SISTER JET 『MR.LONELY』
NO MUSIC, NO LIFE.、NO SISTER, NO JET.――21世紀の寂しがり屋たちの憂鬱は、SISTER JETが吹き飛ばします!
導火線をメラメラと燃やしながら爆発に向けてカウントダウン中のロック・トリオによる新作は、なんとタワーレコード限定シングル! そんなわけで、新曲+ライヴ・テイク集“MR.LONELY”のリリースを控えた3人に、何回目かぐらいの取材っぽいことを敢行してきました。ワタルS(ヴォーカル/ギター)によると「こんなインタヴュー、ない(笑)」らしいですが、わりと他では読むことのできない話を訊くことができたのではないかと……(たぶん)。
胸が躍ればいいんじゃん?
――まずは〈スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2010〉、お疲れさまでした。回ってみてどうでした?
ワタル「あのね、スペシャの人にも言われてたんだけど、やっぱ、どう考えても俺らが大穴だから。他のバンドのほうが名前が売れてるから、ダークホースだってことを割り切って。でも、どうせなんだからお客さんに何らかの傷痕を残そうぜ、って気持ちで回ったかな、8か所」
――その手応えは?
ワタル「いやもう……6勝……2分けぐらいでしたね」
――2分けが気になりますが(笑)。アオキさんとサカベさんはどうでした?
ケンスケアオキ(ドラムス/コーラス)「いや、手応えは抜群でした……っつうか、なんか、俺らがやってきたことは間違ってなかったな、っていうことを実感したっすね」
ワタル「間違ってるって思ってたの?」
アオキ「俺は迷ってた感があったから。でも、このまま突き進むしかねえな、って思いましたよ」
ワタル「なんすか、それは。いちばんカッコ良いじゃんって思った? 自分で」
アオキ「そうそう。思った(全員爆笑)」
――俺ら、いちばんカッコ良いっていう?
アオキ「そうそうそう」
ワタル「また今回も、過激になりそうですねえ(笑)。徐々にbounceのあの感じ(前回のインタヴューをどうぞ)が……」
――ほぼ雑談のように進めますのでね、そうすると、うっかり……。
ワタル「思ってることが出ちゃうんだよね(笑)」
――はい、出しちゃってください(笑)。サカベさんはいかがですか?
ショウサカベ(ベース/コーラス)「なんか、北海道からツアーが始まったんですけど、一発目は実際、みんな気合いがあんま入ってなかったんですよ」
ワタル「ナメてたんだ、アイツら全員」
サカベ「みんな、〈まあまあ、ゆっくり始めよう〉みたいな感じで」
――あ、みんなっていうのはSISTER JET以外ってこと?
サカベ「そう。俺らは違いますよ。俺らは飛行機のなかからギンギンで(全員爆笑)」
ワタル「〈待ってろ~~~!!〉って(笑)。札幌着いて、速攻雪に突っ込んでな。〈ドサッ! オシ!〉って(笑)」
サカベ「(笑)そうそう、雪溶かして。それで回転寿司食ってライヴに臨んだらすげえいいライヴしちゃって、他のバンドにも火ぃ点けちゃって。スペシャの人にも言われたんですけど、その時俺ら、ホントにいいライヴしたんですよ。というか、しちゃったの。そしたら対バンも強いから、その次から〈おめえら見てろよ〉みたいな感じでみんなすげえいいライヴしはじめて、1分けとかになっちゃって。ヤベエヤベエ、みたいな。ホント、最終的には4バンドともすごい濃厚なライヴするようになったから、お客さんは楽しかったんじゃないかな」
ワタル「火花散ったよ」
――散ってましたね。4バンド連続で観ることによって、それぞれの個性を改めて認識できたし、あと、お客さんの反応も観察してたんですけど……あの、SISTER JETはずっと〈ダンス〉って掲げてるじゃないですか。
ワタル「うん」
――そのダンス感っていうのは、いわゆるビートの強度によるところが大きいと思ってたんですけど……もちろん躍動的なリズムやグルーヴに刺激される、という部分も多くあるんですけど、でもそれ以上に、気持ちに作用する何かがお客さんの〈ダンス〉に繋がってるんだ、っていうことを強く感じたんですよね。単にリズムに反応してるだけじゃない。
ワタル「うんうん。そうですね。俺、ダンス・ミュージック、大っ嫌いですからね。もう4つ打ちの曲が許せないですね。俺が言ってた〈ダンス〉っていうのは、ホントに、小さな街のダンス・パーティーっていう意味で。胸が躍ればいいんじゃん?っていう。最近も曲作ってるけど、〈ダンス〉って単語は一切使ってないですね。もう、いまから4つ打ちは禁止しますから」
――おっと。
ワタル「なんかね、最近の日本の音楽とか聴くと、リズムの間とか、そういうのが全然重視されてねえな、って思う。俺らはもっと、そこらへんを突き詰めたほうがいいんじゃねえのかな、って。いちばん許せないのは、4つ打ちにラップみたいなのが乗っかってるやつ。あれは歌が超ダサくなる。やっぱ、ビートとメロディーってのは同じものだから」
――生身のメロディーとシンクロする生身のビート?
ワタル「そうそう。あのね、昨日俺、1曲作ったんだけどスゴイすよ。まだ二人にも聴かせてないんだけど。ヒップホップ・ビートです」
――えっ、ヒップホップ?
ワタル「うん(笑)。最近そういうのに興味があって」
――黒い感じ? ソウルは70年代のものをよく聴いてる、って前回の取材で言ってましたけど。
ワタル「うん。もっとソウルフルな感じにしたいな、って思ってて。なんかね、ビートがあってメロが乗るっていうのはロックンロールの基本だし、ボブ・ディランがそれをガツッと推し進めたけど、(テーブルに置いてあるCDを指して)このへんのきったねえブルースマンだって無視できないよね……っていう音楽的な話で大丈夫ですか?」
――もちろん。
ワタル「なんかね、とにかく次の曲はヤバイですよ。キタ!」
ミッキーマウス VS だんご三兄弟
――(笑)で、そんな話をお二人はいま初めて聞いたんでしょうか?
サカベ「いや、4つ打ちが嫌いっていうのは最近……」
ワタル「声を大にして言ってるからね(笑)」
サカベ「でも、ドラマーが自然と4つ打ちになっちゃうタイプのハウス好きだから」
――それは前回伺いましたけど、ワタルさんが4つ打ち嫌いだっていうのは……。
ワタル「言ってなかったか」
サカベ「それが加速してるんですよ(笑)」
ワタル「スタジオで合わすと何でも4つになるから、もう頭にきて〈ビートは指定〉ってことになりましたね」
アオキ「(笑)リズムをシンプルにした時に、ギターは何弾くのかな、っていうのがあって。それが思いついてるんなら、俺は全然、何でもいいんですけど」
サカベ「うは(笑)。言った(笑)」
ワタル「え? どういうこと?」
アオキ「いやだから、ギターとのバランスが」
ワタル「待って! じゃあさ、ガッガッガッガッっていう〈キャラメル(“キャラメルフレーバー”)〉のあれ(ギターのフレーズ)が、何で4つになるの? ガッガッガッガッって、ドゥッドゥッドゥッドゥッ(ベースのフレーズ)ってなってたら、(ドラムは)ドン・タン、ドド・タンでしょ? そこの間をわかれって話だよ」
アオキ「それは……まあね」
サカベ「反論しなよ(笑)」
ワタル「ギターもベースもね、徹底的に削ぎ落とした8ビートでメロを前に出すって時に、なんで4つが出ちゃうんだよ!」
――……あ、あの~、〈キャラメル〉ってワンマンの時に演ってた新曲のことですよね?
サカベ「そうそう」
――了解です。では続きをどうぞ。
アオキ「1から喋ると、俺はあの曲をフォーク・ソングにしたくなくて。フォーク・ソングを避けるってとこから俺らのバンドは始まってるから」
ワタル「それ、1から説明してもらえますか(一同笑)?」
アオキ「だから、さっき言ってたようなアプローチにするっていうのは、フォークになるっていうことで。〈普通に流れる曲にドン・タン、ドド・タンっていうのはダサい〉っていう話が前はあったでしょ?」
ワタル「ない」
アオキ「あったよ、あった。なんで? それはずっと、共有してる感覚だと思ってたんだけど」
サカベ「あれ? みんな、4つ打ち最高だと思ってた?」
アオキ「4つ打ちがどうこうじゃなくて、歌をダサくしない、ってことだよ」
ワタル「わかった! はい、わかった! まとめると、やっぱり『三次元ダンスLP』ぐらいまでのSISTER JETの曲は、お客さんがノレないんだよ。それは彼(アオキ)がそういう理論だったから。だけど、ライヴ観てたらわかると思うけど、“MR. LONELY”はお客さんがノルでしょ? それは、ドン・タン、ドド・タンっていうビートだから。“to you”の、ドン・ドタドン、ドン・ドタドンっていうビートだと、こういうふう(じっと腕を組む)に観るしかないというか。まあ、作品としてそう作ってた部分はあるんだけど……でも、ライヴでやった時にお客さんはノリづらいんだな、っていうのをすごい感じてて、それで“MR.LONELY”が出来た。これは、お客さんもめちゃくちゃノリやすいと思うよ。いままで、そういうどストレートな曲がなかったんだよね」
――ああ、確かに。
ワタル「ね? 今回のシングルに入ってるワンマンのライヴ・テイクをちゃんとした音で初めて聴いた時、ホントにそう思ったの。普通、ギターと歌を支えるところにドラムとベースがいないといけないところが、こういうふう(3つの円を重ねてミッキーマウスの頭のシルエットを作る。2つの耳がリズム隊)にいた。ミッキーマウスみたいになってた。それで、〈おいおいおい!〉と思って」
サカベ「下半身がないんだ(笑)」
ワタル「下半身がない(笑)。ホントはだんご三兄弟になってなきゃいけないんだけどミッキーマウスになっちゃってて(笑)。どうですか?」
アオキ「ん? それが俺らの個性だと思ってるから」
ワタル「ミッキーマウスが?」
アオキ「ミッキーマウスが。その、だんご三兄弟のバンドはいっぱいいるじゃないですか」
――はい。
アオキ「そのなかで、俺らは(他のバンドとは)違う、っていうのはどこを指して言うんだろうって、俺はずっと思ってて」
ワタル「ああ。それを変えたのは“MR.LONELY”ですよ」
アオキ「だから、いままでは意図的にミッキーマウスにしてて。でも徐々にお客さんがついてきて、俺らのやってることが伝わるようになってきたから、ミッキーマウスじゃなくても〈俺らはこうなんだ〉ってことを言えるようになってきた。だから、だんだん変わってきてるんだと思う」
なんで俺、音楽やってるんだろう?
――あと、歌詞も予告通りにラヴソングから一歩踏み出していて。これが前の取材の時に言ってたSISTER JET版の“Help!”ですよね?
ワタル「うん。自分の気持ち的な部分でそうなんだけど……言っても“Help!”だって過去のビートルズから抜け出せてないからね。次の曲は『Rubber Soul』ぐらい行きますね。変わりました。いま、徹底的に追い込んでて。歌詞も昨日、けっこう出来たんだよな」
――曲単位で“Help!”から『Rubber Soul』に進化してたら大変なことですよね。
ワタル「行く行く行く(笑)。次のはかなり、逆に……あれだと思うけどね(笑)。もう、すべてを失うかもしれないけど」
――これまで築いてきたものを?
ワタル「うん。俺は、イケると信じてるけど。曲調自体も、例えば今回“MR.LONELY”を出すけど、その続編を期待してたら……あと“DJ SONG”とかさ、ヴューみたいな感じのストレートなロックンロールを期待してたとしたら、けっこういい意味で裏切ると思う。〈これやりたかった〉っていうやつが出来たかな」
――その方向性を確信できたきっかけが何かあったんですか?
ワタル「うーん……まあ俺がロックを好きになった瞬間っていうのはTHE YELLOW MONKEYの“JAM”を聴いた時で。中学1年生とかかな、〈ニュースキャスターは~〉っていう最後のくだりがあるでしょ? それを〈Mステ〉で初めて観た時に、〈何だこれ!?〉って思って。〈こんなこと言う人がいるんだ〉って。たぶん、あの時に初めてロックをバチン!って経験したというか……ボブ・ディランの“Like A Rolling Stone”とかも〈これがサビです〉みたいなのは明確にないけど、歌詞がグサッとくる。そういう曲を作りたいな、とは前々から思ってて、その方法論をずっと探してたんだけど、昨日一人でスタジオ入ってヒップホップ・ビートをパッてやったらガツンと出来て、〈うん、これ、いいんじゃね?〉って。どのロック・バンドにもそういう曲が1曲はあるよね。ブランキー・ジェット・シティだと“悪いひとたち”とか、井上陽水だと“最後のニュース”とか。それで作ったのかな……だから、けっこう重たい感じなの。でも、最近歌詞作るのが楽しいんだよね。まだ誰にも聴かせてないけど」
――もともと、そういうパーソナリティーの持ち主なんですか?
ワタル「そんなことないけど、けっこう自信がなかったから、自分に。バンドに頼ってたとこが多かったし……でも、もっと突き抜けないと、俺はいつまで経ってもこのままだな、って思ったんだよね。いろんな人が〈ワタルこうやれ〉〈こうしろ〉〈こういう曲がいいんじゃない?〉とか言ってきて、バンドはバンドでいろいろ言われて、“MR. LONELY”作る時とかは、俺もう、それでけっこう参ってたの。〈なんで俺、音楽やってるんだろう?〉って。このまま自分の気持ち的に中途半端なことをして、認められずに消えてくのはいちばんヤだなと思って。自分が信じてることだったら別に中途半端でもいいから、やり切って、この業界から消えます、っていう気持ちになったの」
――消えられると困りますが(笑)。
ワタル「(笑)俺は消えます、と思って、ブチ切れて“MR. LONELY”も書いて、でもまだまだ全然、言えてねえな、っていうのがあって。それはどんどん今後も続いてくんだろうけど……うん」
――全然言えてない、とか言ってますけど、“MR. LONELY”はこれまでとはあきらかに視点が違いますよ? でも、まだまだなんだ?
ワタル「全然まだまだ」
その寂しさは全部俺が引き受ける
――では、周りから見てどうですか?
サカベ「そうですね。まず初めてラヴソングじゃないですからね。俺はすごい、感動しましたよ。詞って、けっこう個人的なことじゃないですか。俺らは踏み込めないし、俺らが何と言っても、たぶん影響は与えられない。だから横から見て、がんばってるな、って。今回は突き抜けてるんじゃない?って思いましたけど」
ワタル「自称〈詩人〉は?」
アオキ「(笑)俺、(ワタルと)同い年なんですけど、いまの気持ちとちゃんとリンクしてないと意味がない、っていうのあるんですよ。で、こう……何だろ? もともと違う人の話だから、共感できるわけはないけど……でもなんか……」
サカベ「あ、そうだ。それがね、今回は初めていまの気持ちとリンクしてて。この人(ワタル)、責任感強いくせに逃避癖があって、すぐ逃げちゃうんですよ(全員笑)。で、いままではたぶん、ラヴソングに逃げ込んでた部分があって」
ワタル「そうそう。いつも〈寂しい〉みたいなこと書くけど、それは消す、みたいな。自分のことはちょっと恥ずかしいので、って」
サカベ「そう。それはそれで美しかったんですけど、でもなんか、初めて責任感と向き合って(笑)、ドシンといまの気持ちにリンクした詞が書けてる気がする。それがまた痛々しくて、涙ぐましくて、僕は好きです」
――涙ぐましいとか言われてますが(笑)、実際この歌詞にはどういう想いが込められてるんですか?
ワタル「そうね。ロンリー、ワタルS。まあ、昔から寂しがり屋っていうのはあって……いままでも裏ではそれを歌ってたかもしれないよね。でもこの曲は……お客さんも増えてきて、自分たちの曲をちゃんと聴いてくれてるから。あと、寂しいのはみんないっしょだから……だから、その気持ちは全部俺が引き受けるって。ついて来いっていう歌詞なんですよ(力説)!!」
――……そうなんだ。
ワタル「そうなんだ、って(笑)。それだけ?」
――あっ、いや、スペシャ列伝のMCでは〈SISTER JETはみんなのそばにいるよ、っていう歌詞だ〉って言ってたから。そばにいるだけじゃなくて、引き受けるんだな、と思って。
ワタル「引き受けるよ、俺は。そうだよ。そばにいるんじゃないよ。引き受けます。なんかあったらライヴに来いよ、その寂しさは絶対ぶっ飛ばします、って感じで。なんか俺、好きなアーティストって登場するだけで涙が出るんだけど」
アオキ「それはありますね」
ワタル「俺らもそういうバンドになりたい、っていうのはあるよね」
カオスっぷりが一方向に
――あと、“MR. LONELY”は曲も8ビートで、ストレートで、シンプルで、かつエッジーな作りで。吉田仁さん(Salon Music)のプロデュースなんですよね?
ワタル「うん。カジ(ヒデキ)さんのイヴェントかなんかで1回俺、深夜会って、気に入ってくれたみたいで。〈タイミングが合えば〉みたいな話になってたから」
――吉田さんの手腕によるところを特に挙げると?
ワタル「the pillowsとかやってるから、やっぱコーラスワークが普通じゃないの。the pillowsとかすごいいいでしょ? コーラスが。そこがすごかったし、あと自分でミックスしてるっていうのは強いよね。アレンジどうこうとかじゃなくてね、音のチョイスというか、それでいこう、これでいこう、みたいな。非常に気持ち良くレコーディングできましたね」
サカベ「うん。吉田さんはプロデューサーとしてもすごいわかってて。俺、すぐいろんな音を入れたがるんですけど、〈“MR. LONELY”はストイックな感じだから、これはなくてもいいんじゃないかな〉みたいな感じで、やりたいことも歌詞の世界観も汲んだうえですべてを判断してくれて。俺らのカオスっぷりを一方向にドーンとまとめてくれたのがすごくいいと思いましたね」
“to you”は神懸かってる
――そして、カップリングはワンマンの時のライヴ・テイクですが。ミッキーマウス・スタイル代表の“to you”って、何だかんだ言いながらここ最近のライヴでは必ずセットリストに入ってますよね?
ワタル「やっぱ、詞曲がいいんじゃないですか。リズムだけ残念っていうだけで」
サカベ「(苦笑)」
ワタル「だってあれね、アコギでやったらすごいいいんだよ(笑)。評価がまた高まるというか」
アオキ「Aメロの歌はすごいカッコイイよね」
――“to you”は単純にリズム隊の手数も多いし、グルーヴをキープするのが本当に難しい曲だと思うんだけど……私が初めてSISTER JETのライヴを観た時は、正直グルーヴに揺らぎがあって。
ワタル「いやいや、いつもですよ、あの頃は(2008年のミニ・アルバム『our first love EP』リリース直後)」
アオキ「サビが遅くなる、っていう現象が(笑)」
ワタル「そうそう。で、また戻る、みたいな……現象っていうか、あんた(アオキ)だよ(笑)」
――その記憶がすごく残ってて。で、前回の取材の後に1年半ぶりにライヴを観たんですよ。Veni Vidi Viciousとの2マン。その後もタワーのインストアを観て、ワンマンとスペシャ列伝も観て、けっこう優秀だと思うんですけど。
ワタル「優秀ですね。1年半ぶりに気合い入れたら(笑)」
アオキ「それ言ったら前回、赤坂BLITZはちょっと演奏粗くなかったですか?」
――粗かった(笑)……けど、それでもいいライヴだった。でね、リズムが強化されたことがはっきりわかったのが、その“to you”の出来からで……。
三人「うわははは(爆笑)!」
ワタル「確かに(笑)。“to you”基準なんだ」
――うん、“to you”基準で。あれ、チャレンジな曲なのに毎回やるんだな、と思って。
ワタル「ホントだよね、恐れずに(笑)。でも、あの曲はスイッチ入るよね」
――ああ、そうですね。
ワタル「なんかね、これっていう要素はわからないけど、あの曲はけっこう神懸かってる気がするけどな。作ろうと思っても作れない気がする」
――ワンマンでも本編の最後だったし。何気にこの曲を重要な位置に置いてますよ?
ワタル「うん……『三次元ダンスLP』『JETBOY JETGIRL』までの、いちばんエモーショナルな曲だからじゃないかな、俺らのなかで」
――エモーショナル。
ワタル「だと思うよ、あれは」
アオキ「うん。あと“I.L.U.”っていう曲もあるんですけど、それに次いで、俺らのなかではわりとエモ寄りな。歌が単純に……」
ワタル「切ない、訴えるものがあるような気がするけどね。俺らけっこう、〈わーい!〉っていう感じの曲もあるじゃないですか……っていうか、いままではほとんどそうだな(笑)。こっからもう変わりますよ、エモ・バンドに」
――いま曲名が出てきたから言いますけど、“I.L.U.”って、個人的にSISTER JETのなかでいちばん好きな曲なんですよ。
アオキ「おお~、嬉しい」
ワタル「わかってるね~」
――だから、いまの話を聞いて、“to you”に引っかかりを感じていた理由もわかったというか……で、今後はこっちに進むっていうこと?
ワタル「うん。あ、でも違うな。もうちょっとアダルトな気がするけどな。“I.L.U.”は衝動だけで作ったけど、そういうのとはちょっと違うと思う。けど訴えるものはもっと強いような気がする。“I.L.U.”みたいなドカドカ言ってる曲も、ちょっと作りたいですけどね」
――初めて聴いた時、音楽性とは別のところでブルーハーツとか思い出しましたもん。ホント、ストレートに射抜かれた。
ワタル・ケンスケ「おお~」
ワタル「そうね。ホント、ブルーハーツぐらい……でも、そう感じてくれる人は少なかった、ってことだよね。もっとわかりやすくいかないと、オーヴァーグラウンドには行けないんじゃないか、って思うけどな」
危うさが希望に繋がる
――あと、ライヴ繋がりの話なんですが、SISTER JETのライヴの魅力って何だろう?って、〈スペシャ列伝〉以来考えてて。
ワタル「何? 人情味(笑)?」
――人情味……(笑)。
ワタル「何だろ? やっぱ、危うさはあるからね。俺ら」
――危うさ?
アオキ「ギリギリな感じになってないかな?」
――ああ、そういう。
サカベ「俺らは……俺らはっていうか、まあみんなそうだと思うんですけど、普通にやってるんですよね。普通に演奏して、普通にやってるはずなのに、たぶん周りから見るとそれがすごい浮いてて、大丈夫なのかな?って思うようなところがあると思う」
――そうかな?
サカベ「うん。そうだと思う。“to you”のアレンジとかひとつ取っても、俺らは普通にやってるつもりなんだけど、周りの人から見るとすごいカオスで、よくわかんない、みたいな。でもパワフルなことはたぶん感じてもらってて、うん。俺はそういう危うさがロックなんじゃないか、って思ってる。なんか、そういうのって、希望に繋がるじゃないですか。自分の知らないところに連れて行ってくれるような。それはまあ怖いことでもあるんだけど、そういうところはバンドから出てるんじゃないかな」
ワタル「あと、ユーモアと情けなさ? ただカッコつけてるだけじゃなくて」
――まあ100%ではないですよね。
ワタル「何(笑)? ユーモアが?」
――ユーモア100%だったら話が違ってくると思うんですけど(笑)。ごめんなさい、言葉が足りなかった。バンドって完成することはないのかもしれないけど……SISTER JETは何かが欠けてる感じがある。
ワタル「ああ、欠けてるだろうね」
――不完全さを埋めようとしてる感じ? それが危ういって言ってるところなのかもしれないけど、そこがいい。“to you”で言えば、どこに向かってるのかわからないけど、無我夢中でとにかく前に進む感じというか。
アオキ「ああ~」
――そこに加えて、今回“MR. LONELY”みたいな曲も出来てきてるので、変革期ですかね。
ワタル「うん。そうだね。今回は歌詞とかが変わったって感じだけど、音楽的にももっといろいろ遊べる気がするんだよな……あのさ、逆にSISTER JETの曲、って言われたらどんなイメージ?
――それは言葉で形容すると、っていうこと? それとも、どの曲を挙げるかっていうこと?
ワタル「パッて思い浮かぶこと。SISTER JETの曲、って言われた時に」
―― ……(考える)……ビート感……? …………いや、いま、いろんな要素のなかでひとつだけ挙げるなら〈エモーション〉って答えるかも。
ワタル「おお! ほらほらほら!」
――切実に心に作用する、訴えるものがある。そういう音楽。
ワタル「悪くない答えです。それは(ニッコリ)」
――ただ、それは“to you”とか“I.L.U.”を好む人の意見だということを前提として聞いてもらえれば。
ワタル「確かにね」
――そして、今後の活動ですが。たぶん、今年はライヴをたくさんやりますよね?
ワタル「鬼のようにやるよ」
――うん。ライヴは目一杯やったほうがいいと思う。
ワタル「フェスも荒らして」
――荒らしてください(笑)。あ、でも今回の限定シングルは、ライヴの予習編には最適ですよね。
ワタル「うん。俺らのこと観たことない人でも買いやすいシングルだと思うし。で、聴いて、〈ああ、楽しそう〉ってライヴに来てくれればもう大正解だよね」
▼SISTER JETの作品