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解剖学者・養老孟司と作曲家・久石譲の豪華対談!音楽が人の心を動かす理由とは?

音楽はそれ自体の素晴らしさだけでなく、ときに映像作品を盛り上げるBGMとしても魅力を発揮するなど、さまざまな役割によって人々の心を動かす。ではそもそも、私たちは音楽を聴いたときになぜ“感動”できるのか?そのしくみについて、養老孟司久石譲が著書「脳は耳で感動する」で語った。

●感覚器として見る耳の特殊性

養老といえば、「バカの壁」といった数多くの著書で知られる解剖学者。一方の久石は作曲家・指揮者などとして活躍し、スタジオジブリ作品をはじめさまざまな映像作品の音楽プロデュースもおこなってきた人物だ。本書では異なる分野を専門とする2人が、“脳”と“音楽”の関係性について対談形式で意見を交わす。

「人はなぜ音楽を聴いて感動するのか」という問いに対し、養老が示したのは感覚器としての“耳”の特殊性である。

考えてみると、感覚器というのは必ず二つ存在しているんです。

たとえば「日周運動」。朝になると、明るくなって目が覚めて、夜になると眠くなる。これをコントロールしている目がある。それを「松果体」というんですが、松ぼっくりみたいな形をしていて、脳のど真ん中にある。これが、実は体内の「目」の働きをしている。

目という器官があって網膜にものが映し出されていろいろなものが見えているわけですが、そういった外の世界を捉えているのとは別に、自分のからだにとって必要な目があるんです。(※注)

養老曰く目以外にも、すべての感覚器で二重構造は確認できる。そして「松果体」など第二の感覚器として働く部分のほとんどは、退化傾向にあるのだそう。ただし耳に関しては、他の器官とは異なる性質がある。

耳の元は身体の運動をつかさどる平衡器官。いわゆる三半規管がそれですね。

耳だけは、半規管は退化できません。いわば古い感覚器が耳だけは非常に強く残っているんですよ。身体の運動に直接つながっていますから。

つまり脳からいうと、聴覚は古いところに直接届いている。それがいわゆる情動に強く影響するということなんです。(※注)

●ニーチェも指摘した“聴覚の影響力”

聴覚が強く影響する“情動”というものについて、養老はさらに続ける。

情動というのは、実は脳でいうと古い部分、「爬虫類の脳」といわれている「大脳辺縁系」というんですけど、そこにかなり大きな影響を与える。実は、それが一番遠いのは目なんですよ。目は非常に客観的。だから、見て感動するより、聴いて感動する方がよっぽど多いんです。(※注)

そして養老は、かつてドイツの哲学者ニーチェもギリシャ悲劇に関して「目で見る舞台と耳で聴くコーラスと両方からできている」という二重性を指摘していたことも示した。これに対して久石は納得。

ニーチェは自分でピアノも弾いていたし、作曲もしていました。ですから、僕はニーチェの文章を読んでいてちょっと理解できないなと思う時、音楽を想定して考えるんです。そうすると「ああ、これはひょっとしたらこういうことかなあ?」となんとなくわかってくるようなことがありますね。(※注)

と、聴覚が感動体験に大きく影響することの実感を語った。

●久石が語る“いいスコア”の特徴とは

世の中には人々の心を動かす“いい音楽”と呼ばれる作品がたくさんあるが、そもそも“いい音楽”とは何なのか。その基準についても2人は切り込んでいく。例えば「文章ではリズムが重要だ」という養老の言葉を受けた久石は、「音楽にも近いところがある」と主張。

いいスコアは綺麗なんですよ、音符の配分が。ぱっと見てわかる。完成度の高い曲は音符の並び方がどのページを見ても美しい。いろいろな楽器の絡み方なんかも含めて、すべてがそこにあるべき形のように見えてくる。

自分で書いていてそういうスコアが仕上がった時は、かなりうまくできた日です。だけど人間ですから、調子のいい日もあれば、悪い日もあります。悪い日はどういうことが起こるか。自信がないせいか、音の数が増えて全部真っ黒に埋めているんです。不安だから、どんどん楽器を重ねてしまう。 (※注)

「作曲とは限られた音の中での構築作業であって、何かパッと閃いたものを次々出していけばいいというものではない」と語る久石の、“いい音楽”に対する独特な観点が垣間見える意見だ。

養老、久石、それぞれの視点から音楽と人間の関係性を紐解いていく本書。興味深い知見や考察が満載なので、気になる人はぜひ手に取ってみてほしい。

(※注)養老孟司 、久石譲「脳は耳で感動する」より引用

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タグ : レビュー・コラム

掲載: 2025年03月13日 21:30

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