モスクワ音楽院よりユーディナのモーツァルト、シューマン、ヒンデミット作品集発売!
モスクワ音楽院レーベルからロシアの伝説的な女性ピアニスト、マリア・ユーディナ(1899年9月9日(ユリウス暦8月28日)~1970年11月19日)の貴重な録音集が一挙3タイトル発売されます。
ユーディナは1912年にペトログラード音楽院に入学。同級生には大作曲家のショスタコーヴィチ(1906~1975)、名ピアニストのソフロニツキー(1901~1961)がいました。そしてベートーヴェン直系のテオドール・レシェティツキーに師事したアンナ・エシポワにピアノを学びました。1921年に同音楽院を金メダルを得て卒業すると、古典的なレパートリーだけでなく西欧の20世紀音楽なども積極的に演奏し、同時に演奏会で十字を切るしぐさをするなど、ロシア正教への信心も隠そうとせず、旧ソ連当局から睨まれ、演奏活動や教育活動の停止を命じされることもあったと伝えられています。
このように反体制的な言動が目立ったユーディナですが、当時の独裁者スターリン(1878~1953)が彼女の演奏の熱烈なファンだったことで、様々な面白いエピソードが残っています。例えば、今回のモーツァルト作品集(SMCCD0242)に収録されたモーツァルトのピアノ協奏曲第23番は、スターリンのリクエストにより録音されたものです。ある晩、スターリンはラジオ委員会に電話をしました。「昨夜、ラジオでマリヤ・ユーディナの演奏するモーツァルトのピアノ協奏曲を聴いたのだが、この曲が収録されたレコードはあるか」。この問いに、ラジオ委員会はすぐに「はい、もちろんです」と答えます。答えを聞いたスターリンは、翌日、郊外の別荘にそのレコードを届けさせるようにと命じるのですが、その後、ラジオ委員会は大パニックに陥ったのでした。なぜなら、実際にはレコードなど存在しなかったからです。すぐにマリヤ・ユーディナが呼び出され、オーケストラが集められ、その日の夜中にレコーディングが始まりました。そして翌日、スターリンのためだけに、大急ぎで作ったたった一組のレコード(当時は片面約4分収録のSPレコード)が出来上がったということです。
ユーディナは卓越したテクニックとスケールの大きな構築性で知られ、その芸術は徹底的に個性的でした。力強く強烈な表現力と、繊細な抒情性や深い瞑想を合わせもち、バッハから同時代音楽まで独自の芸術境を聴かせました。今回、モーツァルト、シューマン、ヒンデミットの作品集が発売されることで、はからずも18世紀の古典派、19世紀のロマン派、20世紀の新古典主義の音楽を彼女の演奏で味わうことができる訳です。
何れもモスクワ音楽院に保管されていた音源からのCD化であり、モノラル録音ながら過去最高の音質が期待されます。
なお、モーツァルト録音集に含まれるヴァイオリン・ソナタ イ長調K.526(1951年10月13日録音)は今回が初リリースとなるものです。ヴァイオリンのマリーナ・コゾルポヴァ(1918~1978)はモスクワ音楽院に学んだヴァイオリニストで、1937年にブリュッセルで開催されたイザイ国際コンクールに旧ソ連代表として派遣され、第5位に入賞しています。ちなみに、この時の優勝はダヴィッド・オイストラフ、第3位はエイザベータ・ギレリス(ギレリスの妹、コーガンの妻)、第4位はボリス・ゴールドシュタイン、第6位はミハイル・フィフテンホルツと、第2位のリカルド・オドノポゾフ(オーストリア)を除いて、上位はソ連勢が独占したのでした。コゾルポヴァは1942年より母校の講師となり、1967年には教授となりました。ヴァイオリニストとして残した録音は極めて少なく、このモーツァルトは極めて貴重な録音と言えます。
(タワーレコード 商品本部 板倉重雄)
【曲目】
マリア・ユーディナ モーツァルトを弾く
モーツァルト(1756-1791):
[CD 1]
ピアノ・ソナタ第14番 ハ短調 K.457
ピアノ・ソナタ第6番 ニ長調 K.284 (K.205b)(#)
ピアノ・ソナタ第8番 イ短調 K.310 (K.300d)
ピアノ・ソナタ第11番 イ長調 K.331 (K.300i)
[CD 2]
ピアノのための幻想曲 ニ短調 K.397 (K.385g)
ピアノのための幻想曲 ハ短調 K.475
ヴァイオリンとピアノ・ソナタ イ長調 K.526(*)
ピアノ協奏曲第23番 イ長調 K.488(+)
【演奏】
マリア・ユーディナ(ピアノ)
マリーナ・コゾルーポヴァ(ヴァイオリン(*))
ソヴィエト国立交響楽団(+)
アレクサンドル・ガウク(指揮(+))
【録音】
1951年10月6日(無印/#)、1951年10月13日(*)、ライヴ、モスクワ音楽院小ホール(無印/#/*)
1947年7月9日、スタジオ、モスクワ(+) モノラル、ADD
(*)(#)初出音源。
【曲目】
マリア・ユーディナ シューマンを弾く
シューマン(1810-1856):
クライスレリアーナ(ピアノのための)Op.16
ピアノのための幻想小曲集 Op.12 から 夕べに(No.1)
森の情景(ピアノのための)Op.82 から 予言の鳥(No.7)
ピアノのための幻想曲 Op.17
【演奏】
マリア・ユーディナ(ピアノ)
【録音】
1951年6月10日、ライヴ、モスクワ音楽院小ホール モノラル、ADD
【曲目】
マリア・ユーディナ ヒンデミットの器楽ソナタを弾く
ヒンデミット(1895-1963):
フルートとピアノのためのソナタ(1936)(*)
ヴィオラとピアノのためのソナタ ヘ長調 Op.11 No.4(1919)(+)
コントラバスとピアノのためのソナタ(1949)(#)
トロンボーンとピアノのためのソナタ(1941)(**)
ホルンとピアノのためのソナタ(1939)(++)
【演奏】
ナウム・ザルデル(フルート(*))
フョードル・ドルジーニン(ヴィオラ(+))
ロドロン・アザルヒン(コントラバス(#))
グリゴリー・ヘルソンスキー(トロンボーン(**))
ヴィタリー・ヴヤノフスキー(ホルン(++))
マリア・ユーディナ(ピアノ)
【録音】
1959-1965年、スタジオ モノラル、ADD
カテゴリ : ニューリリース
掲載: 2019年05月14日 00:00