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女性ラップの魅力と効能

Y.I.M

連載
360°
公開
2014/04/09   18:00
更新
2014/04/09   18:00
ソース
bounce 365号(2014年3月25日発行)
テキスト
インタヴュー・文/出嶌孝次


ジャイアンのYours Is Mine精神に則るわけでもない、普通で不思議な2MCの世界



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ギリ昭和生まれの2MC、あすちゃん(写真左)とオミール(右)によって2011年に結成されたY.I.M。局地的に話題の〈SCUM PARK〉などのイヴェント出演をはじめ、多い時には月に5〜6本のライヴを行いながらマイペースに動いてきたコンビが、初の音源集となるEP『Y.I.M』を完成させた。もともと高校の同級生ながら「高校のときは別に仲良くなかったんですけど、卒業してからのほうがずっと遊んでて……」(オミール)、「同じところでバイトしたり、タイミングとかいる場所が合ったというか。高校の時の友達とかもこの2人でやってることはちょいちょい知ってるみたいで。何でこの二人で、何でラップなの?ってウケてると思います(笑)」(あすちゃん)という2人。そもそも音楽に特段の興味があったわけではなく、ラップ・デュオという形態もたまたま生まれたそう。

あすちゃん「よく2人で企画とかを手伝うことが多くて、舞台の設営を2人でしてみたり、その時はアニメーションの制作の手伝いを2人でしてて……鬱憤が溜まってたんですよ。人の家で毎日徹夜とかが続いておかしくなってきて(笑)、家主がいない間に作業しないでずっとラップしてたんです、愚痴ラップ。それを聴いた家主の人がおもしろがってトラックをつけてくれて、それが始まりですね」

オミール「何か悪い言葉を言いたかったんですよ、〈マザーファッカー〉とか(笑)」

「その少し前からオミールが〈ラップやるわ〉って言って勝手にうちの留守電にラップを残したりはしてたんですけど。その時に作った愚痴ラップのひとつが、EPにも入ってる“KONSAI”です。コンビニのメシばっか食わせやがって!って、栄養のあるものが食べたいという鬱憤の歌で」

「音源を聴いた周りの友達がおもしろがって、バーとか貸し切ってやる身内のパーティーとかで、ふざけて〈何曲かやってよ〉みたいに頼まれてやってたら、それを観に来てた違う友達が〈こっちのライヴハウスでもやって〉ってなって、どんどん繋がっていった感じですね」

そうした縁から出会った8gmtxやRAP BRAINSのI-TALがトラックを制作(4skoobはあすちゃんの地元の後輩だそう)、今回のEPには活動初期からあったという「わかりやすいシリーズ」(あすちゃん)の7曲(とスキット)が収録。「トラックを貰って〈お前の物は俺の物〉って口ずさんでたら、それがグループ名になった感じです」(あすちゃん)というロウな“Y.I.Mのテーマ”を筆頭に、ジューク+ファンキっぽい“おなかに太陽”、808アーバンな“炭鉱deダンス”など多様なビートはどれもユニークでかっこいいが、「めちゃめちゃかっこいいトラックを無視する」(あすちゃん)2人のラップはさらに自由なものだ。

「いちばん最初は口から出たフレーズを〈いまのいいよね〉みたいに、ふだん話してるくだらない会話とかからキーワードを決めて、じゃあ〈○○の曲にしよう〉って宿題みたいにして」

「フックから最初に出てきた曲はサーって作れるんですけど、先にテーマだけ決めてやると、うまく着地しなかったりする。“パンケーキ”とか“classA”とかはすぐ出来ましたね」

「“classA”はダラダラ話してたら〈胸でかくねーから家でたくねー〉っていうワードが出てきて、それでいちばんちっちゃい焼酎ビッチも呼んで歌にしようぜ、って。私がAで、あすちゃんはCぐらいなんですけど」

「私は妹が超デカいんで、その差の話ですかね」

「ただ、それに文句があるとか、男の人から見てどうこうじゃなく、開き直って単純に私の身体を紹介してるだけですね。ふ〜ん、だから?って」

いわゆる〈女性ならではの視点で云々〜〉というラベルを貼りやすい感じでもなく、そこから逃れようとするのでもなく、日常の不満や安易な〈あるある〉を並べ立てるわけでもない。オミールはキミドリの“自己嫌悪”が好きだというが、「ああいう感じの歌詞が好きなんですが、私が書くと物凄く暗くなってしまうので気を付けています(笑)」とのこと。意味のないことを淡々とタイトに吐くこの空気感はちょっと他にない感じだし、それゆえに彼女たちのパフォーマンスはジワジワ評判を広げているのだろう。

「初めてのお客さんとか、たまたま観た人が〈おもしろかった〉って言ってくれたり、歌ってる時に爆笑しながら観てたりすると嬉しいですね。ちゃんと歌詞を聴いてくれて」

「それまで友達とかその友達とかが観に来る感じだったんですけど、最近は知らない人がライヴに来てびっくりしてます。まったく知らない人がY.I.Mを知ってるっていう」

「ライヴした時にお客さんがノッてくれるほうが、反応が目に見えて嬉しいじゃないですか、だから一時期は〈そういう曲を作りたいね〉って言ってたこともあるんですけど、意識しちゃうと全然おもしろくなくなって。いまは、人の目を気にしないで作ったほうが自分たちが出るって思ってます」



▼Y.I.Mが客演している、GnyonpixのニューEP『EpiDeMic EP』(オモチレコード)