インタビュー

ほたる日和

 透明度の高いハイトーン・ヴォイスとしなやかなメロディー、日本情緒漂うノスタルジックなギター・サウンドで、聴き手の心を温かく包み込む4人組バンド、ほたる日和。自動車のTVCMに起用され、耳を奪われずにはいられないキラーな〈15秒〉を擁する“季節はずっと”と、〈音楽をやることに対する覚悟〉が込められた“スケッチブック”――対極の2曲がカップリングされたニュー・シングルと、彼らの根幹にある音楽性についてメンバーに話を訊いた。

真っ直ぐに世界観を広げていった

――まずはニュー・シングル“季節はずっと/スケッチブック”のことから……“季節はずっと”はTVCM(SUZUKI〈新型パレット〉)で使われていて、そこでほたる日和のことを知った人も多いと思うのですが。

倉橋潤(ギター)「そうですね。家でまったりしてる時に(TVから)この歌が流れてくると、緊張しますけど(笑)」

成相悠一(ドラムス)「とりあえず(TVのほうを)振り返るよね(笑)」

――もともとは、CM用に用意されていた15秒だけの曲だったんですよね?

早川厚史(ヴォーカル/ギター)「はい。15秒の曲があって、僕らはそれを演奏するだけだったんです。でも、〈これを1曲の作品として作ったらおもしろいな〉って思ったんですよね。CMで使われている部分は他の方が作ったんですけど、その他はすべてほたる日和ですね」

――軽やかでポップなんだけど、叙情的で切ないイメージも含まれていて。〈らしさ〉が出てますよね。

早川「もともと用意された部分に関しても、歌い方なんかで僕っぽく変えてますからね。でも、こういうコラボレーションはいままでやったことがなかったし、エキサイティングでした。他の人といっしょにやることで、また違う観点からバンドを見ることができたというか」

成相「アレンジのやり方も、普段と同じだったんですよ。まずメロディーを聴いて、そこからイメージを膨らませていくっていう。“季節はずっと”で言えば、暖かさだったり、優しさだったり……」

早川「漠然としてるよね、いつも。今回の場合はCMの世界観を崩さないで、イメージを広げていくっていう作業だったんですよね。転調を使ったり、オルタナティヴな展開にもできる曲なんだけど、そのまま真っ直ぐに世界観を広げていくというか。自分たちで聴いても〈ちゃんとバンドらしさが出てるな〉って思うし、ポピュラリティーもあって。結果的には良かったなって思ってます」

――もう1曲の“スケッチブック”はオリジナル曲ですが。これはもう、歌詞が素晴らしいな、と。

早川「あ、ホントですか?」

――〈この最低な世界にも良いことはあるはずさ〉なんていう強いフレーズがあるんだけど、それが違和感なくスッと入ってくるんですよね。

早川「ありがとうございます。これはホントに最近っていうか、いちばん新しい曲なんですよね。“季節はずっと”の対極にある曲を作ってみたんですけど、自分の覚悟がすごく入っていて」

――覚悟っていうと?

早川「音楽をやっていくうえでの覚悟、ですね。歌詞のフレーズに〈“頑張ればきっと報われる”なんて滑稽だと思いますか〉っていうのがあるんですけど、それも僕なりの決意なんですよ。誰に何を言われてもいい、笑われてもいいから、僕はこれをやっていくっていう。棘というか、毒みたいなものも入ってると思うし」

倉橋「すごく共感できる歌詞なんですよ。バンドをやってると、いろんな見方をされるんですよね。応援してくれる人もいれば、〈(バンドを続けられているのは)運でしょ〉みたいに言われることもあるし。そういうリアルな感じを書いてるのかな、と」

あやこ(ベース)「何て言うか、頭が痛いです」

――え? どうして?

あやこ「あの、あまりにもリアリティーがありすぎて。心のなかにあることがそのまま、バーッと出てるんだと思うんですよね。だから、頭が……じゃない(笑)、胸が痛い感じがあるんですよね」

成相「すごくいいと思いますね、これは。毒っぽいというか生々しいというか、個人的にはこういう感じの歌がもっとあっていいのになって思ってたので。ふだんは言わないですけどね」

早川「(笑)まあ、人間って、絶対に毒を持ってますからね。僕がいつも思ってるのは、ちゃんと自分の心を描こう、個人的な内容を書こうっていうことなんです。“スケッチブック”では、それが自然にやれたんじゃないかなと。それにこの曲って、広い人に共感してもらえると思うんですよね」

――そうですね。パーソナルな想いから発してるんだけど、ポップスとしてもきちんと成立していて。

早川「さっき言ってた〈ポピュラリティー〉っていうことにも繋がってくるんだけど、誰が聴いても〈そういうことってあるよな〉って思ってもらいたいんですよね。この曲のストーリーっていうのは、クヨクヨ迷っていた男が北の大地に戻ることで――僕が北海道出身なので――決意を新たにする、っていうものなんですね。舞台は北海道なんだけど、たとえば〈北の国から〉を見て共感するみたいに、物語のなかに入っていってほしい。そういうトリップするような感覚は、いつも意識してますね」

――逆に言えば、聴覚上は穏やかで心地良くても、なかに込められている感情は濃い、という。

早川「うん、そうですね。たとえば“リンゴアメ”(2008年8月発売のセカンド・ミニ・アルバム『ノスタルジック』に収録)という曲もそうなんですけど、別れた相手に対して〈「君が幸せならいい」そんな訳ないでしょう〉って歌ってるんですよ。でも、サウンドはできるだけ優しいイメージにして、そういう気持ちを中和してるんですよね。楽曲の世界観を構築するうえで、行きすぎないっていうことはいつも心掛けてますね。だって、〈君が幸せならいいって、そんなこと思うわけない〉っていう歌詞をマイナー調のフォークみたいな曲にしたら、逆に伝わらないと思うんですよ。くどすぎるというか、栄養過多みたいな感じで。そういうことは最初から考えてましたね」

カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2009年11月25日 18:00

文/森 朋之