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日本語ラップの現状

DJ Mitsu the Beats

連載
360°
公開
2010/08/27   22:35
更新
2010/08/27   22:35
ソース
bounce 323号 (2010年7月25日発行)
テキスト
インタヴュー・文/一ノ木裕之

 

初の日本語ラップ・アルバムをリリース!

 

「周りからも言われて気が付いたんですが、〈日本人のラッパーのみでアルバムを出します〉って発言がとても奇異だなと。自分も日本人だし、あたりまえのことなのに、なぜ自分でそう言ってしまうのか。いままで意識して避けてきたわけではないんですが、自然に海外のほうにばかり目が向いていた証拠なんでしょうか……」。

クロスオーヴァーなサウンドも射程に捉えたトラックメイキングで海の向こうからも注目を集め、プロデュース/リミックスも数多く手掛けてきたDJ Mitsu the Beats。GAGLEでの活動はありながら、ソロ・アーティストとしての彼は日本語ラップのシーン的な文脈から距離を置き、海外のオーディエンスを常に頭に置いて曲を作ってきた。それは過去に2枚残されているソロ・アルバムの内容(とそこでのゲストの人選)からもあきらかだろう。

そんな彼が、ここにきて全編日本語ラップ(~R&B)勢との共演のもと、新しいソロ・アルバムを完成させた。殊更の意味や意図をそこに見い出したくなるところだが、彼が今回のアルバムの方向性を思い立ったのは、いわく「(日本語ラップ勢と)いっしょにやったらおもしろくなりそう」という実にシンプルな思いからだという。

「GAGLEというグループにいるのにシーンと離れた場所にいるというイメージはあると思います。でも、それが特に嫌だったわけでもなく、今回は単純に〈こんなアルバム出したらおもしろいんじゃないか?〉って思っただけなんです。やってみたいMCがたくさんいたってことも一因ではあります。あと、僕は日本のMCからあまり曲の制作を頼まれないので、それなら自分からやってみようという気持ちはありました」。

『UNIVERSAL FORCE』と題されたアルバムにフィーチャーされた世代もさまざまな面々は、いずれもMitsu the Beatsが敬愛するアーティストたちだ。精緻さを極める彼の作風からすれば、意外なほどスタイルにこだわることなく選ばれたその布陣は、さながら日本語ラップ・シーンそのものを体現するかのように、アルバム・タイトルとも重なって見える。しかし、その点に関してもMitsu自身の思いはあくまでシンプルだ。トラックに対するアプローチの面でも、基本的にこれまでのアルバムと変わることなく臨んだと彼は言う。

「直訳での意味とは違いますが、〈誰と曲をやっても自分には自分らしさしかない。そして、それはこれからも変わらない〉ということを表現できたアルバム・タイトルだと思います。意識的にはまったく変わりません。いつものビートでどんな感じになるのかという部分が楽しみだったので。ただ、常に成長したいと考えているので、いままでよりは展開やシンセなどの音源も多くなっていると思います」。

B.D.がTETRAD THE GANG OF FOURなどで活動を共にするNIPPSの声のサンプリングを伴ってアルバムの幕開けを告げる“思考品 M.T.B.D.”。環ROYと、GAGLEではMitsuとチームを組む弟のHUNGERがお互い歌うようなフックで生き抜く意志を交わし合う“昂サバイヴ”に、〈朝の月〉などをなぞらえて〈俺は俺でいたいよ〉と右へならえにそっぽ向くS.L.A.C.K.らしいチューン“孤独少年”。はたまた、〈ただスタイルの違いだけ/みんな初期衝動に違いはねえ〉とヒップホップの傘の下に人が集うシーンの一枚岩ぶりを歌うZeebraの“One Hip Hop”や、気ままなソロ・アルバムの雰囲気そのままに、ハシを転がすように全力で肩の力を抜ききってみせる鎮座DOPENESSの独壇場“ハッスル”。さらには、タイトで歯切れの良いラップがカッチリとしたビートに絶好の相性を見せるあるまとの“My Simple”。そして、他にもTWIGYやICE BAHN、SOUND MARKET CREW、RINO LATINA IIが参加したアルバムのラストを飾るのはCOMA-CHIとJAY'EDの“Precious Time”で、ここでは曲の最初と最後をノスタルジックなピアノ・ソロが繊細に彩ってみせる。これまでの作風の延長線上でDJ Mitsu the Beatsが清新なトラックメイクを響かせた『UNIVERSAL FORCE』は、フィーチャリング勢それぞれもまたいつものスタイルで音に臨み、完成を見たのだ。

「いろいろなMCとの化学反応を楽しんでほしい」――DJ Mitsu the Beatsと、彼からのラヴコールに応えたアーティストたち。そのそれぞれがそれぞれのスタイル、流儀によって交わることで普段着の〈化学反応〉が生まれえたのか? 答えはすべてここにある。

 

▼DJ Mitsu the Beatsのアルバムを紹介。

左から、2003年作『NEW AWAKENING』、2009年作『A WORD TO THE WISE』(共にPLANETGROOVE)、外部ワークスをまとめた編集盤『The Excellence II: Selected Works』(Pヴァイン)

 

▼『UNIVERSAL FORCE』参加メンツの関連作。

左から、GAGLEのミックスCD『SOREIZEN~mixed by DJ Mu-R~』(Knife Edge)、B.D.を擁するTHE SEXORCIST Presents B.D./KILLA TURNER & NIPPS/ROBERTA CRACKの2009年作『BLACK RAIN』(TAR PIT)、環ROYの2010年作『BREAK BOY』(POPGROUP)、S.L.A.C.K.のニュー・アルバム『Swes Swes Cheap』(DOGEAR)、ZeebraをフィーチャーしたDEXPISTOLSのニュー・シングル“FIRE”(ROC TRAX/tearbridge)、鎮座DOPENESSの2009年作『100% RAP』(W+K東京LAB)、TWIGYの2008年作『BABY'S CHOICE』(AWDR/LR2)、ICE BAHNの2008年作『OVER VIEW』(BBP)、SOUND MARKET CREWの2009年作『Super Circle』(GFS)、RINO & DJ YASの2009年作『LAMP EYE -Flava-』(Hibachi)、COMA-CHIの2010年作『Beauty or the Beast?』(Knife Edge)、JAY'EDの最新シングル“PRAY”(トイズファクトリー)

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