安藤裕子
掲載: 2004年09月09日 16:00
更新: 2004年09月09日 17:28

〈第一期安藤裕子完結作品〉。こうした言葉を聞くと、すでに幾枚もの作品リリースを重ねてきた古株アーティストのようにも思えてしまうが、資料にそう謳われている本作『Middle Tempo Magic』は、実はシンガー・ソングライター安藤裕子にとって人生初めてのフル・アルバムである。本人の言によれば、その〈第一期完結〉の意図とはこうだ。
「私、デビューした時から今日まで、みんなに自己紹介をするつもりで曲を出してきたんですよ。たとえば私の内面のひとつの部分を強調した曲を書いたなら、今度はその対極にあるような曲を横に添えてみたりして。なんというか、私という人間の振り幅みたいなものをまず最初に宣言しておきたかった。私ね、人から人間性を決めつけられたり、一辺倒な見方をされるのがすごく嫌なんですよ。だからそれを避ける意味でも、できるだけ多種多様な〈私の顔〉を見せておきたかった。で、今回のアルバムはいわばその自己紹介の終章。いまの気持ちとしては、もう私のことだいぶわかったでしょ? これからどんな曲をやっても誤解しないよね?って感じですかね」。
世間からの偏見やレッテルに対して慎重な姿勢を見せる安藤裕子。情報断片としてのミニ・アルバム群を紡ぎ上げ、そしていざフル・アルバムへ、という筋道を、レーベル関係者以上に意識していたのは、アーティスト=安藤裕子自身かもしれない。
「難産なアルバムではなかったと思いますよ。デビュー当初から、このアルバムで好き勝手な曲をやるために頑張ってきたってのもあるし(笑)。特にこだわった点といえば、作品の最後に“隣人に光が差すとき”って曲と“聖者の行進”って曲が並んでいるんですけど、ここだけはどうしても貫き通したかった部分なんです。“隣人に光が差すとき”は妬みや嫉みの唄なんですよ。頑張っている人を見て、ふと自分がポツンと孤独を感じちゃったみたいな曲。そして“聖者の行進”は、いろいろ辛かったことはあるけど強く前に進む、よし今度は自分も前に行くぞって思いを込めた曲ですね。アルバムの終わりに、そして私の自己紹介の終わりに、次なる未来みたいなものを予告する要素として存在させたかった」。
「私はポップスターめざしてますから」――そう彼女が言い出したのはいつ日からだろうか。僕はこれ以前に過去2回取材で彼女と会っているが、彼女と話していると毎度必ずこの〈ポップスター〉という言葉が出てくる。僕にとってそれは本当に意外なことで、当初彼女のことをポップスターという社会的存在に対してはむしろ懐疑的というか、そこにカウンターパンチを浴びせる算段をしている人だとさえ思っていた。しかし真相は違った。今作『Middle Tempo Magic』の冒頭に“ロマンチック”という曲がある。この楽曲は彼女いわく恋愛の曲で、手触りはそれこそ彼女独特なものの、後味は不思議とポップで爽快だ。いまここにきて、彼女の言わんとするポップスター観が徐々にわかりかけてきた気がする。
「この“ロマンチック”で表現したかったのは恋愛中におけるイレギュラーな感じ。普段の自分だったら絶対しないようなことを恥ずかしげもなくやる感覚とか、ドラマの映像に酔いしれちゃう感覚とか。つまりはその馬鹿になって突っ走っちゃう瞬間が素敵だなって、そう思って書いた詞です。私、お酒は飲めないですけど、飲んでるくらいアッパーになって書き切りました(笑)」。
日頃はどちらかといえばクールなおもむきのある彼女。だがこの曲の詞に関していえば、まさに彼女が説明するとおり恥ずかしげもなくアッパーだ。安藤裕子というひとりの女性の、音楽を介した自己紹介。どうかぜひ多くの人に受け取ってほしい。
PROFILE
安藤裕子
77年生まれ。映画関係の仕事をめざしている時期に、舞台オーディションを受けることになり、課題となった楽曲を歌ったことがキッカケで作曲を始める。その後、音楽活動と並行してTVドラマ「池袋ウエストゲートパーク」に出演。同ドラマの監督でもあった堤幸彦が撮り下ろした映画「2LDK」のテーマソングに、過去に制作した楽曲が抜擢される。2003年7月、ファースト・ミニ・アルバム『サリー』でデビュー。新世代のシンガー・ソングライターとして注目を集めるなか、今年1月にはセカンド・ミニ・アルバム『and do, record.』を発表。シングル“水色の調べ”を挟んで、9月8日にファースト・フル・アルバム『Middle Tempo Magic』(cutting edge)をリリースする。


