ajapai
日本のクラブ・ミュージック・シーンを代表するDJ/プロデューサー/トラックメイカーが、全曲インストゥルメンタルの新作を完成させた。音楽を作り始めた頃の初期衝動と純粋に向き合った結果、彼が新作の主役に据えたのは極悪にうねるベースライン。フィジェット・ハウス~ダブ・ステップを横断しながら聴き手を宇宙規模(!?)のダンス・フロアへと導く本作について、ajapai本人に話を訊いた。
女子禁制!? ダブ・ステップは侍っぽくて潔い
――新作を聴かせていただきまして……いやぁ、これはめちゃくちゃワル~いアルバムだなぁと(笑)。クソご機嫌なアルバム、本当にごちそうさまでございました!
ajapai ハハハ、悪党アルバムですよね(笑)。
――ええ、ホントにそうだと思います(笑)。で、昨年末のエレクトロ特集内でのインタヴューでも予告されていたように、今作は全編インストで貫かれ、悪魔のようなベースがうねるフロア蹂躙型のフィジェット~ダブ・ステップ・アルバムになってます。どういった流れからこのような作品に至ったのか教えていただけますか。
ajapai ずーっとヴォーカルものが多かったんですよね。『unaffected』も『Cheers!』もそうだし、本人名義のPlanetary Folkloreの頃もそうで、もうやり尽くした感じがあったんですよ。あと、僕は90年代の頭にNYアンダーグラウンドからキャリアを始めてるんですけど、いつかもう一回そのスタンスに戻りたいなってのがあったんです。で、そこに戻るなら歌をのっけるとかは一切考えずに、インストで勝負できればなと。それで最初から歌はやらないと決めて作業したんですよ。
――とは言え、いくらクラブ系の音楽が浸透したと言ってもダブ・ステップやフィジェット・ハウスって日本ではまだ決してポピュラーなものではないし、それをメジャーのユニバーサルからリリースするのって結構チャレンジだよなぁと思ったんですが。
ajapai それは、うちのA&Rが「どれだけ売れないものを作れるかやってみましょう!」って言ってくれたんでね(笑)。それで〈悪党〉アルバムなんですよ。
A&R (満面の笑みで)トラック文化助長アルバムっすから!
――ワハハハ、悪いヤツらが集まって実現しちゃった作品だと(笑)。そういうの最高ですねえ。ところでajapaiさんがダブ・ステップやフィジェット・ハウスに傾倒していったのは、やっぱり現場の盛り上がりに影響を受けてだったんですか?
ajapai いや、制作の方に集中しちゃうとクラブにはあんまり行かないんですよ。で、ajapai(名義)になったときって2ステップやUKガラージがあったんですけど、それが下火になっても好きなのは変わらなくて追っかけていたら、ベースライン・ハウスみたいなものが出てきて。
――ああ、そうか。元々グライムって2ステップの流れから生まれたものですし、ダブ・ステップもUKガラージのなかから派生した音楽ですもんね。
ajapai そうなんですよ。「また違うことやりやがって!」って言われたらいやだけど(笑)、文脈上はちゃんと繋がっているんですよね。それで、ロッキンなエレクトロにはあまり触手が伸びなかったんですけど、元々やっていたUKガラージ、フォー・トゥ・ザ・フロア、その流れでベースライン・ハウスなんかを聴いていくうちに、もっとベースが欲しいって思うようになってきた(笑)。それでよりベースが歌みたいなダブ・ステップを好きになっていって、シーンがやんや言い始めたところと、自分の音楽性がクロスしてきた感じだったんですよね。
――ははぁ、なるほど。
ajapai あと男っぽいのがいいんですよね。UKガラージや2ステップの頃って、キプロスのアイア・ナパにも行きましたけど、実際に水着の女の子とかがいる感じで華やかで。だけど、ダブ・ステップには女子がいないですから(笑)。フィジェットはまだおもしろいというか笑えるところがあるんだけど、ダブ・ステップはドラムとベース、というかベース(笑)でどれだけ勝負できるかってところがあって、それが侍っぽくて潔いし、迷いもない感じが好きなんですよ。それは僕自身いい意味で欲がなくなってきたのと関係していると思うんですけど。
――欲と言うと?
ajapai 音楽を商売でやっている上でマーケティングや戦略ってあると思うんですけど、今回はそういうのがないところでやりたかったんですね。もちろんこれを色んな人に聴いて欲しい気持ちはありますけど。やりたいことをどれだけ素直にできるか、ダンス・ミュージックを作り始めたときの初期衝動とどれだけ純粋に向き合えるかの勝負っていうね。それでタイトルもajapaiとajapaiの対決っていう。
――ああ、セルフ・タイトルってそういう意味があったんですね。
ajapai そう。結果、パッケージとして聴けばフロア力も凄いしDJとしてもかけられるものだし、ご家庭のラジカセで聴いても……まあ怖いところはあるけど(笑)、基本ギャグで作ってるんでね、ベースが〈ブー!〉っていってるところとかで思いっきり笑って欲しいなと(笑)。
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