一口に〈九州〉というのもザックリしすぎて無礼な話であることはあらかじめお詫びしておくとして……記紀の時代から、九州というエリアは〈中央〉にとって、まつろわない人たちの代表であった。熊襲征伐にしろ、磐井の乱にせよ、果ては幕藩体制が整備されてからも、〈中央〉という価値観にとっては脅威であり続けたのだ……って、何のこっちゃという話ではあるが、九州は昔からそのポテンシャルを恐れられていたのである。
で、もちろん昔から音楽界にも九州ブランドはあった。70年代初頭から井上陽水やチューリップ、海援隊、甲斐バンドらの大物を次々に輩出して伝説化したライヴ喫茶・照和について知っている人も多いだろう。また、70年代後半からは〈めんたいロック〉と呼ばれるムーヴメントが博多を中心に盛り上がり、サンハウス〜シーナ&ザ・ロケッツや、ARB、THE MODS、ルースターズ、ザ・ロッカーズ(陣内孝則を輩出)らをメジャーに押し上げた。が、当時はそれもこれも中央集権下で上をめざすための動きであり、長渕剛の“いつかの少年”に象徴的なように、地方は去る場所と見なされざるを得なかったのだ。そんな状況は90年代も続き、例えば地元インディーで名を馳せたNUMBER GIRLも、〈豚骨革命〉ならぬ“水色革命”を残して東京へ向かうこととなる。言うまでもなくまだ動画サイトもなかった90年代、中央でのアピールこそが全国区へ飛躍するための最善のステップだったのだろう。
そんななか、個々のローカライズを旨とするヒップホップでは、熊本の餓鬼レンジャーが地元に軸足を置きながらブレイク。天神のRAMB CAMPらも足場を確かにして地元の現場を活気づけんとした。現在何度目かのブームが訪れたローカル・アイドルの分布もそれに通じるものがある。
外から内へ活気を呼び込むLinQの他にも、彼女らと共に「スキマの天使ちゃん」にレギュラー出演するミスキャン・ユニット=CQC's、さらには昨年メジャー・デビューしたQunQun、先達のHRなど、福岡だけでもすでに激戦状態。大分にはCHIMO、熊本には熊本アイドルプロジェクトと、ブームも手伝ってアイドル集団は急増しており、九州全体が戦国時代の様相を呈している。いまは東京目線で便宜上ローカルという言葉を使っているわけだが、そんな価値基準すら覆しかねない痛快な勢いが九州勢に、というか何よりLinQにあるのは事実だ。
▼関連盤を紹介。
左から、チューリップの72年作『魔法の黄色い靴』(ビクター)、長渕剛の89年作『昭和』(EMI Music Japan)、NUMBER GIRLの97年作『SCHOOL GIRL BYE BYE』(automatic kiss)、餓鬼レンジャーの98年作『リップ・サービス』(Pヴァイン)、CQC'sのニュー・シングル“ふわふわプレシャス!”(ハピネット)、QunQunの2011年のシングル“プラネタリウム”(ユニバーサル)