54-71
掲載: 2002年08月08日 10:00
更新: 2003年02月10日 14:54

「ロックには8割方興味ないと認識してしまったから、メンバー全員、嫌でもほかのジャンルを聴くようにしてますね。ほかのジャンルで何が起こっているのか、とりあえず聴かないと話にならないだろうって。いまのロックを聴いて、自分たちが何か作ろうとしてもできるわけがないですから」。
いきなりそう言い切るのは、54-71のスポークスマン的存在である川口賢太郎(以下同)だ。最初に断っておかなければいけなかったが、54-71は紛れもないロック・バンドである。彼らは、数々のライヴをこなして評価を上げる、というロック・バンドとして当然のプロセスを歩んできている。そうであるにも関わらず、彼らは然るべき場所に収まることを良しとはしなかった。
昨年リリースされたアルバム『reprise』では、まるでストイックなヒップホップ然とした世界が展開されていた。たしかに生身の4人が作り上げたものなのだが、生演奏のダイナミズムは徹底的に排除され、ブレイクビーツと最小限の上モノ、それにライムだけで成り立つ抑制の効いた世界と非常に近い空気が流れていた。それは、安易にロックとヒップホップをミクスチャーした類のものには作り出し得ない空気だった。
「とにかくライヴとレコーディング音源というものを切り離したかったんです。ライヴのままの臨場感を出すレコーディングというのは、日本ではまずできないだろうと思ったんで。ただ、〈ライヴと違う〉というファンの声もあって、ライヴをやりながら活動していると、そういう方法論は通用しないんだなと思ったんです。じゃあ、ほんとにそのまんまを録れるレコーディングの方法を1回やろうと。それが今回のレコーディングなんです」。
そうして完成したのが、メジャーからのデビュー・アルバム『enClorox』である。前作とは対照的なストレートなバンド・サウンドだ。ただ、そのストレートさは半端ではない。各楽器とヴォーカルすべてが、恐ろしいほどクリアな音像を形作ってこちらに迫ってくる感じなのだ。単に解像度がよく綺麗な音で録れているというレベルではない。
「スタジオという環境のなかで、バンドとして最大限の臨場感が出る録音をしたかったんです。それで、単純にいちばん良く録れるところを探すことから始まったんですね。いろいろCDとか聴いたなかで、いちばん生々しい音で録音しているのは、シカゴのこのへんの人たちだと思ったんです」。
〈このへんの人たち〉というのは、スティーヴ・アルビニのスタジオ周辺にいる人々である。しかし、そこでエンジニアに選ばれたのはアルビニ本人ではなく、シェラックのボブ・ウェストンだった。
「アルビニは、生でも彼の形に作り上げてしまいますよね。ほんとに下手なバンドだと下手なまま、上手いバンドだったら異様なほど良く録れている、っていうのがボブだったんです。この人のほうが絶対おもしろいだろうなと思いましたね」。
結果としてこの選択はまったく正しかった。『enClorox』はほんとうに〈生々しい〉アルバムに仕上がった。その生々しさというのは、残念ながらこの国のバンドを取り巻く環境からはなかなか出てこない。54-71は、そのことに苛立ってきたし、諦念を抱いてすらいるようだ。だけど、彼らはバンドとして何をやるべきか、いま明確に見えている。ヒップホップやエレクトロニカの作り手に共感を示しながらも、彼らは自分たちが培ってきたロックの手法を掘り下げようとしている。その姿勢は、逆にさまざまな人から共感を呼ぶのではないだろうか。
PROFILE
95年、川口賢太郎(ベース)、佐藤慎吾(ヴォーカル)を中心に結成。直後に高田憲明(ギター)、97年に堀川裕之(ドラムス)が加入し、現在の編成となる。同年にはファースト・アルバム『54-71』をリリースしたが、注目を集めるまでには至らず、同作品はしばらくして廃盤となる。その後、精力的なライヴ活動を続けるなか、独創的なパフォーマンスが徐々に噂となり、2000年には『54-71』がリイシューされ、続いてセカンド・アルバム『Untitled』をリリースする。2001年にはサード・アルバム『Reprise』を発表。期待がいっそう高まるなか、このたびメジャー・デビュー・アルバム『enClorox』(BMGファンハウス)がリリースされたばかり。


