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映画『ウォーム・ボディーズ』

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公開
2013/09/13   18:00
ソース
intoxicate vol.105(2013年8月20日発行号)
テキスト
text:村尾泰郎 ©2012 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved


ゾンビにも愛を!
 「オール・ユー・ニード・イズ・ラヴ」な想いに貫かれた愛の物語

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吸血鬼(『トワイライト』)に続いて、ゾンビにも愛の季節が訪れた。『ウォーム・ボディーズ』は、ある日突然、恋に目覚めてしまったゾンビ男子の物語だ。近未来のアメリカ、謎のウィルスのせいで世界中にゾンビが溢れて、生き残った人間達は高い壁で囲まれたシェルターに住んでいる……というのは、ゾンビ映画お決まりのパターン。でも、この映画は、ゾンビの独白から始まる。ゾンビ男子のR(ニコラス・ホルト)は、自分がなぜゾンビになったのか、そもそも自分の名前さえもまったく思い出せない。ゾンビ友達のM(ロブ・コードリー)と話をしようと思っても、お互いにまともなコミュニケーションをとることもできず、「うー」とか「あー」とか唸るだけ。やることといえば、のろのろとその辺を歩いたり、ねぐらにしている空港から街へと遠征して〈食料〉を調達するくらい。そんな冴えないゾンビ・ライフをぼやくRは、身体こそゾンビだが内面はフツーの高校生だ。でも、腹が減ったら遠慮なく人を食べるあたりは、油断ができないところ。Mや仲間たちと街にやって来たRは、人間達を見つけるとためらわず襲撃。まんまと一人の若者を捕まえて、人体のならでもっとも美味なパート=脳にかぶりつく。脳を食べると被害者の記憶が伝わってきて、記憶を失ったゾンビたちにとっては、それがたまらない喜びなのだとか。そして、さらなる獲物を探そうとした瞬間、ショットガンを構える美しい少女、ジュリー(テリーサ・パーマー)を見て胸の奥で何かが脈打った。それは食欲以外の激しい衝動。Rはシェリーを守るためにゾンビのフリをさせて、自分が寝起きしている飛行機につれて帰る。そして、始まる〈ゾンビ・ミーツ・ガール〉のラヴストーリー。

ゾンビ映画の生みの親、ジョージ・A・ロメロ監督は、スーパーで買い物をするくらいしか楽しみがない無気力な人々の暗喩としてゾンビを生み出したが、『ウォーム・ボディーズ』もそこは承知していて、Rはアイデンティティを見出せずに退屈な日常を送っている若者の象徴。メイクもゾンビというよりゴスっぽくて文系男子の匂いが漂っている。そんなRが心惹かれるジュリーは、生き残った人間を束ねているリーダー、グリジオ大佐(ジョン・マルコヴィッチ)の一人娘というサラブレット。いってみればお堅い校長先生の娘みたいな立場で、本作には学園ドラマのクリシェがしっかりと息づいているというわけだ。二人は飛行機内のRの部屋で共同生活を始めるが、Rはアナログ・レコードが好きで(違いがわかるゾンビ!)、気持ちがうまく伝えられないRは音楽をかける。なかでも印象的なのが、ロマンティックな雰囲気のなかでかけられるブルース・スプリングスティーン《ハングリー・ハート》で、〈人肉じゃなくてハートに飢えているんだ!〉というRの心の叫びが伝わってくるようだ。

Rとジュリーは二人で親密な時を過ごして心を通わせるようになるが、ジュリーはシェルターに帰ることになり、Rは彼女に重大な告白をする。実はRが食べた人間はジュリーの恋人だったのだ。そして、きまずい別れ……。映画の後半は、Rがジュリーを追って人間のシェルターに忍び、『ロミオとジュリエット』ばりの禁じられた恋が展開していく。そんななか、Rが人間に見えるように、ジュリーと女友達がRにメイクして「意外とイケメンじゃない!」なんて盛り上がるあたりは女子の妄想もたっぷり。Rを演じるニコラスは12歳の時に『アバウト・ア・ボーイ』(02)でヒュー・グラントと共演、その後、ファッション・デザイナーのトム・フォードの初監督作『シングルマン』(10)に抜擢されて、フォードのキャンペーン・モデルを務めるなど、ゾンビになっても美しい男なのだ。Rはジュリーを愛すれば愛するほど人間らしさを取り戻して、血行もよくなってイケメン度がアップしていく。〈ゾンビと人間は仲良くなれる〉、そう信じるRとジェリーの願いは人々に届くのか。さらに自分自身を食べてしまって感情すら失ったゾンビたち=〈ガイコツ〉たちがRとジェリーの命を狙い始め、人間、ゾンビ、ガイコツ、三つどもえの争いのなかで物語はクライマックスを迎える。

監督は『50/50 フィフティ・フィフティ』で注目を集めたジョナサン・レヴィン。カンニバルな残酷描写は控えめにして、血や内蔵が苦手な人にも楽しめるラヴコメ・ホラーとしてポップに作り上げている。そのぶん、生粋のホラー・ファンにとっては(いろんな意味で)喰い足らないところもあるかもしれないが、これまでゴキブリみたいに扱われてきたゾンビが、これほど温かな眼差しで描かれたことに胸を撫でおろすファンもいるだろう。また不器用に愛を求めるRの姿は、友達を求めて不幸な結末を招いたフランケンシュタインを思い出させたりもして、〈異形のもの〉の悲しみの系譜も本作のエッセンスになっている。ともあれ、映画では流れなかったけど、本作は「オール・ユー・ニード・イズ・ラヴ」な想いに貫かれた愛の物語。愛は人を滅ぼすこともあるけれど、死者を甦らせることもできるのだ。



映画『ウォーム・ボディーズ』
監督・脚本:ジョナサン・レヴィン『50/50 フィフティ・フィフティ』
原作:アイザック・マリオン「ウォーム・ボディーズ ソンビRの物語」(小学館文庫)
音楽スーパーバイザー:アレクサンダー・パトサヴァス
音楽:マルコ・ベルトラミ/バック・サンダース
出演:ニコラス・ホルト『ジャックと天空の巨人』『シングルマン』/テリーサ・パーマー『アイ・アム・ナンバー4』『魔法使いの弟子』/ジョン・マルコヴィッチ『マルコヴィッチの穴』/他
http://dead-but-cute.asmik-ace.co.jp/
配給:アスミック・エース(2013年 アメリカ 98分)
◎9/21(土)シネクイント他全国ロードショー



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