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第68回――回り続けるスピナーズ

連載
IN THE SHADOW OF SOUL
公開
2013/11/20   00:00
ソース
bounce 360号(2013年10月25日発行)
テキスト
文/林 剛


デトロイトからフィラデルフィアへ車輪を走らせ、メンバー・チェンジもバネにして大きな成功を収めたスピナーズ。強力なリードと豊かなハーモニーに織り成された流麗で優美な名曲の数々を、名作揃いのアルバムで振り返ってみましょう!!



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ゴスペラーズがカヴァー・アルバム『ハモ騒動~The Gospellers Covers~』に先駆けて発表した“太陽の5人”がフォー・シーズンズの66年ヒットを日本語詞で歌ったものとして話題になっている。が、聴いてみれば、そのディスコティークなアレンジやクインテットの形態も含めて、スピナーズが79年にメドレーで披露したヴァージョンを意識したことは明白だろう。黒人ヴォーカル・グループを愛する彼ららしいアプローチだが、そのようにスピナーズは日本のソウル・リスナーなら足を向けて寝られない存在かもしれない。とりわけ、流麗なフィリー・サウンドをバックに歌った“Could It Be I'm Falling In Love”(72年)は〈フィラデルフィアより愛を込めて〉という邦題でも親しまれている。そのせいかフィリー出身のグループと勘違いされることも少なくない。が、そもそもスピナーズという名前は、自動車のタイヤに付ける回転盤(スピナー)から取ったもの。結成地は自動車の街、デトロイトの近郊だった。

母体は50年代半ばにハイスクールの仲間で結成された4人組のドミンゴーズ。ドミノズとフラミンゴスを合体させたという名前が伝えるように、スタートはドゥワップからだった。何度かのメンバー交代を経て地元でギグを始めた彼らは、やがてスピナーズと改名し、61年にハーヴィ・フークワ主宰のトライ・ファイと契約している。当時のメンバーはテナー担当のボビー・スミス、ビリー・ヘンダーソン、ジョージ・ディクソン、バリトン担当のヘンリー・ファンブロー、ベース担当のパーヴィス・ジャクソンの5人。トライ・ファイからはフークワとその妻であるグウェン・ゴーディ(ベリー・ゴーディJrの姉)が共作したドゥワップ調のバラード“That's What Girls Are Made For”(R&Bチャート5位)など4枚のシングルを発表する。だが、経営悪化によりレーベルが倒産し、スピナーズは同社のカタログを買収したモータウンに移籍。この頃には徴兵によるメンバー交代もあった。

フークワとの縁もあって運良くモータウン入りした彼らだが、シングルを出すことができたのは入社から1年ほど経った64年秋。65年には“I'll Always Love You”のヒット(R&B8位)が誕生するも、アルバム・デビューは、そこからさらに数年を経た67年のことだった。が、無理もない。当時のモータウンにはテンプテーションズやフォー・トップスといった強力なライヴァルがいたのだ。不運にもメイン・アクトから外された彼らは、67年、途中加入していたチコ・エドワーズに代わってGC・キャメロンを迎え入れると、(二番手以下のアーティストが所属する)傘下のV.I.P.に移動。ここからはGCがリードをとった“It's A Shame”が70年にR&B4位のヒットを記録するが、その直後、LAに本社移転を始めていたモータウンと決別する。ただ、(フークアと離婚後の)グウェン・ゴーディと結婚していたGCは、妻の手前もあってモータウンにソロ・シンガーとして残ることになる。

一方、モータウンで評価の低かったスピナーズの実力をいち早く見抜いていたのがトム・ベルだった。デルフォニックスやスタイリスティックスを手掛ける前にフィラデルフィアの〈アップタウン・シアター〉で専属ピアニストをやっていたベルは、同劇場で出会ったスピナーズの洗練されたハーモニーに惹かれていたという。こうして、同郷のアレサ・フランクリンの後押しもあって(!)アトランティックと契約した彼らは、GCの後任にフィリップ・ウィンを招聘。フィリップとボビーを二枚看板のリードとしたスピナーズは早速ベルの根城であるフィラデルフィアのシグマ・サウンド・スタジオに送り込まれ、“I'll Be Around”(R&B1位)を皮切りに、フィリー・ソウルの上昇気流に乗ってヒットを連発していく。ポップでマイルドなトム・ベル・サウンドの体現者となった彼らは、ベルが手掛けたエルトン・ジョンのフィリー録音作にもコーラス隊として参加することになった。

だが、70年代後期にはフィリップの体調不良などもあってジョン・エドワーズが新リードに迎えられ、やがてトム・ベルもプロデュースから外れてしまう。それでも新たにマイケル・ゼイガーと組んだ彼らはNYのディスコ・ムーヴメントと歩調を合わせ、冒頭で触れたフォー・シーズンズのカヴァーなどで人気を維持。80年にはサム・クック・フォロワーであるジョンの唱法を活かした『Love Trippin'』という名作も放っている。以降もジェイムズ・エムトゥーメイ&レジー・ルーカスやフレディ・ペレンと快作を残し、元メンバーのフィリップが他界する84年までアトランティックとの関係は続いた。以後はミラージュやヴォルトなどから作品を出すもリリースは減っていき、現在、全盛期メンバーの大半は鬼籍に入ってしまったが、ライヴを中心に活動は続けている。デビューから半世紀超、スピナーはいまも回転中。そして、過去の名曲たちもターンテーブルやCDプレイヤーでグルグルと回り続けているのだ。



▼関連盤を紹介。
左から、ゴスペラーズの2013年作『ハモ騒動 ~The Gospellers Covers~』(キューン)、スピナーズの初期アンソロジー『Truly Yours: Their First Motown Album With Bonus Tracks 1963-1967』(Kent)、スピナーズ参加の“Are You Ready For Love”を収めたエルトン・ジョンのベスト盤『Greatest Hits 1970-2002』(Mercury)、GC・キャメロンの2009年作『Enticed Ecstasy』(Old School)