっていうとそうでもなくて、〈いいね!〉って言える音楽はいっぱいあるんだけど、そのミュージシャンが大好きかって考えると、かなり絞られていくんですよね。
「今回は日本語っていうことを前提に、どれだけ振り幅を持たせられるかとか、踏み込んだ歌詞を書けるかとか、そういうことをすごく楽しくやったんですよ。それは〈作詞家〉として自分のなかにずっとあった気持ちなんですけど、ここまでカッコイイものになる、ここまで遊べる、ここまでクレイジーにやれる、そういうものを2014年のいまやることこそがモダンだなって思ってるところがあって。洋楽もすごく好きだし、いろいろ聴くんですけど、英語がわかる人は別として、曲が良いとかサウンドが良いとか、言ってることが何なのかわかんなくてもカッコイイって言えちゃうのって、人に置き換えたら、服装がカッコイイとか、その人が身に付けてるもののセンスがイイなっていう印象と同じだと思うんですよ。もちろん、その人が好きだっていう気持ちがそこにないわけじゃないんだけど、その人の内面とか、考えていることとか言ってることとかが響いてくると、一気に思い入れって増すじゃないですか。ヘンな話、初めてのタイミングでよくそんなこと言えるなあっていう人ほどすごくシンパシーを感じるというか。差し障りなく〈そうですよねえ〉みたいな感じよりも、ちゃんとお互いが踏み込めるような感じというか、それがたぶん、音楽における歌詞の立ち位置だと思っていて」
──今回、セルフ・プロデュースを離れて、石崎光さんとの共同プロデュースになっています。この点も作風に大きく作用しているところですよね。
「そうですね。まず、セルフ・プロデュース自体もあまり自分のなかでは新しくなくなってたっていうのがひとつと、光くんにサウンド面のアイデアだったり、作っていくという過程を踏んでもらうことで、だいぶボトムがしっかりする感覚があって。そうなることで、僕はシンガーとして表情豊かに歌えたと思うし、いままでもいろんな歌詞を書いてきましたけど、さらに大幅に飛躍したような、そういう境地にいけた感じがあるんですよね。そこに集中できたのはすごく良いことでした」
──他人に委ねるというのは、長らくセルフ・プロデュースでやってきた堂島くんにとって思い切った舵取りが功を奏したと。
「うん、人に委ねられるモードになったのはデカいことだと思っていて。自分ひとりで作るっているところに、まあ、こだわっていたし、それが『A.C.E.』『A.C.E.2』っていうアルバムでは、自分のタレントとしての適正をソングライター・チームが活かすという感覚で、セルフなんだけど自分のなかではそういうプロデュース・ワークになっていたんですね。それが今回、本当のチームになったっていう。自分が作っていようが作っていまいが、堂島孝平の歌に聴こえるっていうことが大事であってっていう、こだわっているポイントがずいぶん変わったんですね。それがセルフ・プロデュースでやってきた10年で到達した境地というか。あとは本当に、(西寺)郷太とSmall Boysをやったりとか、映画(4月より公開される『さよならケーキとふしぎなランプ』にて主演)に出たりとか、そういうのも大きかったと思います。音楽の範疇っていうのが広がって、音楽の世界に〈止まろう〉っていう気持ちではなく活動してきたことが、いまの気持ちに繋がってると思いますね。それこそ『フィクション』って言ってますけど、何者にでもなれるし、何者でもないっていうところを大きく活かしてくっていう」
──『フィクション』とはいえただの〈なりきり〉ではなくて、そこには堂島孝平の意志が通っているし、歌詞の世界観はフィクションとノンフィクションの狭間にある感じですよね。
「映画とか演劇とか、音楽もそうだと思うんですけど、フィクションで夢を見せてもらってるっていうところがみんなあるじゃないですか。ノンフィクションを生きるためのフィクションっていうか、そういうところへの愛みたいなのが、いまだったらうまく形にできるんじゃないかなって思って。だから、自分のことを言ってるようで他人のことを言ってるような、他人のことを言ってるようで自分のことを言ってるような、1曲1曲に役があるし、どの曲も自分の歌だと思うし。フィクションであろうがノンフィクションであろうが、楽しいとかワクワクするとか、そういうことのほうが大事っていう感じですかね」