iLL(3)
次のステップに向けた一区切り
――〈DEAD〉みたいな言葉を前向きに転化させる感覚もボウイあたりから学んだわけだ。
「まあ、何しろ〈ロックンロール・スーサイド〉だから(笑)。〈スーサイド〉って単語を辞書で調べたら〈自殺〉とある。〈自殺か~!〉って。でも曲調はきれいだしカッコイイ。〈ああ、こういうのもありなんだ〉って思って」
――それは、相当な衝撃だった? それとも、何となくそういう価値観が自然と堆積していって自分がそもそも持っていたリベラルな感触といつのまにか結びついたという感じ?
「んー、衝撃というよりも、〈ああ、こういう表現っておもしろいや〉って思ったのがいちばん大きいですけどね。あと、割と昔から、自分のやれることに素直に従うような意識はありましたね。スキルを意識しないというか。例えば、超絶ギター・ソロみたいなのって音楽として聴くのは好きですけど、自分でやるのは違うなあと思うような。ボウイもヴェルヴェッツもそういうのを感じさせるところあるし」
――それはアンチ・テクニカル=パンク~ニューウェイヴの精神なのかな?
「うーん、そうとも言えないんだけど、聴く時と作る時の興味が別ということなんだと思います。自分が無理にやるなら、ちゃんとできる人に来てもらって弾いてもらうとか、そういうほうがいいなとは思いますね」
――例えば、今回のアルバムには確かにドラムで沼澤尚とか、ベースでナスノミツルとか、〈その筋〉の方がゲスト参加しているし、シングル曲でもある“Deadly Lovely”は砂原良徳がプロデュースしたりしているわけだけど、ギターに関しては、割と昔から外から呼んできていない印象なんですよ。実際、今回のアルバムでもギターは全部自分が弾いているでしょう? これは意図的なものなのかな?
「それはあまり考えていないですね。まあ、自分の曲に合った音をギターだと出しやすいというのはありますけど、巧い人を呼んできても、超絶プレイを要求はしないと思うんですよね。楽曲そのものがそっちに向いてないってことなんだと思いますね。テクニックより音色とか空気感のほうに興味があるというか。そのあたりの価値観は、リアルタイムでローファイものを聴いてきたことが影響してるかも。テクニックよりおもしろい音とか、チープな音とかのほうに興味を持つようになって、その衝撃がいまもあるのかもしれない。こんなチープな音で録ってもいいんだっていう」
――つまり、音楽に対するバランスの取れた視野の広さはデヴィッド・ボウイやヴェルヴェッツから学んで、音色や空気感を重要視する姿勢はオルタナ時代のローファイに学んだ、と。そういう意味では、今回のアルバムはそんなナカコーの音楽観の集大成みたいなところがありますね。
「うーん、集大成と言うと、なんか〈進化打ち止め〉みたいな感じがしちゃうんですけど(笑)、次のステップに向けた一区切りみたいなのはあったかな。これまでになくすんなりと形になったと思うし。いままではそれなりに苦労、というか、試行錯誤を重ねながら作ってきていた部分もあるんです。ダンス・ミュージックを採り入れているという他の人の音楽を聴いても、〈なんか、それ、違うなあ〉って思って、自分が作業する際にはその部分をすごく意識してみたり。で、作業を重ねるなかで、曲がどんどん変わっていくことが楽しかったり。でも、今回はそうやっていままでやってきたことを素直にポップスに落とし込むことができたとは思いますね」
――ある意味で、自分のこれまでのスタンスを確認するための作品でもある?
「うん、今回はトライすることが新しいことではなかったというか。まあ、ポップなスタイルをまとめるのは、もう少し後でも良かったかな?と思っていたんですけど、作っているうちにこのタイミングで良かったかな、って思うようになりましたね。いまは次(のアルバム)に向けたイメージが何となく出来てきてるんで」
――例えば、今回のアルバムのピアノによる小品の32曲目“Piano”(13曲目~31曲目の無音部分を通過した後に出てくるヒドゥン・トラック)が、その伏線になっていたり?
「うーん、まあ、この曲は今回のアルバムのアザー・ストーリーという感じなんですよね。確かに、ある意味では伏線になっているかもしれないですけど……作ってみないとわからないですね。着地点は見えないというか、ゴールの見えないスカイダイビングみたいなね。そういうのを次回はやってみたいですね」
★☆★☆★iLL ライヴ情報
iLL「Force」 Live
日時:2009年10月30日 OPEN 18:00/START 19:00
会場:東京・代官山UNIT
料金:前売り 3,500円/当日 4,000円(1drink別)※オールスタンディング
チケット発売日:2009年9月5日(一般発売)
問合せ:HOT STUFF(03-5720-9999)
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