あらかじめ決められた恋人たちへ(3)
――『ラッシュ』の制作過程もそうですけど、あら恋はバンド編成であっても、主導権はあくまで池永さんが握っているんですね。
キム「それは昔からですね。やっぱりあら恋は池永さんのプロジェクトだから」
池永「個人的には、その意識もだいぶなくなってきましたけどね。ソロ・プロジェクトというよりは、(周りのメンバーも含めた)企画ユニットっていう感じが強くなってきました」
キム「あら恋との付き合い方は、メンバーそれぞれなんですよ。あら恋をどうしようとか、どう関わっていくべきか、ということを、メンバー全員口にしたことがない(笑)。でもこうやってバンドが成立して、続いている。それは、中心に池永さんがいるからバランスが保たれているんです。サウンドにも、そういった不思議な空気感はあると思いますよ」
石本「ステージ上のメンバーだけではなく、僕のようなPAや、照明や映像の人たちも〈あら恋のライヴをいっしょに作りたい〉と言ってくれるし、そうさせる魅力があるんです。僕もメンバーに参加した当初は東京だけでPAをやっていたんですが、やっていくうちに地方もいっしょに回らねばって思うようになった。それは池永君が、サウンド、照明、映像、そしてお客さんと、トータルでステージを作りたいっていう強い意志があるから。だから、あら恋に関わる人は全員ファミリー、という結束感がある」
――池永さんは、バンド編成とソロを今後も並行してやっていくのでしょうか。
池永「次のアルバムは、バンドの音もソロの音もどちらも入れて行きたいと思ってます。完全なソロは、映画音楽とかでやると思うんで。僕はバンド・メンバーを束縛する意志はゼロだし、みんなに好きなことをやってもらって、それをあら恋にフィードバックしてもらえれば良いと思っています。逆に、あら恋での活動を、みんなが別の形に活かせればいいとも願っている。『ラッシュ』では、そういう僕らなりのバンドの形と、サウンドを見せることができたと思います。照明さんやPAさんを含め、みんなが役割分担して、作品を作り上げていくスタンスというのを」
石本「この前も、池永君と古い友人であるworld's end girlfriendの前田(勝彦)君がライヴを観に来てて、それがきっかけで僕が彼のバンドのPAをやることになったり。あら恋が生み出す繋がりって、本当に刺激的なんですよ」
――確かにトータルで見せるということでは、『ラッシュ』にもDVDやポスターがついてきたりしますね。
池永「ジャケットは、今回も『カラ』と同じく林さん(イラストレーターの林絵美子)に仕上げてもらって。DVDの編集は、僕が全部ディレクションして。こっちはライヴ・ドキュメンタリーとしてまとまっていますね。今回はメニュー画面がすごいんですよ。雨が降ってて、蝶が飛んでてカッコ良いねん(笑)」
――東京に来て、何か音作りにおける手法やテーマに変化はありましたか?
池永「プロダクションや過程がきちんとしてきたし、やることが増えたり大きくなったりしているけど、物事を判断する時の基準は全然変わっていませんね。メンバーもみんな変わってないもんね。キム君とか」
キム「変わってないですよね(笑)」
池永「変わってないといっても、揺れてはいるんです。その振り幅がどんどんでっかくなっていってるんですけど、振り幅の支点は変わらない……でも、振り幅が広がったら場所が違ってくるもんな。じゃ、変わっていってるやん」
クリテツ「(笑)でも池永君は、そうやって常に相反することを同時に考えているよね。それは個性だと思う」
池永「僕はフラットというか、常にメンバーともイーヴンであるべきやと思ってるんですよ。アレンジとかも基本的には自分で決めるけど、すぐに確認しちゃう。大丈夫かな?って(笑)。メンバーだけじゃなくて、お客さんにも」
石本「そうだね。ジャンルひとつとっても、ダブでもレゲエでもロックでもあるし。それらすべてをリスペクトしつつ、いろんなところを彷徨いながらサウンドを作ってる」
劔「でも結局は、 池永さんがいいと思ったものが、すべてドバッと出てくるバンドですよね」
クリテツ「そういう意味では、過去のアルバム・タイトルに『ブレ』ってありますけど、池永君の〈ブレること〉に対する〈ブレなさ〉はすごく感じるかな」
石本「確かに。グレー・ゾーンというか、境目のものをずっと大事にしている気がしますね。だから『釘』『ブレ』『カラ』の三枚も世界観はずっと一貫していて、高いクオリティーが保たれている。今回のアルバムも、彼は確信を持って作ったはずなのに、一方で疑問を持つかのような視点がある。そういう、どんなものに対してもイーヴンに接する姿勢は、池永君が人間的にも愛されている要因のひとつだと思いますね」
池永「愛されているんかぁ(笑)。ありがとうございます」
――そういう問いかけや疑問を常に持っているというのは、非常にロックですよね。
池永「ああ、そうですね! やっぱり大事なのは、ロックなんです。ある意味、それは突き詰めていきたいです。でもそれは〈ある意味〉なんです。別の意味で言うと、そういうロックが大っ嫌いであったりする時間もあるので、その振り幅、その振れる振動から響くダブが、あらかじめ決められた恋人たちへなのではないかと思っています」
▼あらかじめ決められた恋人たちへの作品を紹介
- 前の記事: あらかじめ決められた恋人たちへ(2)
- 次の記事: あらかじめ決められた恋人たちへ 『ラッシュ』 mao