WEEKEND JAZZ ~週末ジャズ名盤探訪 Vol.73
秋吉敏子『ザ・トシコ・トリオ』(1956)
秋吉敏子(p)
ポール・チェンバース(b)
エド・シグペン(ds)
1956年、ニューヨークにて録音
曲目:
01.ビトウィーン・ミー・アンド・マイセルフ
02.イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー
03.郷愁
04.ホームワーク
05.マンハッタン・アドレス
06.サンデイ・アフタヌーン
07.ブルース・フォー・トシコ
08.蘇州の夜
09.朝日の如くさわやかに
【アルバム紹介】
1.日本人初のバークリー音楽院生にして初リーダー作
2.ベースにポール・チェンバース、ドラムスにエド・シグペンという強力ピアノ・トリオ
3.バビッシュなピアノ・スタイルでオリジナル曲、スタンダード曲を聴かせる
前回ご紹介のハンプトン・ホーズの回で触れましたが、ホーズが戦後、1954年に軍の仕事で日本に駐留していた時に参加した、横浜の伊勢佐木町にあった伝説のジャズ・グラブ“モカンボ”で行われたセッションには多くの日本人ジャズ・ミュージシャンがいました。
その一人が秋吉敏子でした。
その2年後、1956年に渡米して日本人で初めてバークリー音楽院に入学し、初リーダー作としてレコーディングされたのが本作です。
ピアニストではバド・パウエル、作編曲家としてはデューク・エリントンやチャールス・ミンガスの影響を受けたスタイルで独自の音楽を創作してゆきますが、本作は初々しいばかりのピアニスト秋吉敏子を知る一枚です。
ニューポート・ジャズ・フェスティヴァルの創設者として知られるジョージ・ウェインのレーベル、ストリーヴィルからリリースされたもので、メンバーはベースにポール・チェンバース、ドラムスにエド・シグペンが参加、おそらく名手ポール・チェンバースとレコーディング共演している日本人ジャズ・ミュージシャンは秋吉敏子だけではないかと思われます。
バビッシュなピアノ・スタイルでオリジナル曲を中心に、スタンダード曲をピアノ・トリオでのスインギーな演奏で聴かせ、そして日本人ならではのカヴァー“蘇州夜曲”をソロ・ピアノで披露しています。
【スタッフのつぶやき:この1曲を必ず聴いて下さい】
スタンダード名曲で聴く若き日の秋吉敏子。 “イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー”。
本作は2曲目“イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー”と最後の“朝日の如くさわやかに”の2曲のスタンダード曲が収録されており、どちらも名曲として知られるナンバー、数々の演奏が存在しますが、“イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー”での若き日の秋吉敏子のプレイを聴いてみましょう。
曲調がとてもロマンティックな1曲ですが、始まりはテンポ・アップしたスインギーな演奏を展開、イントロはなくテーマからスタートします。ソロに入るとライトタッチかつスマートなフレージングで魅了してゆきます。この時、渡米して数か月ではなかったかと思われますが堂々としたプレイはやはり非凡な才能がなせる業だったのでは、と思わせます。
ソロが一段落しかけたところで、曲調が一転しスローなテンポでのソロに移行し、後半はバラード・アレンジになっています。そしてそのままテーマに戻ることなく、しっとりとエンディングへと向かい、余韻を残しつつ、終わります。
秋吉敏子さんは戦後、日本人として最初に本場アメリカに飛び込んでジャズを学び、その後現地で活躍したプレイヤーであり、しかもそれが女性であるという事実は男性社会のジャズ界にあって、非常に珍しいことでした。日本のジャズ・シーンでその後に続く女性ジャズ・ピアニストは長年全く現れませんでしたが、90年代初めに大西順子がデビューしてから徐々に増え始め、現在の上原ひろみ、山中千尋といったプレイヤーが登場し、“世界で活躍する女性ジャズ・ピアニスト”としては、秋吉さんはパイオニア的な存在であると言えます。
国内盤(一般普及盤)
タグ : WEEKEND JAZZ
掲載: 2020年04月17日 10:00