ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、今回は、名盤『Merriweather Post Pavillion』より3年以上を経ていよいよ到着したアニマル・コレクティヴのニュー・アルバム『Centipede Hz』について。彼らが生み出す摩訶不思議なサイケ感は、いったいどこからやってきたのだろうーー。
この連載で、何百回とサイケが好きだと言っておりますが、アニマル・コレクティヴのサイケ感はちょっと他のサイケとは違うかなと思っていて、そこがいいなと。
ダーティ・プロジェクターズやベイルートといった、新しいサイケと言ったらいいんでしょうか、それともアート・ロックと言ったらいいんでしょうか、とにかくこういった新しいバンドは、〈どうやってこんな音楽考えるの?〉と驚かされながらも、何となくバックグラウンドが見えたりするんですけど、アニマル・コレクティヴは完全に、〈この人たちのルーツはどこ?〉と思ってしまうのです。そして、そこがかっこいいなと思います。
ディアハンターのブラッドフォード・コックスなんかはレコード屋の100円のコーナーからおもしろそうなCDを見つけるそうなんですけど、アニマル・コレクティヴの場合はレコード屋というより、町の古道具屋の片隅に捨てられたようなレコードから自分たちの音楽を探しているような気がするんです。そういう古道具屋にはわけのわからない民俗音楽のレコードが埃をかぶってますよね。そういう雰囲気から〈彼らの音楽は民俗音楽っぽい〉と言われたりするんじゃないでしょうか。でもぼくは、彼らの音楽とは本当に何のルーツも持たない音楽なんじゃないかと思っているのです。今回のアルバムのインタヴューで、〈クンビアとか好きだよ〉と言ってますけど、どの曲にクンビアっぽい部分があるというのでしょう。
彼らにとって音楽とは、彼らの3作目『Campfire Songs』のレコーディングで大活躍したミニディスクと安くって高性能なマイクロフォンと同じ、ただのおもしろいおもちゃでしかないのです。民俗的な意味や文化的背景なんか、どうでもいいことなのです。
アニマル・コレクティヴと同郷であるジョン・ウォーターズとすごく似ているかもしれません。彼が監督した「ピンク・フラミンゴ」などの過激な映画は、アホな評論家にかかれば〈政治的でなんたらかんたら〉みたいに語られるかもしれませんが、ジョン・ウォーターズの映画というのは基本、おもしろかったら何でもいいんじゃない?という姿勢だけで作られています。
アニマル・コレクティヴの音楽もまさにこれなんじゃないかと僕は思ってます。〈このCDをサンプリングして、ちょっとフィルターかまして、ループさせたらおもしろいビートになったんだけど、これに音を足していかない?〉〈いいね〉みたいな感じで作られていっていると思うのです。
ブライアン・ウィルソンがビートルズの『Rubber Soul』に衝撃を受けて『Pet Sounds』を作ったことなどとは完全に無縁なところにアニマル・コレクティヴはいると思うのです。いまはメンバー全員、いろんな場所に住んでいますけど、例えばボルティモアの田舎で、情報もなく自分たちの好きな音楽を作っていたら、とんでもなく変なものが出来上がったみたいな良さが、アニマル・コレクティヴにはあると思うのです。ジョン・ウォーターズの映画といっしょです。このネット時代にそんなことが可能なのかどうなのかわからないですけど、アニマル・コレクティヴの音楽には自分たちのおもちゃ箱から、誰に指図も受けずに、自分たちの好きなものを取り出し、自分たちの音楽を作ったおもしろさがあると思うのです。
そんな突拍子もない音楽なんですけど、歌が、メロディーがしっかりしているのがいいなと思います。家の裏庭で変なおもちゃを作っているけど、毎週日曜日はちゃんと聖歌隊に通って歌の練習はしていたみたいな。
名盤『Merriweather Post Pavillion』からの新作『Centipede Hz』は、前作がサンプリングなどで音を詰め込みすぎたせいか、よりシンプルな作りになっています。いままで彼らの音楽を聴いて、ビーチ・ボーイズやビートルズを思い浮かべたことはなかったんですが、今作はちょっと、〈おっ、ビーチ・ボーイズのコーラスっぽいな〉とか、音に空間が出来た感じが『Revolver』の頃のビートルズっぽいなと思ったのですが、どうでしょうか? XTCっぽい部分もあるかなとも思いました。いままでのどのアルバムよりも、アニマル・コレクティヴのライヴみたいな感じだという気もします。
でも、やっぱり変ですよ、アニマル・コレクティヴは。「ヘアスプレー」「クライ・ベイビー」で普通になったようでも、どこか変だったジョン・ウォーターズの映画のように。