アブラヴァネル&ユタ響/チャイコフスキー:交響曲第5番&祝典序曲"1812年” 新リマスターで復活!
VOX AUDIOPHILE EDITIONシリーズ
アブラヴァネル生誕120年&没後30年。ユタ響とのチャイコフスキー復刻第2弾
【モーリス・アブラヴァネル】
モーリス・アブラヴァネルは1903年、テッサロニキ(現ギリシャ、当時はオスマン帝国領)に生まれました。母はポルトガル出身、父はスペイン系ユダヤ人の有力な一族。一家は1906年にスイスのローザンヌに移住し、アブラヴァネルは同地で音楽を学んで16歳でオーケストラを指揮します。その後、父親から医学の道へ進むよう説かれるも音楽を選んで、ベルリンでクルト・ヴァイルに作曲を学び、指揮者としてドイツ各地の歌劇場でキャリアを積みます。1923年にはパリで指揮者デビュー。パリ・オペラ座の客演指揮者と、パリ及びロンドンのバランシン・バレエ・カンパニーの音楽監督を務めるまでになりました。また、シドニーとメルボルンの歌劇場に呼ばれた時は、3か月の契約だったのが2年間に延長されるなど、好評を得たようです。
【ヨーロッパを離れて】
しかしヨーロッパで反ユダヤ主義が台頭するとアブラヴァネルはこれを嫌って渡米。1936年にはメトロポリタン歌劇場に史上最年少の指揮者としてデビュー。当時のアブラヴァネルは、よく知られたレパートリーに斬新な解釈を見せたことで称賛と批判の双方を浴びたそうです。いわゆる仕事中毒の状態でもあり、9日間にオペラ5演目、計7公演を指揮したこともあると伝えられます。そのような中でアブラヴァネルは腰を据えて仕事に取組む環境を求めるようになりました。
【ユタ交響楽団との出会い】
転機となったのは1940年創設のユタ交響楽団との出会いで、公募に応じて指揮したところ大成功を収め、1947年から79年まで音楽監督を務めました。在任中は録音や米国内外のツアーに精力的に取り組んでオーケストラのレベルアップを図り、1963年から74年にかけてVanguardに録音したマーラー:交響曲全集が、アメリカの楽団による史上最初の全集録音として国際的にも注目を集めました。
【アブラヴァネルの音楽作り】
アブラヴァネル時代の演奏を知る人は、マーラーでも他の作曲家でもアプローチを変えることは無かったと証言しています。彼のアプローチが感情的なものを強調することなく、楽曲の構造と様式を重んじたスコア重視のものだったことは録音からもうかがわれます。このコンビは100枚を超えるアルバムを幾つものレーベルに残しており、1972年から73年にかけてVOXに録音したチャイコフスキーの交響曲全集は、上記マーラーや、ブラームス及びシベリウスの交響曲全集と共に彼らの代表的な録音とされています。これらにはデフォルメを排した音楽作りが共通して聴き取れます。
【録音で聴くユタ響サウンド】
アブラヴァネル時代のユタ響はソルトレイクシティのソルトレイク・タバナクル(別名モルモン・タバナクル)で演奏会と録音を行っていました。この建物は1875年に竣工した礼拝堂で、収容人員は8,000席、立ち見ならば12,000人という巨大な空間です。残響が長く、当時のユタ響の伸びやかな演奏と明るいサウンドは、ここの音響が育んだものと言えそうです。特に客席が空となる録音の際は、幕を吊るしたり楽団員がコート類を持ち込んで敷いたりするなどして調整を試みたそうです。マイク2本によるシンプルな収録をポリシーとしていたマーク・オーボートが、オーケストラの音響を混濁させないためにどのようなマイク・セッティングをしていたのか想像を刺激されます。
【アブラヴァネルのレガシー】
アブラヴァネルは在任中にシンフォニー・コンサート専用ホールの必要性を訴え続け、その長い任期を終えた直後の1979年9月にはシューボックス・タイプの新たな「シンフォニー・ホール」のオープンにこぎつけました。1993年9月に彼が90歳で世を去ると、同ホールはその功績を讃えて「アブラヴァネル・ホール」と改名され、楽団のウェブサイトには彼を知る人たちの回想が掲載されています。
【当アルバムについて】
アブラヴァネル&ユタ響のチャイコフスキー:交響曲全集は、明晰な解釈と明快な造形そして晴れやかなサウンドが特徴。この2曲では強弱緩急のメリハリを大きくつけて、ドラマティックかつ爽快な仕上がりになってます。その中で第2楽章のホルン・ソロはたっぷりとしたテンポで朗々と歌い上げていて印象的。今回のリマスターにより弦の強奏でのザラツキが軽減され、木管にはみずみずしさが、金管にはヌケの良さが加わりました。
ブックレットには初出時のジャケット写真が掲載されています。
(ナクソス・ジャパン)
【曲目】
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840-1893):交響曲第5番&「1812年」
1-4. 交響曲第5番 ホ短調 Op. 64(1888)
1. I. Andante - Allegro con anima
2. II. Andante cantabile, con alcuna licenza
3. III. Valse: Allegro moderato
4. IV. Andante maestoso - Allegro vivace
5. 祝典序曲「1812年」 Op. 49(1880)
【演奏】
ユタ交響楽団
モーリス・アブラヴァネル(指揮)
【録音】
1972-73年
総収録時間:61分
VOX AUDIOPHILE EDITION~エリート・レコーディングズ制作音源の最新リマスター・プロジェクト
1965年に創設され、自然な音場空間とクリアな音像の録音によって世界のオーディオ・ファイルたちを唸らせたエリート・レコーディングズ。彼らがVOXレーベルに残した録音から評価の高かったものを選び、24bit/192kHzでリマスターするプロジェクトが始動します。イギリスを代表する録音エンジニアの一人マイク・クレメンツがアナログ・マスターテープからのデジタル化を担当し、イギリスの大手録音プロダクションのK&A Productionsがマスタリングを行います。「自然でダイナミックで正確」(米Stereophile)と評されたエリート・レコーディングズの名録音が最新技術でリフレッシュされたシリーズはジャケット右上の「AUDIOPHILE EDITION」が目印です。
(ナクソス・ジャパン)
エリート・レコーディングズ Elite Recordings
スイス生まれのエンジニア、マーク・オーボート Marc Aubort が1965年に創設。アメリカ生まれのプロデューサー、ジョアンナ・ニックレンツ Joanna Nickrenz を迎えてフリーランスの録音プロダクションとして活動し、このコンビで32年の間に600枚ほどの録音を制作しました。これらはVOX/Turnabout、VOX/Candide、Nonesuch、Vanguard、RCA、EMI、MMG、SONY、Reference Recordingなどからリリースされ、今もって名録音と評価されているものが多くあります。
マーク・オーボート Marc Aubort(1929-2023)
スイスに生まれ、1940年代にはヨーロッパで録音エンジニアとして活動を始めました。1958年にニューヨークに移住し、1958-65年にVanguardレーベルのチーフ・エンジニアを務めた後に独立し、1965年にエリート・レコーディングズを創設。
オーボートについてはアメリカのオーディオ系メディアが行ったインタビューが幾つかインターネットで読めます。基本的にはメイン・マイク2本で録音することを好み、その理由を「作曲者のイメージに最も近いはずだから」と答えています。
オーボートの録音は、左右のスピーカーの間にホールのような広がりと奥行きのある音場が感じられることが多く、MercuryのLiving Presenceなどに通じる臨場感があります。同時にオーケストラの各楽器の動きがマスの響きに埋もれないところも特徴です。米Tape Opとのインタビューで「ホールで言えば何列目あたりで聞こえる音をイメージしているのか?」と問われたオーボートは「4列目か5列目。だただし客席から10フィート(約3m)宙に浮いた所で、オーケストラを見渡すあたりになるだろう」と答えています。マイクについてはSchoeps社のコンデンサーマイクCM60を1960年代からずっと使い続けていたそうです。グラミー賞にノミネートされること18回、受賞2回。
ジョアンナ・ニックレンツ Joanna Nickrenz (1936-2002)
アメリカのシアトル生まれ。コンサート・ピアニストを目指して学び、ウィリアム・スタインバーグ時代のピッツバーグ交響楽団でピアニストを務めたことがあり、室内楽でも演奏しました。シェーンベルク:ナポレオン・ボナパルトへの頌歌の録音がきっかけで録音の仕事に興味を持ち、エリート・レコーディングズでマーク・オーボートのアシスタントとなり、間もなく録音プロデューサーと編集を任されることになりました。
ニックレンツは複雑なスコアの中のあらゆる音を聴きとってしまう能力でアーティストを驚嘆させ、”Ms. Razorears”(カミソリのような耳。今風に訳せば「神の耳」といったところでしょうか)と呼ばれました。オーボートはニックレンツを回想して「信じられない聴き取り能力。レジェンドだよ」と語っています。スクロヴァチェフスキやスラットキンをはじめ、録音に際してレーベルがどこであっても彼女をプロデューサーに指名した指揮者が少なからずいました。グラミー賞へのノミネートは実に18回を数え、受賞は4回。1984年にはスラットキン指揮のデル・トレディチ:夏の日の思い出(Nonesuch)で年間最優秀プロデューサーに選出。同部門で女性が受賞するのはグラミー賞史上初の快挙でした。
VOXレーベル
作曲家メンデルスゾーンの子孫ジョージ・メンデルスゾーン=バーソルディが1945年にニューヨークに創設したレーベル。レーベル名はラテン語の「声」から採られています。アルフレート・ブレンデルによるベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集をはじめ、オットー・クレンペラー、ヤッシャ・ホーレンシュタインらを起用したマーラーやブルックナー等の交響曲、当時としては斬新だったサティのピアノ曲全集、ダリウス・ミヨーが自ら指揮した交響曲全集、更には知られざる作曲家のシリーズ等を展開し、第2次大戦後のクラシック音楽レコードの活況に貢献しました。
カテゴリ : ニューリリース
掲載: 2023年06月19日 15:00