DATASPEAKER(3)
このタイミングと、この音
――7曲それぞれにやり方も違ったし、それぞれの曲の方向性はバラバラなものではあると思うんです。でも聴いた印象としてはすごく筋が通っている。アイニさんとしては、7曲に通じてあるのはどういう感覚だと思いますか?
「なんだろう……。キーワードとしては〈アーバンな感じ〉とか〈4つ打ち〉っていうのはありましたね。最初はエレクトロをすごく強く出そうとも思ったんですけれど、作っていくうちにそういう感じでもないなと思った。R&Bとかヒップホップとかレゲエの持つアーバンな感覚を、ロックにする。そのへんを感じられるものにできたらいいなと思ってましたね」
――聴いた印象で言うと、クラブとライヴハウスの感覚がどの曲にも両方あるんですよ。それがお互いを損なわずに両立している感じがあって。
「そうですね。そういう意味じゃ、ミクスチャー・ロックとしてずっとやってきたんで。歪んだギターはないけれど、俺なりのいまのミクスチャー・サウンドとして提示した感じはあるかもしれないですね。若い子たちがバンドでコピーするような音ではないけれど、聴けば深いし、参考になる音もいっぱいあると思うから」
――2000年代のニューレイヴと90年代のオリジナル・レイヴの感覚が両方入っているような感じもありますよね。実際、時代によって流行やスタイルは入れ替わりますけれど、音を聴いて盛り上がったり踊りたくなる感覚って、根本的には同じなのかなと思っていて。
「そういうところはどっかにひとつあるんでしょうね。そこへの触れ方が時代によって違うんだろうなとは思うんですけれど。たぶん、ずっと探しているのは〈どうやってそこに触れられるんだろう?〉ということだと思うんです……悩みを打ち明けてるみたいですけど(笑)。〈お客さんのために〉って思ってた時期もあったんですよ。でもそれは結局お客さんのためにはなってなかった。smorgasをやっていた頃は、好きなことをやったらそれに共感してもらえたわけですから」
――それが〈突き抜けた〉ものになる秘訣なのかもしれないですね。
「そうですね。今回参加してくれたアーティストも、儲けようと思ってないんですよね。純粋に音楽をやることで、それが生活になっている。基本的に音楽は〈人のために〉というものではないんだと思うんです。純粋にやるべきなんだなっていうことを感じましたね」
――ちなみに、アルバム・タイトル『WILDCARD & TRANSIENT』の由来はどういうものなんでしょうか?
「わかりやすく言うと、〈このサウンドで今回は行くぜ〉ということなんです。WILDCARDというのは〈特別出場権〉で、今回リリースできたということ。TRANSIENTは、音のアタックからの減衰を表す言葉なんです。そういうことを込めて〈このタイミングと、この音〉ということですね」
――わかりました。では最後に。今回のアルバムを出して、これからは自分の音をどういうふうに更新していこうと思っていますか?
「それは、深く考えないってことですね。人のために何かをやるんじゃなくて、自分の耕した畑で人が幸せになればいい。そういう意味で、無心にやる。エンジョイ・ミュージックって感じです(笑)」
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