Discharming Man(3)
――今回の作品には、キウイロール時代の“white”が入ってるじゃないですか。これはキウイとしては出してないですよね?
蛯名 出せなかった。解散を決める前からあった曲なんだけど、みんな、すごくいい曲なのはわかってても、上手くできなくて。この曲の良さを理解できなかったっちゅうか、解散の原因みたいな曲だったのかな。でも、自分ではキウイのなかで一番いい曲が最後の最後に出来たと思ってたし、いつかは絶対Discharming Man(の作品)に入れたいなっていう思いがあったんですよね。これ、一年前にNAHTやeastern youthと代官山UNITのイヴェントに出たときに、初めて演ったんですよ。吉村さんはまだいなかったんですけど。で、すげえ良かったんで、そのあとも節目のときにやったりとかしてて。このあいだ、吉村さんとも下北沢SHELTERで演ったんですけど、要はもうライヴでやってたし、いつ死ぬかもわかんないから、入れられるときに入れちゃえ、みたいな感じですね。
――キウイの解散の起点になった曲ということは、同時にDischarming Manの原点でもある?
蛯名 起爆剤になる感じの曲だなとは思ってたんですよね。自分のなかで、レゲエ・ダブというか、ループする音楽に興味が向いてたことがあって。結構そういう曲多いんですよ、俺。
――確かに、“white”をはじめ、ダウン・テンポで音の余韻を聴かせるような曲が多くありますね。
蛯名 “因果”も流れは一緒で、コードが変わっていくだけでワーッて盛り上がるっていう。“逃避行”もツー・コードなんですよ。ほかにはワン・コードの曲もあるし。そういうDischarming Manのこだわりもあって……今回のにはそうじゃない曲も入ってるんですけど、まあ、いろんな音楽があるじゃないですか。“white”は全部を含んでる感じがするんですよね。ループする感じもあるし、展開してく感じもあるし、ギターも吉村さんが入ったことで最後はウォーッてなってるし(笑)。俺の世界のなかでみんながワーッて遊んでる感じがすごいいいなと思うんですよね。
――ああ、揺らいだ音世界のなかで徐々に激情が膨らんでいくっていう。
蛯名 俺、フィッシュマンズが好きで。“ナイトクルージング”とか“DAYDREAM”とか、ああいう曲を自分なりにできねえかなっていうのもあって。ルーツ・レゲエみたいなノリとかもそうだし、いまでもやっぱり、そういう部分は出てると思うんですけどね。
――ループする心地良さはすごく感じます。
蛯名 そうですよね。ブレイクしてドーン!みたいにパッと展開が変わるんじゃなくて、雪だるま式にワーッてでっかくなっていくような曲がいいと思うんですよね。そういう音楽が好きだし、俺はそういうのが出来る人だと思ってる。俺、ロックにこだわりがないんですよね。ロック・ミュージックのカッコよさをあまり理解してないんです。(哀愁に満ちたギターの口真似をした後に)……みたいなブルースとか、あと「セックス、ドラッグ&ロックンロール! イエー!」みたいな感じは昔っから全然ダメで。どっちかって言うとフォーク的な、歌詞とか言葉の揺らぎとかの生々しいところにすごい感動しちゃう人だから。
――では、言葉を伝えるための最善の音をどうするか考える感じですか?
蛯名 そうですね。でも、ハードコアとかパンク・ロックとかはすげえ好きで。言いたいことがちゃんとあって、俺にはすげえ崇高に見えるというか、すごい実直で、素直な音楽だと思う。
――先ほど話に出た友部正人さんとかも、ある意味パンクだというか。破壊的な言葉をドーンと投げつけてくるようなところにリアリティーがあるし。
蛯名 ああ、そうですね。友部さん聴いたときも自分みたいだな、って思いましたもん。もっと彼は比喩表現多いけど、そう思ったことあったな。井上陽水もそうだし、やっぱあの時代の人はすごい。俺、「夜のヒットスタジオ」とか見てたような古い世代の人間なんです。年的に言ったらヒットスタジオは全然リアルタイムじゃないんですけど、兄弟がみんな年離れてて、俺だけ5、6歳下の末っ子で一緒に観てたから、ニューミュージックとか歌謡曲とかの影響がすごいあるんですよね。
――そういうものが入り混じった楽曲を、今回はバンド・サウンドでライヴ感を出して。
蛯名 そうなんですよね。だから、恐いぐらいに全部出てる。
――それでタイトルも『dis is the oar of me』に。
蛯名 そうですね。ダジャレですけどね。
――oar(櫂)はall(すべて)でもあるという。
蛯名 はい。
――収録曲のセレクションといい、本作はもうベスト盤ですよね。
蛯名 そうですね。ホントにこれがベストです(笑)。だから、次回はたぶん、ダメなんじゃないかと(笑)。もう、これよりいいのは出来ないと思うんですよね。でも積み重ねていくことは大事で、次回出してみて、「やっぱり今回の作品のほうが良かったね」ってなったとしても、それはそれでいいんじゃないかと。これは、そういう作品ですね。次回作ではまた打ち込みの曲をやったりもしたいし、いろんな欲はあるんですよね。今回はライヴ盤的なところがあるから、そうじゃなくて、もうちょいスタジオ(録音)的な感じのものをやりたいな、っていうのが漠然とあって。
――そちらも楽しみですね。
蛯名 で、出してみたらやっぱりこっちのほうがいいって言われるかもしれないですけどね(笑)。今回の作品ではそれぐらい出し切ったんで。清々しいですね、いまは。