インタビュー

TUOMO

螺旋を描く優美な旋律、温もりに満ちた歌声、過去と現在を繋いだグルーヴ……北欧の光と風が育んだ美しいソウルの原石は、珠玉の名作へと磨き上げられた!


  この晴れやかな感じをどうやって伝えればいいの?と思ってしまう。トゥオモのソロ・デビュー・シングル“Don't Take It Too Hard”の話だ。一瞬でさまざまなリスナーの耳を奪うに違いない開放感たっぷりの壮麗なオーケストレーション、とことん軽快なリズム・アレンジ……こんな曲はそうそうないって! まあ、少し冷静になってみるとカーティス・メイフィールドやスタイル・カウンシルとかの名前が容易に浮かびはするのだが、それとて同曲の清冽な美しさを損なうものでは決してない。

「僕の友達が困難な時期を過ごしていた頃に書いた曲なんだ。彼に〈Don't Take It Too Hard〉って伝えたくて、でもなかなか現実的には難しくて。その代わりに歌にしたんだ」と同曲について語るトゥオモ・プラターは、ヘルシンキ生まれの28歳。先ほど〈ソロ・デビュー〉と書いたように、この、鍵盤奏者にしてシンガーもこなす才人は、クインテセンス~Q・コンティナムやヒューバ、エマ・サロコスキー・アンサンブルといったバンドのメンバーとして、すでに何枚ものアルバムに携わってきている。それらのプロジェクトはすべて地元の仲間たちとの繋がりのなかから生まれたようだ。

「そうだね、僕らはみんなヘルシンキに住んでいて、そのうちの多くは僕と同じ音楽学校で勉強していた。アキ・ハーララ(クインテセンス)のように15歳くらいから知ってる奴もいるよ」。

 その発言からも窺えるように、7歳からクラシック・ピアノを始めたトゥオモは音楽学校に進んで、いわゆる音楽理論などを学んできたとのこと。

「何年も音楽を勉強したよ。でも、現場で実際にいろんなミュージシャンとプレイするのも同じくらい教育的だよ。あらゆる理論は道具になるけど、本当に音楽のことを学ぶには音楽をプレイする以外ないんだよね」。

 昔からジャズやソウルに親しみ、シンガー志向を抱えつつ、「いろんなバンドでプレイして、それぞれで異なる役割を持つのが好きだね。ピアノ奏者として全エネルギーを注ぎ込むのも時には新鮮だと思う」と語る彼が、それでも今回ソロ活動へと踏み出した理由とは?

 「レコーディングしたいと思う曲がたくさんあって、どれも僕のいるバンドには合わない気がしたんだ。それに、他のシンガーに渡したくなくて……」。

 そのように表現者としての意欲に従った結果が先述の“Don't Take It Too Hard”であり、表題がすべてを物語るかのような初のソロ・アルバム『My Thing』である。

「そう、タイトルの〈My Thing〉がテーマだね。僕の人生で起こっていたことを歌にしていて、仕事や人間関係において、〈自分のもの〉を探していくっていうことさ」。

 そんなわけで、アキやエマといったバンドメイトの参加も仰ぎつつ、制作プロセスはいままでとは異なるものだったそうだ。

「バンドでの制作時は民主的というか、みんなでアレンジなんかを考えながら作っていくんだけど、今回は僕が全部コントロールしたくて、プロデュースもアレンジも自分一人でやったんだ。もちろん、僕自身が煮詰まった時には仲間が何度も助けてくれたよ」。

  文字どおりの『My Thing』らしくルーツからの影響も素直に出たようで、「よく歌を真似たりしたよ」というプリンス~スライ・ストーン風のファンクから、軽快なモータウン・ビート、スティーヴィー・ワンダーやジャミロクワイに通じるジャズ・ファンク、ビリー・ジョエルばりのメロディアスなピアノ・ソウルまで、アレンジも多種多彩。「シンガーとしても鍵盤奏者としても大好き」だというニーナ・シモンやダニー・ハサウェイあたりを思わせる展開もストレートに打ち出されている。

「僕は長年ソウル・ミュージックを聴いてきたし、今回はそれをとことん追求したんだ。あと、ジャズの要素はあんまり入れなかった。ジャズはプレイヤーに焦点を当てるもので、僕は今回ヴォーカルと歌詞を強調したかったからね。今回は常に〈曲そのものが大切で、曲が良ければ間違いようがない〉って自分に言い聞かせてたよ」。

 確かに結果から判断する限り、彼は何の間違いも犯さなかったようだ。『My Thing』は本当に素晴らしいアルバムだからね。
▼トゥオモのルーツ盤を紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年08月09日 18:00

ソース: 『bounce』 289号(2007/7/25)

文/出嶌 孝次