あらかじめ決められた恋人たちへ(2)
――『ラッシュ』は、今年の2月13日に開催されたワンマン・ライヴを再構成した〈フェイクメンタリー・アルバム〉ということですが、どのようなコンセプトから生まれたのですか?
池永「ライヴってドキュメンタリーだし、現場のものじゃないですか。演奏家も、その演奏を実際に目で見るお客さんも含めてひとつのサウンドになっていると思うんです。だから、(出ている)音だけをそのまま盤に落とし込む手法は有効じゃないと感じていて。かといって、すべてを再構築するのではなく、生活感というか、〈LIVE=生きる〉という意味を含めたライヴ・アルバムを作りたいと思って。そのテンションを高めるために、いろんな生活音を入れていったんですよね。そうすることで、僕たちのライヴがズドンと盛り上がる瞬間を、より鮮明にできるかなと考えたので」
――子供の声やバスのアナウンスといった生活音が入っているのは、すべて池永さんのアイデアなんですね。
池永「そうです。『ラッシュ』の冠になっている〈フェイクメンタリー〉というのは、モキュメンタリーのことで、あえて虚構を見せることで事実を描く手法のことなんです。さっき、ライヴはドキュメンタリーだ、って言いましたけど、演奏側にとっては事前に曲順を決めたりアレンジを決めたりとか、実際はシナリオがしっかりあるわけです。そういう観点からいくと、ライヴはドキュメンタリーではないんですね。だったら現場の音以外にいろいろな音を付け足して、〈ライヴという事実〉を組み立ててもいいんじゃないかと思って。で、何を入れるかというとやっぱり〈LIVE〉なんで、生活の音かなと。実際、僕らも生活かけてライヴしてますし。かといって、洗い物の音なんかを入れてしまうとライヴ・アルバムとして成立しないので、あくまでも僕らのライヴっぽい音を探しました。結果、近所の小学校のチャイムの音とかライヴ録音当日の渋谷に向かう電車の音なんかがハマるかなぁと。チャイムの音も曲のスケールに合わせるとすごく良いハーモニーになったりするんですけど、それって生活がライヴに溶け込んでいるってことだと思うんですよ。ただ、単純にギミックを入れたらいいってもんではないので、それらの生活音はあくまでもライヴ音源に向かっていて、最終的にはライヴ・アルバムとして成立しているものにしようと思いました」
――素材となったライヴは、どのように録音したんですか?
石本「24トラック分のレコーダーでライヴを録音して、それを元に池永君が全体を再構成しています」
池永「狙っているサウンドは、スタジオ・ワン(ジャマイカのレゲエ・レーベル)とギターウルフ。どっちも乾いた質感がありますよね。で、今回のアルバムは、4割がギターウルフで4割がスタジオ・ワン、残り2割で遊びを入れていくみたいな音に仕上げたつもりです」
――メンバーのみなさんは、実際に『ラッシュ』を聴いてみてどうでしたか?
キム「ライヴの時、お客さんにどのように聴こえているのかいつも気になっていたんですけど、今回のアルバムで初めてちゃんと聴いて、〈ええやん!〉って思いましたね(笑)。収録の当日は、最初は技術的な部分で〈ちゃんとせなあかんな〉って考えていたんですけど、開演が近付くにつれて、いつも通りやろうって思いました。開き直ったというか」
劔「僕も丁寧に弾こうと思ったんですけど、やっぱりお客さんがいて、盛り上がっている姿を見ると、いつも通りのテンションになりましたね。録音してしまえば、あとはもう池永さんにお任せですから、アルバム・トータルとしてこうしてほしい、というのは全然なかったです。そういう仕事は信頼しているので」
――公開録音の当日、池永さんはかなり体調が悪かったそうですが。
池永「緊張しすぎてたみたいです(笑)。ライヴ直前に急激に体調が悪くなって、終わった後は病院に直行しました。そしたら急性胃腸炎で(笑)」
石本「楽屋で倒れてたもんね(笑)」
クリテツ「ライヴのオープニングでマスクしてたのも、それが理由で」
石本「あれは演出じゃなくて、ドキュメンタリー(笑)」
池永「ホンマにあかんかったなぁ。悪寒がすごかった(笑)。僕はライヴ素材に手を加える立場だったから、そこで失敗したらむちゃくちゃ大変なのはわかってて。それもあって緊張しすぎたんだと思います」
キム「でも、最終的にはいつも通りのあら恋のライヴだったと思いますよ」
――先日、ROMZの7周年イヴェントでライヴを観させてもらいましたが、その日も演奏は荒々しくて、気持ちを強引に持って行かれる感じがありましたね。
劔「まあ、あの時は極端に荒かったですけどね。夜中ってこともあって、独特のテンションになってました(笑)」
石本「そんな状態でも、常にクリアしている水準が高いというか。僕もレーベル・オーナーという仕事柄、かなりのライヴを観ますけど、圧倒的に安定してますね」
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