あらかじめ決められた恋人たちへ
込み上げる衝動を荒々しい残響の渦のなかに解き放ち、ダブ・エフェクトによって増幅させる――暴力性と叙情性が生々しく溶け合ったサウンドで観客を〈ロック〉し続けている池永正二のソロ・プロジェクト=あらかじめ決められた恋人たちへ(以下:あら恋)が、〈フェイクメンタリー・ライヴ・アルバム〉と銘打った新作『ラッシュ』をリリースする。バンド編成によるライヴ音源に生活音を溶け込ませることで現場の空気感をシネマティックに浮かび上がらせた本作について、ピアニカ、ベース、ドラムス、テルミン&パーカッション、PAという異色のバンド・メンバー5人に話を訊いた。
――あら恋の初のライヴ・アルバムであり、バンド編成でのレコーディングとなった作品『ラッシュ』が発売されます。まず、現在のバンド・メンバーがどのように集まったのかを教えてください。
池永(トラック/ピアニカ)「キム君とクリテツさんは、大阪時代からバンドに参加してもらっていました。劔君もその頃から知り合いで。2008年の1月に僕が上京してすぐ、先に東京に移っていた3人に声をかけて、2月にはライヴを始めましたね」
劔(ベース)「きちんとメンバーに誘われたのは、ライヴをやる1週間くらい前ですけどね(笑)。それから1週間で9曲くらい覚えて。全員で音合わせしたのもたった1回で」
クリテツ(テルミン/パーカッション/ピアニカ)「僕なんて、池永君が東京に来たのは人づてに聞いたんですよ(笑)。まあ、引っ越しとかで急がしかったんだろうけど……」
――(笑)で、さらにライヴPAとして、今作のリリース元であるmaoのオーナー、石本さんが参加されたと。
石本(ライヴPA)「そうですね。確かサード・アルバムの『カラ』が発売される前、8月くらいから参加しました」
池永 「やりたい人に声をかけていったらいまのメンバーになったので、すごく自然な、いい編成だと思ってます。年齢はバラバラなんですけどね。キム君、劔君は3つ下で、クリテツさんと石本さんは年上。同年代がいない(笑)」
――メンバーのみなさんと、あら恋との出会いはどのようなものだったのでしょうか。
劔「学生時代に参加していたイデストロイドというバンドで、難波ベアーズによく出演していたんですけど、池永さんがそこの店員で。ライヴを初めて観たのは大阪のDICEという小さいハコで、その頃はギターも弾いていたし、傘を持ったり、頭にヘッドライトをつけた姿でパフォーマンスをしたりしていて。それが2001年くらいかな。 当時はもう、あら恋はソロ・アーティストとして相当浸透していたし、格上の人だと思っていました」
キム(ドラムス)「確かに当時から、大阪のアンダーグラウンド・シーンのなかでも、異色のアーティストではありましたね。僕も以前参加していたバンドが難波ベアーズとかに出てたんで、その流れで池永さんと知り合いになって。セカンド・アルバム『ブレ』の頃にメンバーに誘われたんですけど、ソロでの確立されたライヴを知っているから、どうやってドラムを入れていくのか想像がつかなかったですね」
クリテツ「僕も当時ドラムをやっていたバンドがベアーズに出たことがあって、それがきっかけで知り合いになって。その後、バンド形態でライヴをやるらしいっていう話を聞きつけて、〈パーカッションとテルミンをやらせてよ〉ってお願いした覚えはあります。そしたら〈いいですよー〉ってあっさりオーケーしてくれて。テルミンが入ってる曲なんてなかったのに(笑)」
劔「池永さんは人のやっていないことをやりたい気持ちが強いですからね。新しい楽器とか、どんどん採り入れたいっていう(笑)」
石本「僕は唯一、池永君が上京してからの付き合いですね。去年の頭に、彼がライヴハウスでDJしている時に知り合って。アルバムは昔から好きで聴いていたんですけど、ずっとソロ・アーティストだと思っていたので、バンド形態でのライヴを初めて観た時は、音源とイメージが全然違っていたのに度肝を抜かれた感じです」
――バンドではどのように音を合わせているんですか?
池永 「手順はあんまり……ないかな(笑)」
劔「曲が元々ありますからね」
池永 「最初に曲をメンバー全員に渡して、実際にスタジオで構成し直してます。でも、僕からどうこうしてくれという指示はあまりしないですね。僕がやりたいことをメンバーに求めちゃうと、元々メンバーが持っているものを引き出せないでしょうし、僕のなかでは、メンバーから出てくるアイデアやフレーズを集約したいっていうのがあるんです。元々、メンバーに誘ったのもみんなの演奏が好きだからで、あら恋にはハマると思ってましたし」
――メンバーが固定されてから、曲作りの方向が変わったりしましたか?
池永「意識的に変えようとは思っていませんが、ライヴもたくさんやりましたし、作曲に関して何らかの影響は受けていると思います。それが何かは、もっと作ってみないとわかりませんが」
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