南波志帆が歌う世界観――〈生徒会長〉的ポップスで時代を彩る女性シンガーたち
歌い手のキャラクターとマインド、歌声が持つピュアネスを〈賢く〉活かした世界観――つまりそれが南波志帆が歌う〈生徒会長〉的ポップスのキモであるわけだけど、大人のオモチャ的なコスプレ・アイドルやダンス・ユニットが多くを占める昨今、こういったリアルで賢いティーンエイジ・ポップスもなかなかお目にかからなくなりました。思えばアイドル・ポップ全盛の80年代には、歌い手のマインドと作家が編む世界観がナチュラルなかたちで直結した優等生作品がいっぱいあったように思います。
まずは、薬師丸ひろ子や原田知世をはじめとした、いわゆる〈角川娘〉。〈銀幕女優であり歌手〉だった彼女たちは、映画のなかでも歌のなかでもナチュラルな魅力を放ち、ユーミン、大滝詠一、筒美京平、林哲司など、超一流のポップ・クリエイターたちのバックアップによって高品質なポップスを数多く残しました。女優との〈二枚のわらじ〉といえば、斉藤由貴も思い出されますね。〈不思議ちゃん〉の元祖とも言えるほわほわっとしたキャラクターでしたが、歌は意外と情熱的。武部聡志がプロデュースしたシングル曲はいずれも傑作で、近年、つじあやのが“悲しみよこんにちは”、土岐麻子が“青空のかけら”をカヴァーしています。
女優兼……ではなく生粋のアイドル歌手としてデビューしたオンナのコで、リアリティーある〈十代女子〉を賢く表現していたのが岡田有希子。竹内まりや、松任谷正隆、かしぶち哲郎らによる楽曲は言わずもがな高水準ですが、わずか2年の活動のあいだにオンナのコとしての成長ぶりも見事楽曲に落とし込んでくれました。続きが見たかったなあ……。おニャン子クラブは本項の主旨から逸れるけど、比較的賢そうにみえた渡辺満里奈はアリでしょう。二十歳を過ぎてからフリッパーズ・ギターや大滝詠一とのコラボレーションを果たした彼女ですが、そこへ至ったのには、十代の時に歌ったピュアネス全開のポップス、それをとおしての〈等身大の表現〉が礎としてあるんじゃないかと、いまにして思います。
さて、90年代以降はどうでしょう。天真爛漫な曲の世界観が疑うことなくキャラクターと直結した広末涼子の諸作や、意外な低体温感が妙なリアリティーを感じさせる新垣結衣の『そら』(2007年)など、いずれも豪華な作家陣にサポートされた〈賢い〉ティーンエイジ・ポップがありましたが、絶対数は80年代に比べて少ないですね。もっとあってもいいはずなのにねえ……個人的には、綾瀬はるかには歌を続けてほしいと願ってます。
▼文中に登場したアーティストの作品を紹介
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