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第12回――トム・ウェイツの似合う店

再発先生奇談

連載
ロック! 年の差なんて
公開
2009/04/23   16:00
更新
2009/04/23   17:47
ソース
bounce 308号(2009年3月25日発行)
テキスト
文/内山田 百聞


続々とリイシューされる幻の名盤や秘宝CDの数々──それらが織り成す迷宮世界をご案内しよう!



〈居酒屋れいら〉に若者が入ってきたときには、すでに意識を失くしていた。私は内山田百聞。売れない三文作家であるが、道楽のリイシューCD収集にばかり興じているゆえ、周りからは〈再発先生〉などと呼ばれている。前後不覚になるほど泥酔したのは、怪しい〈カクテル〉のせいに他ならない。だが、私は酔い潰れている間に奇妙な夢を見た。こんな夢だ。

──6つになる子供をおぶっている。確かに自分の子である。ただ不思議なことに、いつの間にか眼が潰れていて青坊主になっている。お前の眼はいつ潰れたのだと訊くと、「なに昔からさ」と答えた。子供の声に違いないが、言葉つきはまるで大人である。

「親父の懐に入ってるCDは5枚だね。ロイ・オービソンのサン移籍作『At The Rock House』(Sun/Charly)が初CD化されたのか。

そして、ニコの『These Days』(Woodstock Tapes)は未発表ライヴ音源かい? 彼女の気怠い歌声は妙に美しいよな」と背中で言った。

眼が見えないはずなのになぜわかるのか、わが子ながら少し怖くなってきた。こんなものを背負っていてはこの先どうなるかわからない。どこか捨ててしまう場所はなかろうかと向こうを見ると、闇の中に大きな森が見えた。あそこならばと考えた途端に背中の声が続いた。

「後のパンク界隈にも影響を与えたヘヴィ・メタル・キッズの74年作『Heavy Metal Kids』(Atlantic/Solid)も再発か。名前はメタルだが、ハード・ポップ的な小気味良いサウンドがイカすよな。続いては、ほほう!

ホリーズ時代から40年間の活動を総括したグレアム・ナッシュのボックス『Reflections』(Rhino)は、未発表曲も新録曲も入っていて凄いな。でも箱モノは重いよね。しかも俺を背負ってるし。いまにもっと重くなるよ、ふふん。最後はベイ・シティ・ローラーズと共に洋楽アイドル史を彩ったフリントロックか。

77年作『...On The Way』(Pinnacle/エアー・メイル)は、〈Go Goフリント~青春の夜明け〉って邦題のほうが雰囲気あるよな。でも俺の青春はもうないよ」。

雨がさっきから降っている。道はだんだん暗くなる。

「此処だ、此処だ。丁度その杉の根のところだ」──雨の中でも小僧の声はハッキリ聞こえた。私は止まった。

「お前が俺のCDを借りパクしたのは、いまから100年前だね」。

そういえば私は100年前のこんな闇の晩に、この杉の下でひとりの男からCDを借りたが、いまだに返していなかった。それを思い出した途端、背中の子供が急に重くなった……。