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第2回――これがサイケなのね!

連載
ロック! 年の差なんて
公開
2008/05/15   19:00
更新
2008/07/17   19:49
ソース
bounce 298号(2008年4月25日発行)
テキスト
文/北爪 啓之、冨田 明宏


ロックに年の差はあるのだろうか? 都内某所の居酒屋で夜ごと繰り広げられる〈ロック世代間論争〉を実録してみたぞ!



僕は阿智本悟。大学卒業と同時に生まれ育った北国を離れ、先月東京(北区)に越してきたばかり。就職先に東京を選んだ理由は、ロックを感じたかったから。そう、ストロークスと出会って以来、僕はロックという熱病に侵され続けているのさ!

阿智本「……ックショイッ! グズッ。ダメだ、鼻水が止まらないや」

どうやらすっかり風邪をひいてしまったらしい。理由はすぐに思い当たった。週末になると連れ回される〈新人歓迎会〉という名の飲み会で、僕は心身共に疲弊していたからだ。その飲み会では、いつもメチャメチャ飲まされた挙句に全裸にさせられ、世間の流行から三拍半ほどズレた部長の要望により、小島よ○おのモノマネを延々とやらされる。まさに生き地獄だ。ドン引きしながらも同情の視線を投げてくる同期の女子たちの顔を、思い出すたびに死にたくなる。ああ、これが五月病なのかな?

阿智本「こんな思いをするために東京にやってきたんじゃないのに……。オイ、北区! オシャレなお店やロックなクラブはどこにあるんだよ!!」

うっ、頭に血が上ったら意識が朦朧としてきた。風邪薬のせいで少し頭がボンヤリする。でも、何だか気持ちが良いなぁ~。気がつくとフラフラとした足取りで僕は河川敷を歩いていた。と、その時!!

阿智本「こ、これは! マッシヴ・アタックの曲じゃなかったか?」

ヴァージョンは全然違うけど、絶対にあの曲だ。僕はその音楽が流れてくる方向にフラフラと近づき、看板が見えたところで足を止めた。

阿智本「〈居酒屋れいら〉!? 何だ、ボンゾさんの店か……」

前回〈こんな店、二度と来るか!〉と飛び出してきた手前、入りづらい気もする。でも、この不思議な旋律があまりにも気持ち良くて、僕は誘われるように〈居酒屋れいら〉の引き戸を開けた。

ボンゾ「っしゃい! って、お前かよ。酷いツラしやがって、大丈夫か?」

白髪のオールバックに口髭、それにレイバンのティアドロップをかけたオヤジ=ボンゾさんがそこにいた。この前のことは気にしてないみたいだ。

阿智本「そんなことよりボンゾさん。いま流れてるこの曲、マッシヴ・アタックだよね? 『Protection』の10曲目に入っていた、確か……そう、“Light My Fire”だ!」

ボンゾ「お、ちょっとは勉強してきたようだな! だが、そのマッスル・アタックってヤツは、きっとカヴァーだぜ。何せ“Light My Fire”といやぁ、ドアーズの大名曲だからな!」

ドアーズ!? 本で読んだことがあるから名前は知ってるけど、確か〈サイケデリック・ロック〉って書いてあったような。しかしこのオルガン、頭の中をグルングルン回って、スゲェ~気持ちイイィィィ!

阿智本「ほへぇ~、これがサイケかぁ~。音的にはアーケイド・ファイアとかキルズみたいな〈ダークでニヒリスティックなロック〉って感じ?」

ボンゾ「おいおい、少し聴いたくらいで知ったような口きくんじゃねぇよ。ドアーズは確かにサイケだが、哲学や文学性をロックに取り込んだバンドとして偉大なんだ。ちなみにこのアルバムは、70年のピッツバーグ・ライヴを収録した奇跡の発掘音源だ……おし!」

頭がクラクラして何を言っているのかサッパリ聞き取れない。ボンゾさんは壁に掛けてあったレコードから盤を抜き、ジャケットを僕に手渡した。

ボンゾ「西海岸サイケの真髄、ジェファーソン・エアプレインを聴かしてやる!」

ぶっひゃ~~~! モノ凄いリヴァーブ! そして、なんだこの幻想的なコーラスは! こんなロック聴いたことないよぉぉぉぉおおおおおん!

ボンゾ「ふっ、昔を思い出すぜ。ワケもわからずラヴとかピースとかいってチューリップ帽を被ってたあの頃を……って、オイオイ! お前、顔色悪すぎるぞっ!」

まったくボンゾさんたら何を言っているんだよ。僕は素直に感動しているんだ。何かこう、熱いものが下から込み上げて……いまにも溢れてきそうで……あ、れ?

阿智本「うぷっ! うぇ~~っ!!」

ボンゾ「ぎゃーっ! 俺の青春が詰まったレコードに何しやがるんだ、テメェ!! いますぐ出てけーーーっ!!!」

〈居酒屋れいら〉を追い出され、どうにかアパートまで辿り着き熱を測ってみたら、何と40℃もあったとさ。母さん、東京の生活は過酷です……。