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GLO-FI/CHILLWAVE

連載
Di(s)ctionary
公開
2011/03/09   17:59
更新
2011/03/09   18:34
ソース
bounce 329号 (2011年2月25日発行)
テキスト
特別講師/青木正之

 

I グローファイ/チルウェイヴの成り立ちと特徴

 

 

今回のテーマは〈グローファイ/チルウェイヴ〉です。2009年頃から囁かれるようになり、2010年には音楽シーンを象徴する重要なキーワードとなったインディー・ロックのサブジャンルのひとつですね。その界隈に多大な影響力を持つウェブ・マガジン〈Pitchfork〉で使われたのが始まりと言われ、その後インターネット・ユーザーの間で火が点いたことによって大きなムーヴメントへと発展していきました。このグローファイ/チルウェイヴがユニークな点は、ネット発信に加え、主にカセットテープやアナログ盤で音源がリリースされていることでしょう。というわけで、CDで作品が容易に入手できるようになったのもつい最近の話。グローファイ/チルウェイヴの代名詞とも言えるアーティスト、ウォッシュド・アウトの『Life Of Leisure』(2009年9月発表)ですら、CD化されたのはリリースから1年後という状況なのです。

 

 

そんな出来立てホヤホヤのムーヴメントのルーツを辿ると行き着くのがアニマル・コレクティヴ。彼らのリヴァーブを効かせたサウンド・デザイン、ビーチ・ボーイズを彷彿とさせるメロディー、全体を覆うサイケデリック感は、グローファイ/チルウェイヴ勢に多大なインスピレーションを与えています。そして、〈ローファイ〉〈ドリーミー〉〈サイケ〉といったアニコレと共通する雰囲気によってグローファイ/チルウェイヴはカテゴライズされ、ノスタルジックで夢見心地なメロディー、チープなサウンドメイキング、全体を覆うレイドバック感、そして白昼夢を見ているかのようなサイケデリックな感覚を、各々のスタイルで表現しているのです。ただし、どのアーティストにも言えるのは、強烈に現実逃避するサイケデリックではなく、のほほんと穏やかなムードのサウンドを鳴らしているところ。そう、親近感を与えてくれる点がアニコレと異なる部分でしょうか。

ところで〈グローファイ〉と〈チルウェイヴ〉という呼び名、並記されたり別々に使われたりしていますが、実はそこに明確な線引きはないようです。同意語として扱われ、サウンドと同様かなり曖昧でぼやっとしているところも何だかおもしろいですね。