想い出波止場
掲載: 2004年11月11日 12:00
更新: 2004年11月11日 18:31
87年結成――山本精一のソロ・ユニットとして始動したあのバンドが7年ぶりに新作を投下!

ドーナツの穴は〈在る〉のか〈無い〉のか。おやつの分際で存在の意味を投げかけるドーナツを、投げ輪にしてワイワイ楽しんでるのが想い出波止場じゃないだろうか、とついさっき思った。
7年ぶり、7作目となる彼らの最新作『大阪・ラ』。前作『VUOY』リリース後から録りためていた音源をまとめたというこのアルバムについて、山本精一(ヴォーカル/ギター、その他:以下同)は「いちおうどれも曲っぽくなってますけど、曲そのものではない。ロックンロールっぽいものがあったとしても、ロックンロールをやりたいわけじゃないんですよ」と語る。つまり「その曲を通して影のように現れるもんというか、その背後にあるものをやりたい。曲自体はなんでもいいんです。スタイルもジャンルも関係ない。音楽でもないかもしれない」。
その言葉に誠実に、アルバムにはあらゆる音、ややこしさ、バカバカしさが、たっぷりと詰まっている。〈何にも考えないほうがいいかもしれない〉という歌詞が印象的な1曲目“触媒”(「まさにその言葉が僕らの基本姿勢なんで」)から始まって、「ドレミファソラシドのラ、たんにそれだけ」で名付けられた“・RA”では、その眩いグルーヴに言葉の意味は丸裸にされ、「コントーションズの雰囲気」な“OUT ROCKERS ON Your Angel Hair”では、ジェイムス・チャンスが住之江競艇場でボートを飛ばしてるようなスピード感が迸る。なかでも「波止場の本質はこういう曲にある」という“ギンガム(パレード)”を筆頭とする、1分にも満たない音源群の〈無能ぶり〉は凄まじく、「津山(篤、ベース/ヴォーカル、その他)なんか、こういう曲以外はあんまり好きやないっていってましたね。やってる時はイキイキしとったもんな(笑)」。
「でも、曲じゃないんです。アルバム全体をとおしてひとつの世界というか。簡単にいうと幻聴体験みたいなもの、サウンド・ドラッグというか、そういう次元に持っていくのが理想」という想い出波止場のサウンドは、「自分の持ってる批評性から逃れられない」山本が、どうにもムダなことをしたり「わざと自分のできないこと、例えばめちゃくちゃ酒飲んだり、ギターの強烈な早弾きをしたり(笑)」することで、理性の彼方へと「遠心力で」突き抜けるための実験場なのだ。でも、そういったダダイスト的側面とともに「とりあえず表面上はキラキラしたとこを残しといて、間口は広く。まず〈部屋〉に入ってもらわないと、いろんな魔法をかけられないから」というミュージシャンとして「サーヴィスしてしまうサガ」をも抱え込んでいるのが彼ららしいところ(「まあ、食虫植物みたいなもんですよね:笑」)。そして、そこから醸し出される〈音楽←→非音楽〉の揺らぎが、想い出波止場のドーナツの穴なのかもしれない。便器をアートに変換してみせた稀代のダダイスト、マルセル・デュシャンいわく、「笑いながらすべてを受け入れるのです」。まさに想い出波止場のごとし。
▼山本精一がメンバーに名を連ねるバンドの作品を紹介。


