15歳女子のリアルがファンタジーに変わるまで――
本作は、いわば〈素の南波志帆〉をサウンドに投影させることで完成した作品。それを実現可能としたのは彼女と作家陣とで図られた密なコミュニケーションだったわけですが、今回、そのツールとして使用されたのが本人による夢日記。〈15歳女子の日常〉が目一杯に詰め込まれたその日記が、どのようにファンタジーへ――ひいては質の高いポップ・ミュージックへと変換されたのか? ここでは、以下に寄せられた作家陣のコメントから、本作が誕生するまでの過程を追ってみます。
■堀込泰行(キリンジ)
彼女自身は、明るくて無邪気。擦れてない。まだ本人以外の何者でもないという印象です。すでにほぼ完成しているいくつかの楽曲を聴かせてもらい、アルバム全体のイメージや彼女の歌声の感じから、「自分が関わるとしたら、どんな曲がいいだろう?」と考えて曲を作りました。歌詞に関しては、ヤングな女の子の気持ちはわからないのですが、〈サンダル〉や〈髪を切る〉などの女の子っぽいキーワードを別のものに変えることで、思いどおりに生きられない老若男女みんなが共感出来るようなものにしようと。結果的には、ポップなロックンロールになりました。
■宮川 弾
“あたらしいくつ”のもとになったのは、〈寝坊した朝、靴にロケットが付いてて、学校まで飛んでいって遅刻せずに済んだ〉という夢日記です。読んだとき、僕自身が中学生の頃に新しい靴を買ったときの感覚を思い出しました。理由の無い万能感。「明日これで走る!」という短いスパンの未来と不安。小さな欠片が繋がって、いつの間にか僕は大人でした。そんな地続きを、通学路から始まる〈物語〉として描いたのが“ストーリー”です。志帆ちゃんに教わりました。未来は突然やって来るんじゃないって。
■矢野博康
彼女は、大人の背筋をピンをさせるくらいピュア。優しさと凛々しさを併せ持っている女の子です。曲に求められている歌唱を常に自分でイメージしながら歌う姿勢も素晴らしいです。
15歳の彼女にとってのリアルとファンタジーが垣間見えたら、という意図から書いてもらった夢日記を、アルバムに参加していただいた作家陣に資料として見てもらい、それぞれの作家が〈南波志帆像〉を想像して作詞、作曲に生かしてくれました。実際に彼女が見た夢を題材にした“あたらしいくつ”のような曲もあります。また、実際の彼女(キャラクターや歌唱)と曲の世界観とのブレをなくしたいという思いから、作家陣にはヴォーカル録りにも立ち会ってもらいました。結果、いまのありのままの南波志帆が透けて見えるような作品になったと思っています。
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