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第13回――プログレとRPG

再発先生奇談

連載
ロック! 年の差なんて
公開
2009/05/21   01:00
更新
2009/06/04   21:48
ソース
bounce 309号(2009年4月25日発行)
テキスト
文/内山田 百聞


続々とリイシューされる幻の名盤や秘宝CDの数々──それらが織り成す迷宮世界をご案内しよう!



私は内山田百聞。売れない三文作家であるが、道楽のリイシューCD収集にばかり興じているゆえ周りからは〈再発先生〉などと呼ばれている。

〈れいら〉を覗くにはいささか早すぎる春の午後、私は少し離れた街まで歩いて出かけることにした。一昨年から書き続けていた長編家族小説「馬の名は小犬」を昨日ようやく脱稿し、長い心労から解放されたはずであるが、穏やかな陽気とは裏腹にいまだ薄く霞がかかったような私の心であった。こんなときには爽やかな音楽を聴きたい。私の足は街にあるTレコードへと向かった。

……ああ、数多のビーチ・ボーイズ・フォロワーのなかでも最高レヴェルと言って良いマーク・エリックの69年作『A Midsummer's Day Dream』(Revue/Now Sounds/ディスクユニオン)がレア音源を追加して再発されている。彼のファルセットは天上の声の如く美しいし、夢見心地のコーラスも素敵である。

コーラスといえば、イノセント極まりない男女混声ハーモニーを聴かせてくれるフォーク~ソフト・ロック・グループ、ウィー・ファイヴのベスト盤『These Stands The Door: The Best We FIve』(Trident/Big Beat)も捨て難い。過度に甘くなりすぎない〈純朴〉と〈誠実〉の手本のような音が彼らの魅力だろう。

おお、私が秘かに〈コドモッチ・ポップ〉と名付けているジミー・オズモンドも2in1『Killer Joe/Little Arrow』(MGM/Solid)で初CD化されているぞ。どう聴いても子供以外の何者でもない声でポップ・チュ-ンを歌いまくっていて非常に可愛らしい。そのくせ妙にグルーヴ感もあったりするゆえ、ぜひいまこそ再評価を望みたい。

ジミーの幼児ぶりには及ばないものの、10代の無邪気さと勢いを爆発させていた若き日のブレンダ・ リーの歌唱をまとめた編集盤『Queen Of Rock'n'Roll』(Ace)もオールディーズ好きには見逃せないだろう。

さらに80'sネオアコの隠れた名グループ、ブルートレインの編集盤『Some Greater Love』(Plastilina/MORGAN)も出ている。ボッサありジャジーありとまさに春風のように煌めくナンバーに心が浮き立つようだ。

あっ! そのとき私は道中で何気なく買ったまま懐に忍ばせていた2つの檸檬のことを思い出し、ある悪戯を思いついた。私は手にしたCDを店のラックの上に重ねて小さな塔を作り、その頂にそっと1つの檸檬を置いてみた。あきらかに異彩を放つ風景の完成である。何食わぬ顔で店を出た私はようやくおかしな気分になって、一人で笑った。

静かな家へ帰ると、すぐに居間の仏壇に線香を立てて、写真の前に挿した桜の花かげに涼しく光るもう1つの檸檬を置いた。今日はチエコの命日だった。