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Nataly Dawn『How I Knew Her』

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/03/22   15:58
ソース
intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)
テキスト
text:五十嵐正

かくして彼女は発見された! 才気爆発のシンガー・ソングライターがソロデヴュー

ナタリー・ドーンの待望のソロ・アルバムの登場だが、ポンプラムース(Pomplamoose)の片割れと言っても、わかってもらえない? でも、Youtubeを楽しむ習慣のある方なら、ビヨンセの《シングル・レイディズ》、レディ・ガガの《テレフォン》、EW&Fの《セプテンバー》などのヒット曲を2人だけの多重録音による機知に富んだポップ感覚いっぱいの冴えた編曲でカヴァーし、分割画面を巧みに使って編集したヴィデオのどれかを観たことがあるはず。ナタリーとパートナーのジャック・コンテの「ヴィデオ・ソング」の数々はインターネットでヴァイラル・ヴィデオとなり、《シングル・レイディズ》にいたっては現在までに視聴回数が980万回を超えている。

そのナタリーがソロ・アルバムの制作を発表し、クラウド・ファンディングのキックスターターで資金を募ると、すぐに目標額の2万ドルに達し、結局10万ドル以上が集まった。そしてノンサッチ・レコードが契約を申し出て、この2月に遂に発売となったのだ。

このアルバムもジャックがプロデュースを担当しているが、ポンプラムースとはかなり異なるサウンドになっている。敬愛するトム・ウェイツ愛用のスタジオで、広い部屋にデイヴィッド・ピルチやマット・チェンバレンなどの腕利きを集めたバンドと一緒に入って、ライヴに近い形で録音。そして数曲にホーンやストリングスが効果的に加えられた。

ジャズやロカビリー、カントリー、はたまたシャンソン(宣教師の娘の彼女は仏やベルギーで育った)などの影響も窺えるフォーキーでポップなサウンドで歌われるのは、ポンプラムースのからかい半分のユーモアに溢れた音楽のイメージとは違う私的で内省的な作品である。だが、ナタリーの歌唱には真摯さとお茶目さとひねったところが同居する。その快活な調子と心地よい歌声はそこにある悲しみや時に辛辣さをあからさまにせず、繰り返し聴くことで、その味わいが増していく作品にしている。