現場の放熱を伝えるフレッシュなミックス
別掲したHAZIMEのミックスCDにはSOUL SCREAMの名曲“TOu-KYOu”(97年)も収録されているわけだが、そのレジェンダリーなグループで実績を残す一方、クラブではいまも最前線に立ち続けているのがMr. BEATSことDJ CELORYだ。最近はラヴァーズ・ミックスも人気の彼だが、このたび登場した最新ミックスCD『BEATS LEGEND ~BOOGIE WONDERLAND~』は日本語ラップにフォーカスしたシリーズの第3弾となる。しかも、DJ NOBU a.k.a. BOMBRUSH!とDJ DIRTYKRATES(ZeebraのDJネーム)、そしてCELORYの3人が推進するパーティー〈KUROFUNE -FLOOR INVASION TOUR-〉の充実ぶりを反映して、ここ数年のフロア・チューンを満載した内容になっているのだ。
これはHAZIMEの作品にも重なってくるテーマだが、日本語ラップがクラブでかからないという現状に対してスタートしたのが〈KUROFUNE〉である。その熱を照射して生まれたのが今回の『BEATS LEGEND ~BOOGIE WONDERLAND~』だからして、その内容はクラブの定番チューンであると同時に、イヴェントを体感していない/できないリスナーへの招待状であり、現状レポートでもあるわけだ。
日本語ラップをとりまく周囲の視線をシニカルに表現してみせたマボロシの“ジェイラップ”で始まるその内容は、続く楽曲がERONE(韻踏合組合)の“月夜に提灯”であることからもわかるように、日本語ラップ・ファン以外にはそう知られていない面々の楽曲も大盛りにしたフレッシュなものだ。そのERONEとサイプレス上野の2MCに山口リサと宏実を絡めたエクスクルーシヴ曲“Boogie Wonderland”をハイライトに据え、HAZIME盤にも収録されたAnarchyの“Fate”やRHYMESTERの“ONCE AGAIN”、DABOのフロア・アンセム“デッパツ進行”といった最新チューンも繰り出しつつ、ICE DYNASTYやPSG、SHIZOO、JBM、OJIBAH、SEI-ONE、EGOらの逸曲をナチュラルに混在させた作りは圧倒的に楽しい。メジャーとアンダーグラウンドを折衷するとかいう紋切り型の切り口ではなく、シンプルに楽曲主義が貫かれた結果としての、バラバラでキャッチーな24曲の〈現状レポート〉をキャッチしてみてほしい。
また、同時期に登場した注目すべきミックス作品をもう1タイトル紹介しておこう。グラフ・アーティストの鬼頭がDVDとCDの2枚組でリリースした『THE BALANCE MOVIE』がそれで、ジャケやロゴのデザイン、ライヴ・ペイントなどを通じて東京のシーンにコミットする彼ならではの中身になっている。交流の深い妄走族周辺の曲を中心に、CELORY盤にも抜擢されたICE DYNASTYを筆頭に5曲用意されたエクスクルーシヴが凄くて、冒頭を飾る般若とAnarchyの共演に加え、バラガキ×ZEUS×Zeebra、MACCHO×RYUZO×般若、DABO×SUIKEN……といずれも興奮必至のマッチングだ。なお、Anarchyの名曲“Fate”はここにも収録!
▼関連盤を紹介。
左から、Mr.BEATS a.k.a. DJ CELORYの2008年作『BEAUTIFUL TOMORROW』(ポニーキャニオン)、ERONEのストリート盤『ERONE覚醒 Mixed by DJ KAN』(IFK)、サイプレス上野とロベルト吉野の2009年作『WONDER WHEEL』(Almond Eyes)、山口リサの2010年作『Explosions』(plusGROUND)、宏実の2009年作『RAINBOW』(Sugabee)、ICE DYNASTYの2010年作『C.O.L.D.』(TOKYO I.C.E/Floatage Circle)、般若の2009年作『HANNYA』(昭和レコード)、BRGK & ZEUSのストリート盤『ON SIGHT MIXED BY DJ 飛沫』(KIX)