ほたる日和(2)
いちばん大事なのはグッド・メロディー
――なるほど。バンドの方向性やコンセプトに関しても、結成当初から明確だったんですか?
早川「いや、そうでもないと思います。最初は僕、弾き語りをやってたんですよ、下北沢の路上で。そこで(成相)と知り合って」
成相「下北で飲んでて、ちょっと酔っ払ってたんですよ。で、漫画読んでもらってたんですけど……」
――漫画読んでもらってたって、何それ?
成相「あ、知りません? 下北沢にいるんですよ、漫画を大声で読んでくれる人が(笑)。で、〈北斗の拳〉を読んでもらってたんですけど、その何メートルか先から聴こえてくる歌がだんだん気になりはじめて、そっちに移動して」
――それが早川さんだった、と。
成相「そうです。普段、路上の弾き語りに足を止めることはないんですけど……でも、その時は声も曲もすごくいいなって思ったんですよね。で、〈この人はバンドをやってるんだろうな〉と。バンドの曲っぽいというか、歌を聴いてると自然にリズムとかが浮かんできたので。〈俺だったら、こういうふうに叩くな〉とか〈ここでブレイクを入れよう〉とか(笑)。それで〈今度、ライヴに行きますよ〉って声をかけてみたら、バンドはやってないって言うから、〈え、マジですか? じゃあ、いっしょにスタジオ入りましょう〉って」
早川「成相とあやこはもともと知り合いで。成相とはすぐ仲良くなって、スタジオに入ったんですよね。あやこはそこで初めて僕の歌を聴くことになってたから、〈じゃあ、いっしょにやるための説得材料になるような歌を歌ってやる〉って思ってて(笑)」
――どうでした? 彼の歌は。
あやこ「すごく良かったですよ。いままでいっしょにやったヴォーカルのなかでは、抜群に良かった……こんなこと言うと恥ずかしいけど」
――それまではどんなバンドをやってたんですか?
あやこ「えーと、暗い日本語のバンドです(笑)」
――(笑)じゃあ、それほど遠くはないですね、早川さんの作る歌とは。
あやこ「そうですね(笑)」
早川「どちらかというと、陰で終わることが多いから(笑)」
あやこ「でも、さっき話してた〈人間には毒がある〉みたいなことも、〈私もそうだな〉って思ったんですよね。バンド=自分みたいなところがあるのかなって」
――価値観みたいなものも、ある程度は共有していたほうがいいですからね。
早川「そうなんですよね。いっしょにバンドを組むってことになると、いろいろ考えるじゃないですか。それまでも何度か〈いっしょにやろう〉って言われたことがあったんですけど、バンドをやるまでには至らなかったんです。でも、このバンドを組んだ時は、ポンポン話が進んだんですよね。4人が揃うまでに、2週間ちょっとじゃなかったかな? 3人でスタジオに入って、〈もうひとりギターがいたほうがいいね〉ってなって、すぐ(倉橋が)入って」
倉橋「このふたり(成相、あやこ)と知り合いで、誘われたんですよ。音源を聴かせたもらったんですけど、確かに〈ギターがもう1本あったほうがいい〉って思いました(笑)。曲も良かったですね。独特の雰囲気があって、しかもポップだったから」
――ちなみに早川さんが曲を作りはじめるきっかけになったアーティストっていうと……?
早川「憧れてたのはほとんど洋楽なんですけど、雑食ですね。最初はビートルズだったんですけど、いきなりメタルを聴きはじめたり。しかもナパーム・デスとか、かなりひどいやつを(笑)」
成相「男性陣は全員、メタルを通ってるんですよ。僕もツイン・ペダルだったし」
早川「(笑)まあ、そこからは何でも聴くようになりましたね。オアシスとかUKロックも好きだったし、ザ・バンドも聴くっていう。J-Popも聴いてましたよ。サザンとかユニコーンとか……いちばん大事なのはグッド・メロディーなんですよね」
――ほたる日和の曲には日本情緒も含まれていると思うんですけど、J-Pop以前の日本の音楽についてはどうですか?
早川「あ、全然聴きますね。中島みゆきとか吉田拓郎とか、はっぴいえんどとか。長渕さんも聴いてたし。まあ、いまやってる曲からは、かけらも感じられないと思うけど(笑)。でも、ジャンルは関係ないです」