ダウスゴー&シアトル響~マーラー:交響曲第10番(クック版 1976年第3稿)
1911年にマーラー(1860-1911)がこの世を去った時、遺された「第10交響曲」のスコアは断片的なもので、ほぼ完成していた第1楽章を除くと、他はどれも大まかなスケッチの状態でした。未亡人となったアルマは、この曲を完成させるべく何人かの作曲家たちに作品の補筆を依頼し、様々な版が成立します。その中でもとりわけ広く知られているのが、イギリスの音楽学者デリック・クック(1919-1976)による補筆版であり、1960年に初演された“第1稿”(マーラーの生誕100年を祝してBBCのラジオで放送された)は完全な形でなかったことと、事前にアルマの承諾を得ていなかったこともあり、一旦はアルマによって出版、上演が禁止されてしまいます。しかし、その3年後に、亡くなる前のアルマが態度を軟化させたため、1964年に第2稿の上演が可能となりました。そして1972年にその改定稿である「第3稿」が初演され、1976年にはスコアも出版、ウィン・モリスが指揮したレコードの評判も伴って、この「クック版」の存在が多くの人に知れ渡ることになるのです。
このクック版第3稿を用いたシアトル響の首席客演指揮者ダウスゴーによる演奏は、スタイリッシュで洗練されたものであり、ダウスゴー自身が執筆したブックレット(英語)に、マーラーの自筆譜に添えられたアルマへの言葉についての考察も詳細に記された通り、「マーラーのアルマへの思い」を汲みあげた愛情豊かな演奏としても評価されるでしょう。(ナクソス・ジャパン)
1903年に最初の演奏会を催して以来、すでに百年以上の歴史をもつシアトル交響楽団は、第二次世界大戦中に戦火を逃れて新大陸に渡ってきたトーマス・ビーチャムがシェフを務めたことで、プロフェッショナルとしての能力を格段に高めました。1985年から2001年までオーケストラを率いたジェラード・シュウォーツは、デロス・レーベルに精力的にレコーディングを行ない、楽団の名前を世界中に知らしめます。特にハワード・ハンソン、アラン・ホヴァネスといったアメリカの作曲家を積極的に録音し、その真価を世界に問うたことで音楽ファンの注目を集めました。現在の音楽監督は、フランス人のルドヴィーク・モルローです。
スウェーデン室内管弦楽団を振ってベートーヴェンやシューベルト、シューマンの交響曲はもちろんのこと、ワーグナー、ブルックナー、ブラームス、チャイコフスキー、ドヴォルザークの作品まで、実にスタイリッシュな音楽を聴かせてくれるデンマーク人のトーマス・ダウスゴー。その一方で、デンマーク国立放送交響楽団とともに故国の作曲家の作品を積極的にレコーディングしてきた点は、シュウォーツとの親近性を感じさせます。そのダウスゴーの師匠は、わが国が誇る至宝、小澤征爾。若き日にタングルウッドで薫陶を受けたそのダウスゴーが、その師匠がもっとも得意とするマーラーの音楽をどんな風に料理してくれたのか。興味が尽きない最新ライヴ録音です。
(タワーレコード)
【収録曲目】
マーラー
交響曲 第10番(クック版 1976年第3稿)
【演奏】
トマス・ダウスゴー(指揮)
シアトル交響楽団
【録音】
2015年11月19.21.22日、シアトル、ベネロヤ・ホール、ライヴ
カテゴリ : ニューリリース
掲載: 2016年08月24日 23:46