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第13回――プログレとRPG

連載
ロック! 年の差なんて
公開
2009/05/21   01:00
更新
2009/06/04   21:48
ソース
bounce 309号(2009年4月25日発行)
テキスト
文/北爪 啓之、冨田 明宏


ロックに年の差はあるのだろうか? 都内某所の居酒屋で夜ごと繰り広げられる〈ロック世代間論争〉を実録してみたぞ!



僕は阿智本悟。ピート・ドハーティーのような破天荒で狂騒的なロックンロール・ライフを夢見て北国から上京し、早くも1年が経過した。しかし東京で待っていたのは破天荒で狂騒的な日々ではなく、1日1回も声を発さずにひたすらコピー用紙を補充するだけの毎日。今日も最新のロンドン・ファッションを採り入れたビジネススーツでバッチリ決めて出勤したのに、〈そんな格好で会社に来やがって、仕事する気はあるのか!〉と、課長に怒鳴られてしまった。まったく、どこを見ているんだよ。ロングストールを巻いてても、ちゃんとコピー用紙の補充はできているじゃないか! 思わず、先月入社したばかりの唯一の後輩、御徒町君に愚痴っちゃったよ。へへ! でも彼、僕にだけタメ口なのは何でだろう? まあそれも、御徒町君が僕に対して親近感を抱いてくれている証拠かな? 〈話のわかる先輩だ〉と認めてくれてるってことだよね。それに引き替え、あの課長は人間ができてない! ……はいはい、今日も梅割りを飲んで忘れるか。ということで、お馴染みのロック酒場〈居酒屋れいら〉に立ち寄った。

阿智本「オッス、ボンゾさん! 梅割りとコンビーフ。マヨネーズ大盛りで!!」

ボンゾ「テメエは声がデカイんだよ、バカ坊主! 死にてえのか!!」

阿智本「注文した客に向かって〈死にてえのか!〉だなんて、どんな居酒屋だよ!?」

相変わらず、商売っ気があるんだかないんだか。白髪オールバックに口髭グラサンのボンゾさんがギロリと僕を睨んだ。

ボンゾ「うるせえ! 俺の店でお前に文句を言われる筋合いはねえんだよ!! 俺はいま、文学作品を楽しんでいる真っ最中なんだ。ちっとは黙ってろ!」

阿智本「文学作品を楽しんでる? でも本なんて読んでないじゃない!?」

店内にはやたらと叙情的で辛気臭い音楽が、さっきからずっと流れている。

ボンゾ「これだから最近の若造は……いま聴いてるアルバムは、もっとも英国らしい英国バンドとも言われているシンフォニック・プログレの最高峰、キャメルの75年作『The Snow Goose』だ。ポール・ギャリコの短編小説〈白雁物語〉をテーマにして作られた、プログレ史に残る傑作と名高い逸品なんだよ。つい先日、16曲の貴重な音源が詰まった2枚組で紙ジャケ化されたもんで、久しぶりに聴いていたってわけよ」

阿智本「あ、そう(関心ゼロ)」

ボンゾ「全編インストとは思えないこのストーリー性! そしてアレンジの妙! これぞまさに〈音の文学〉だぜ。いや~、文学って素晴らしいよな、たまには再発先生の小説も読んでみようかな。ところで小僧、プログレって何か知ってるのか?」

阿智本「う~ん、うっすらなら。曲の展開が複雑で、1曲なのに何十分もあるような、マーズ・ヴォルタみたいなロックでしょ? 知識としては知っているよ」

ボンゾ「お!? 珍しく勉強してるじゃねえか。確かにそれも間違いじゃないが、そこにもうひとつ、〈コンセプチュアルである〉ってことを付け加えておけ。そもそもプログレッシヴ・ロックというのはだな、衝動的な音楽だと思われていたロックがサイケデリック・ムーヴメントを経て、文学性や哲学性を追求しはじめた結果、ジャズやクラシックや現代音楽を取り込んでより進歩的なことをやろうと……(1時間経過)その頃、イタリアのプログレ・シーンはまさに群雄割拠の……ってテメエ聞いてんのかっ!」

阿智本「ちゃんと聞いてるよ。要するにボンゾさんは、〈生きているって素晴らしい〉ってことが言いたいんだよね?」

ボンゾ「全然違うっつうの! もういい! 語るより聴くが易し。ポチっとな」

すると、物凄く速くて複雑なシンセサイザーがスピーカーから聴こえてきた。

阿智本「え? これって〈FINAL FANTASY〉のバトルBGMでしょ? ていうか、昔のRPGのサントラってみんなこういう感じだったよね。懐かしいな~。なんだ、プログレってゲーム音楽のことだったんだね」

ボンゾ「意味不明な言葉を並べやがって! これはエマーソン・レイク&パーマーの名盤『Tarkus』だ! ゲーム音楽なんかといっしょにすんな、クソガキがっ!」

阿智本「これを聴いてたらゲームやりたくなってきちゃった。今日はもう帰るね~!」

そう言って、僕は足早に店を出た。今日はプログレが何かも理解できたし、帰って〈モンハン〉でもや~ろおっと!

ボンゾ「ク~ッ! いまのところの転調、スリリングすぎるぜ!!」



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