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『タッチ』の和也の死はそれまでのアニメにない表現だった!名作アニメの「死」がアニメ史の死生観に与えた影響とは

日本では昭和から令和に至るまで数々の名作が生まれ、魅力的なキャラクターが登場している。だが、中には道半ばで死んでいくキャラクターもおり、その死に衝撃を受けた人も多いのではないだろうか?書籍「なぜあのキャラは死ななければならなかったのか?名作の「死」の描写で辿るマンガ・アニメ史」では、アニメ史とキャラクターの死の関係を考察し、現代を生きる我々の死生観をも探っていく。

●『タッチ』の和也の死はそれまでのアニメにない表現だった

甲子園の応援曲として主題歌が有名な『タッチ』は、1985年よりアニメが放送され大ヒットした野球と恋愛の王道アニメだ。しかし、物語の序盤で中心人物であった双子の弟「和也」が突然の事故で死んでしまうという悲劇に見舞われる。

きれいな顔してるだろ。嘘みたいだろ。死んでるんだぜ。それで…

「なぜあのキャラは死ななければならなかったのか? 名作の「死」の描写で辿るマンガ・アニメ史」より

激しい悲しみというよりは、むしろ茫然自失のように発せられる双子の兄のセリフは多くの視聴者の心に残っている。

時間が経ってからヒロインが急に深い悲しみに襲われ、河原の鉄橋の下で通過する電車の轟音に紛れて激しく泣くシーンも実にリアリティがあり、それまでのアニメのありきたりな号泣とは一線を画した。さらに、三角関係であったために、死後も「和也」の存在感が増していくという、今までにない死の表現を見せていく。本書籍の著者である浦澄氏の言葉を借りるなら、「キャラクターの死の重みというものを、これほど印象深く味わわせてくれた作品はそれまでに例がなかった」のである。

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●京アニ作品が死を描かなかった異質さ

京都アニメーションといえば、『涼宮ハルヒの憂鬱』や『けいおん!』などの日常系アニメを思い浮かべる人が多いだろう。事実、2006年の『涼宮ハルヒの憂鬱』から2015年の『響け!ユーフォニアム』まで日常の青春に焦点をあて、死の描写を避ける作品が続いている。当時の深夜帯アニメでは青年や大人向けを意識して死の表現が過激化する傾向にあったため、死を締め出して守られた日常を描く京アニの作風はかなり異質であった。

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その後、他社では『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』や『STEINS; GATE』など、生と死を深く掘り下げ、科学や文明の力で困難を乗り切ろうと模索するテーマが多く見受けられたが、京アニは平和な青春が心地よく続く日常系アニメの提供を続けた。

やがて異質に見えた日常系アニメは、先行きの見えない中の現実逃避や癒やしとして支持を集め、ジャンルを確立していく。アニメ史を見れば、その時代の人々の価値観や求めていたものが透けて見えるといっても過言ではない。

●マルチバースからメタバースまで多様化する死生観が向かう先は

アニメが人々の価値観の写し鏡であることは、アニメ史の「死」を振り返るとさらによくわかる。例えば1970年代の『あしたのジョー』や『宇宙戦艦ヤマト』では、

男は戦いのために生き、死んでも勝つ

使命のために戦い、力尽きて死んでいく

「なぜあのキャラは死ななければならなかったのか? 名作の「死」の描写で辿るマンガ・アニメ史」より

といった昭和な死生観が見られた。また『ガンダム』シリーズの昭和作品には、人間の死が次の世代の糧となるという仏教的思想が、90年代の作品には世紀末ゆえの終末思想のような救いのない死の表現が描かれるという、時代の潮流に沿った変化が見受けられるのだ。

キャラクターの死の重みに変化を与えるきっかけとなったのが、1995年の『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイの復活だ。以後、2004年の『GANTZ』のように、一度失った人生をやり直すというゲームのような展開やタイムリープもの、さらには複数のエンディングが存在するというマルチバース的展開へと繋がる作品が増えていく。

2012年の『ソード・アート・オンライン』では、現代ARのメタバース体験をさらに拡張させたSF的技術や死生観が登場する一方で、2022年の『チェンソーマン』では主要キャラクターでも殺されればそれっきりという「19世紀の無神論者やニヒリストのような、殺伐とした世界認識」も人気を集めた。

つまり、現代の我々の死生観は多様化しているのではないだろうか。今後、ARやAIなどの先端技術が進歩しつつも、戦争や災害などが多発する混迷の時代が予想される。その時、人々の心を写す鏡であるアニメの死生観にどのような変化が訪れるのか、想像するだけでも面白い。

タグ : アニメHOT TOPICS レビュー・コラム

掲載: 2025年03月13日 12:00

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