iLL
異なる趣の3枚の先行シングルを経て、いよいよニュー・アルバムを完成させたiLL。オルタナ時代のローファイ感覚で80年代以降のニューウェイヴ~テクノへの興味を自在に鳴らす彼が、〈ポップ・ミュージック〉という命題にさらりと挑んだ本作について語る。
どこにでも行ける、どこにでもいられる柔軟性
iLLのニュー・アルバム『Force』は、これまでのナカコーの――すなわちスーパーカー時代を含めたキャリアで伝えてきた彼自身の音楽観を総覧したような一枚かもしれない。
ポップなアプローチからエクスペリメンタルな作業まで、作品ごとにさまざまな表現手段を用い、生バンド演奏から打ち込みまでを並列させ、既成の価値観に従わない音色や空気感を重視した姿勢で音を鳴らしてきたナカコー。だが、めざす方向や趣向、立ち位置やアングルは一定していてブレがない。もっとわかりやすく言えば、オルタナ時代のDIY精神に則ったローファイ感覚を持っている彼は、80年代以降のニューウェイヴ~テクノへの興味を、デヴィッド・ボウイやヴェルヴェット・アンダーグラウンドのように自在なスタンスで鳴らす。それがナカコー=iLLの音楽であるとするなら、通算4作目にあたる『Force』は、そんなiLLをそのまままとめ上げたような内容かもしれない。
シングル曲“Deadly Lovely”のみ砂原良徳がプロデュースを担当し、プレイヤーとしてはナスノミツルや沼澤尚らの参加を経て完成させた本作を、では実際のところ、ナカコー自身はどういう意味合いを持つアルバムとして捉えているのだろうか。彼自身のバックグラウンドとのシンクロを含めてたっぷりと話を訊いた。
――やっぱり、まずはピンク・フロイドの〈狂気〉を思わせるジャケットのアートワークから伺いたいんですけど。
「うーん、まあ、僕が宇川(直宏)さんに頼んだんです。まさにピンク・フロイドとフリーメイソンあたりをイメージした三角形で、みたいに」
――なぜ、三角形というイメージを?
「シンプルで力強いっていうか。それがすべてを表しているし、今回のアルバムの内容にも近いと思って」
――オッサンのプログレ・ファンがiLLなんて知らずに関連モノかと思って買ったりして。
「ああ、まあ、それならそれで(笑)」
――三角形が体現する、アルバムの内容とシンクロしたその〈力強さ〉というのは、具体的にどういうものを想定していたんですか?
「まあ、力があって支配している、みたいな感じですかね。力があると、支配されるし、支配するし。フリーメイソンもそういうイメージが、あくまで都市伝説としてあったりもしますけど、ひとつの力の象徴って感じですよね。三角形というものが〈力〉を伝える図形という感じもして」
――それは、iLLという音楽が持つ3つの力を表してもいるんでしょうか? 例えば、大衆性、クリエイティヴィティー、アイロニーみたいな。
「うーん、まあ、それもあるし、何にしても僕自身はバランスを取るタイプなんだとは思いますね。ひとつの要素だけに寄って絞り込んでしまうんじゃなくて」
――ええ。例えば、iLLの作品は基本的に多幸感や昂揚感のようなものがありつつも、歌詞には〈DEAD〉のような一見、内向きな単語も時々出てくる。
「そう言われると、あ、そうだなって気がしますけど、自分としては知らない間にそうしてるって感じなんですよね。例えば、〈DEAD〉という言葉に対しても、ネガティヴなイメージを意識して使っているわけでもない。ひとつの物事に対して良い面もあれば悪い面もあるし、人によって捉え方も違うわけで。僕自身は、その真ん中にいたいって感じですね」
――それがバランスを取っていたいという意味?
「そうです。どこにでも行ける、どこにでもいられる柔軟性みたいな感じですね」
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