INTERVIEW(3)――地球が回ってることもフィクションなんじゃないかって
地球が回ってることもフィクションなんじゃないかって
──“透明になりたい”
「今回、『フィクション』っていうタイトルを活かすべく、タイトルから考えていった曲が結構あるんですよ。この曲の真意は、やり直せたらなって思う気持ちって捨てきれないよね、みたいな。例えば僕がいま、この音楽スキルをもってデビューする新人だったらスゲェんじゃないかとか、それってやってきたことに対して自信があるから思えることなんだけど、もう1回これでやれるんだったらすごいことになるだろうなって夢を見る……そういうことって人間は捨てきれないと思うんですよね。後悔してるわけじゃないし、それは絶対叶わないってわかってるんだけど、何かになれたならって。透明になりたいっていうのは、ここからいなくなりたいっていうわけじゃないし、透けてるだけで消えるわけではない。そうやって自分のなかにちょっとしたフィクションを持ちながら暮らしてるところってみんなあると思うんですよね」
──“シリーガールはふり向かない”
「〈トンデモCD〉っていう名目で先に出してた曲で。8曲入りだったので形態上はミニ・アルバムに捉えられちゃったと思うんですけど、この曲以外はボーナス・トラックって言ってたので、実質的にはシングル。だけど、こんなところまでやるんだとか、そういうひと筋縄ではいかない、何やっててもおもしろそうにやってるみたいなことを感じてもらえたらいいなっていうことで出したものだったんですね。いまとなっては全然明かしていいことなんですけど、“シリーガールはふり向かない”以外は自分発のアイデアって一個もなくて、前川陽子さんに歌っていただいたりとか、リミックスをやったらどうですかとか、すべてスタッフが盤をおもしろくしようと思って考えたアイデアで、それに乗っかっていった作品だったんですよ。そういうことでは、人に委ねている作品であって、今回のアルバムにしっかりと伏線として繋がってますね」
──“トワイエ”
「光くんとの共作ですけど、元になるメロディーを持ってきてくれたのは光くん。これは本当に僕が作らないタイプの曲で、これだけ一音が長いメロディーはまず書かないんですよ。一音が長いということは言葉数が圧倒的に少なくなってくるので、作詞をするうえですごく大変でしたね。〈……とは言え〉と言っておきながらも最後に〈なんて言うのは冗談だ〉ってドンデン返しする歌で、そういう着想を得たものの、この少ない音符数でどうやってそれを表現できるのかっていうのが大変でしたし、〈曇天〉とか〈雷鳴〉とか、普段こんな言葉使わないよなっていうのをあえて使ってみたりして、おもしろかったですね。この曲とか、それこそ“シリーガールはふり向かない”とか“フィクションの主題歌”とかって、精神性としては大瀧詠一イズムなんです。日本語を使って、記名性の高いものを使って遊んでいく──ノヴェルティー・ソングとして、それでいてキレ味のあるポップスを作る。そういうものが大好きだし、すごくリスペクトしてるっていうところに、今回まったく意識せずに辿り着けたんです」
──“いとしの第三惑星”
「救いがあるというか……救いがあるって言っても、聴いて救われましたとかってことじゃなくて、聴いてる人にとっての余韻というか、終わっていくことで感じる気持ちの揺れとか盛り上がりを正しく導くっていう、そういう一曲だと思うんですよ。これはよく思うことなんだけど、本当に地球っていうものがあるのかなって。宇宙っていうものがあるのかどうかとか、ほとんどの人が肉眼で見たことがないわけじゃないですか。宇宙に住んでいるとか言うけど、これもフィクションじゃないかって思うんですよ。子供っぽい発言だって思われるかもしれないけど、それこそかつてガロが“地球はメリーゴーランド”って歌っていたように、そういうふうに思ってないとやってらんないっていうところもあるし、地球が回ってることとか宇宙に浮かんでることとかって肉眼で確かめたことないのにそう思って生きてるのもフィクションっぽい。だけど、それが理解できてないから生きていけないかっていうとそうじゃなくて、どういうときにそれを実感するかっていうと、こうやってお話をしてることを大事にしようって思う気持ちとか、誰かを愛する気持ちとか、人との接点を持ったときだと思うんですよね。実りのあるものをお互い持ち合わせて、その究極っていうのは男女が愛し合って子供を産むことだし、人間が、動物が伝えるべきものってそれしかない。結局、地球を大事にするんだったら目の前の人を大事にして、いま生きている人間としてやれることをやるっていうことが地球のことを思いやることになるのかなって。一見ややこしい話だけど、そこにエンドロール感があるっていうか、〈限り〉っていう感覚を覚えるし、それを大事にしていかなきゃいけないって人間として思ってて。その感覚がこのアルバムにトータルとして流れているムードだったりするのかもしれないし、“いとしの第三惑星”はそれに相応しいエンドロール、一曲だと思います」