インタビュー

藍坊主 『ミズカネ』

 

藍坊主_特集カバー

 

過去最高のチャート・アクションを記録した『フォレストーン』以来、約2年ぶりとなる新作『ミズカネ』をリリースする藍坊主。昨年の全国ツアー〈aobozu TOUR 2009 ~百景~〉を通し、その関係性をさらに濃くした4人は、〈愛〉をテーマにしたシングル“マザー”“伝言”に象徴される、より強いメッセージを湛えた楽曲を生み出してきた。その着地点ともいえる今回のアルバムによって、彼らはみずからの存在意義をさらに明確にしたようだ。

 

外に向いているような感覚が強い

 

――深いメッセージ性と生々しいバンド感がひとつになった、素晴らしいアルバムだと思います。これは絶対的な手応えがあるんじゃないですか?

hozzy(ヴォーカル)「ありますね。いろんな手応えがあるんだけど、まず、外に向いてるような感覚が強いんですよね。フレンドリーなアルバムだなって」

――〈外に向いてる感覚〉って、制作の時からあった?

hozzy「あ、そうですね。このアルバムを作る前に全国34~35か所を回るツアーが2本あったんですけど、特に去年のツアーはリリースと関係なくやったんですよ。そこにわざわざ来てくれる人って、ホントに俺らの音楽が好きなんだと思うんですよね。そこで音楽を届けられるっていう体験はかなりデカイ気もしたり」

藤森真一(ベース)「あと、音楽的な意識が同じところに向くようになってくるんですよね。たとえば“マザー”は一昨年の秋からライヴでやってるんですけど、お客さんの前で演奏することで〈あ、こういう曲だったんだ〉って理解が深まってくるんです。それを4人でいっしょにやれるっていうのは、意味のあることじゃないかなって。バンドならではじゃないですか、それって」

――音楽的な絆が深まるというか。

藤森「もっと具体的に言うと、今回のアルバムの1曲目の“低迷宮の月”って、去年のツアーが始まったばかりの頃に出来た曲なんですね。ツアー先のホテルで寝てて、夢のなかでhozzyが〈新しい曲が出来た〉って聴かせてくれて……」

――おお、ポール・マッカートニーみたい。

田中ユウイチ(ギター)「あ、そうですねえ」

藤森「何?」

――“Yesterday”のメロディーって、ポールが夢のなかで思いついたらしいですよ。本人は〈もしかしたら違う人の曲を思い出しただけかもしれない〉と思って、メンバーに聴かせて確認したっていう。

藤森「……その話、ポールだからカッコ良く聞こえるけど、ほかの人だったら〈大丈夫?〉ってことですよね?」

hozzy「ハハハハハ。確かに」

藤森「俺も言われましたもん。〈夢のなかでhozzyが歌ってて……〉って言ったら、〈ちょっとおかしいんじゃないか?〉って(笑)」

hozzy「もしくは、俺が勝手に夢のなかに侵入したとか」

藤森「でも、“低迷宮の月”っていうタイトルもはっきり覚えてるんですよね。〈BECK〉っていうバンドの漫画にも、メンバー全員が同じ夢を見たっていう話が出てくるんですけど、そういうことってあるんだと思う。その感じは、このアルバム全体に出てるんじゃないかなって」

 

言葉を使わない共有

 

――シングルとしてリリースされた“マザー”も非常に大きな役割を果たしてると思うのですが。

田中「うん、大いにあると思います」

渡辺拓郎(ドラムス)「そうだね」

hozzy「この曲からアルバムが始まった感じはありますね、確かに。この曲をどうやって良い感じで聴いてもらうか、っていうアルバムでもあると思うし」

――良い意味で凝ってないというか、すごく自然な手触りの曲ですよね。

hozzy「そうかもしれないですね。前作の『フォレストーン』は、頭で考えてる部分とそうじゃないところがせめぎ合ってて、個人的にもバンドとしてもかなり労力を使ったアルバムだったんです。そのツアーが終わった後、1回、シンプルなやつを作ってみたいなって……考えてたわけではないんですけど(笑)、久々にブルーハーツを聴いてみたら、やっぱりすげえ良かったんですよね。そういう流れもあるかも」

――個人的には、子供が生まれた時のことを思い出しましたけどね。

hozzy「あ、そうですか」

――命が生まれるっていうことのすごさを目の当たりにして、それまで読んでたカントとかニーチェとか、どうでもよくなっちゃって。その時の感覚にすごく近かった。

hozzy「ヤバイ、読んでるものが俺とかぶってますね(笑)。でも、そういうことですよ。これはそういうアルバムです!」

藤森「また人の言葉に乗っかってる(笑)」

hozzy「でも、かなり共有できてると思いますよ」

藤森「そういえば、(メンバー同士でも)共有できてるなって感じる瞬間がけっこうあったんですよね、今回。アルバムでは“マザー”の前に“創造的進化”っていう曲が入っていて、その間を繋ぐピアノは拓郎が作曲してるんですよ。そのメロディーを聴いた時も、〈hozzyと分かち合えてる感覚があるんだろうな〉って思ったし」

渡辺「曲について言葉で確認することが少なくなってるんですよね、いい意味で。ツアー中も、何も言わなくてもみんなが同じところを向いて、そのまま進んでいける感じがあって」

hozzy「感覚だけで音楽を作ってもダメだと思うんですけど、頭だけで整理するのも違う。このアルバムを作ってる時に必要だったのは、〈言葉を使わない共有〉だったんですよね。それはすごく難しいことなんだけど」

 

藍坊主アザー1

 

――アレンジや演奏だけではなくて、楽曲の成り立ち自体にも〈共有してる感覚〉があるんじゃないですか? 藤森さんが作詞・作曲した“伝言”も、“マザー”と繋がってますよね。歌詞のなかにも〈愛を誓ってやるんだ〉とありますけど、愛というテーマに正面から向かい合ってるというか。

藤森「そうっすねえ……。むりやり、そういうことをテーマにしようと思ってたわけではないんですけどね。“マザー”に影響されて作ったつもりもないし。ただ、〈いま、何を歌いたいか〉だったり、〈藍坊主としてどんなことを表現するべきか〉っていうことを真剣に考えているうちに――いままではあんまり考えたことなかったんですけど――“伝言”みたいな曲にたどり着いたというか。それが“マザー”に通じる雰囲気を持っていたということは、やっぱり共有してるところがあったのかもしれないですね」

hozzy「うん」

藤森「さっき拓郎が、〈今回は曲の説明をしなかった〉って言ったじゃないですか。それと関係してるかわからないんですけど、自分で作った曲を初めてメンバーに聴かせる時って、めちゃくちゃ緊張するんですよ。伝わらなかったらどうしようって不安になって、思ってもないようなことまで話しちゃう。よくわかってもらいたいがために、言葉で補足しようとする、というか。それが上手く働くこともあるんだけど、ただ不安を解消するために言葉を並べるのはイヤだなって思ったんですよね。だから今回は、何も言わないで曲だけを聴いてもらうことにしたんです。伝わらなかったらまた練り直せばいい、くらいの感じで。それがいいテンションに繋がったのかもしれないですね」

――なるほど。ちなみに作品をリリースする前も不安になります?

藤森「いや、それはないんですよ。リリース前はぜんぜん不安じゃなくて、むしろ強気になってます(笑)」

hozzy「とりあえずバンドのなかで市民権を得てるからね」

藤森「そう。だからバンドでやっているというか、4人でやっている強みはそこにあると思いますね」

――では、社会の雰囲気が楽曲に影響することはありますか? 先が見えなくて閉塞感のある時代だから、こういうメッセージが必要だっていうような。

hozzy「あんまりないかな、俺は」

田中「hozzyはないだろうね(笑)」

hozzy「例えばニュースを観てても、いつも同じだなって思っちゃうんですよね。今日は市川海老蔵さんと小林真央さんが婚約会見をしてたけど(笑)、人の名前が違うだけじゃないですか。秋葉原の事件の裁判もそうですよね。確かにひどい事件だけど、似たようなことは他にもたくさんあって。それよりも自分の生活だったり、身近なことのほうが大切だなって思っちゃうんですよね」

――日常に根差しながら大きなテーマを歌うっていうのも、藍坊主の特徴なのかも。アルバムの最後に入ってる“いわし雲”なんて、〈仕事はもうやめた、だってつまんないんだもん。〉って歌ってますからね。普通の会話じゃないですか、これ。

hozzy「そうっすね(笑)。“いわし雲”はもともと、友達がいきなり〈仕事やめる〉って言い出したのがきっかけなんですよ。で、ふたりで昼間からビールを飲みはじめて、いろいろ話をして。〈つまんないから仕事やめる〉なんて、世間的には良くないことじゃないですか。でも、〈それはダメだよ〉って言えなくて、逆に〈別にいいんじゃん?〉って言いそうな自分もいるっていう。そういう葛藤の歌ですね」

 

すごく強いんだけど、固まってない

 

――『ミズカネ』というタイトルについては?

田中「それはリーダーが」

藤森「まず、すごく響きがいいなって思ったんですよ。このアルバムっぽい響きだなって。〈ミズカネ〉って(常温でも)液体状の金属なんですよね。ゆらゆら揺れてて、そこにいろんな色が見えて――そういうイメージもこのアルバムっぽいな、と。結局、今回も〈色〉にまつわるタイトルになったっていうのもおもしろいですよね。無理にそうしてるわけではないんですけど、『ヒロシゲブルー』だったり『ハナミドリ』だったり、色の名前のついたタイトルがけっこうあるので。藍坊主っていうバンド名もそうですけどね」

田中「意味もすごくいいと思いますね、ミズカネって。すごく強いんだけど、固まってないというか……。あの、ドラクエのキャラクターで〈はぐれメタル〉っていうのがいるんですけど、とにかくすごい防御力で、すぐに逃げちゃうんですよ。倒せばすごい経験値がもらえるんだけど、とにかく捉えどころがないっていう。ミズカネにはそういうイメージもあるのかなって――まあ、いま思いついたんですけど(笑)」

hozzy「ハハハハハ!」

田中「でも、捉えがたいものがたくさん入ってるアルバムだと思いますよ」

――強くて、しかも自由に形を変えられるって、バンドとしては理想の在り方じゃないですか?

田中「そうですよね。はぐれメタルになりたいです(笑)」

hozzy「あと、日本語のタイトルってやっぱりいいですよね。僕らはJAPANだし(笑)、日の丸を胸に……」

田中「絶対、そんなこと思ってないでしょ(笑)」

――でも、日本語にはこだわってますよね。タイトルにしても歌詞にしても。

hozzy「そうですね。でも、今回のアルバムは〈カタカナ英語〉みたいなものもけっこう使ってて。前は〈何が何でも日本語じゃないと〉っていう感じだったんだけど、そのあたりは柔軟になってますね。あんまりガンコになるのも良くないし」

 

藍坊主アザー2

 

藍坊主というものが明確になったアルバム

 

――音楽的にも新しいトライが多いんじゃないですか?

hozzy「そう捉えていただけたら本望です(笑)。実際、けっこういろんなことをやってますからね」

田中「“低迷宮の月”もそうですよね。なるべく手癖を使わないようにしてたんですけど、自分で聴いても〈いままでになかったフレーズだな〉って思えるものがたくさんあって。何て言うか、なるべく自分でも新鮮に感じることをやっていきたいんですよね。よくある感じというか、手癖でやっちゃえるときもあるんですけど、自分が飽きてたらまずいんじゃないかなって。それってたぶん、聴いてる人にも伝わっちゃうんじゃないかなって疑心暗鬼になるというか」

――“ポルツ”みたいな曲も、いままではなかったですよね。実験的なコード進行と起伏に富んだメロディーがとにかく印象的で。

田中「うん、すごいですよね。hozzyがデモを持ってきた時から、〈すげえ!〉って思ってました。興奮して夜中に〈すげえよ〉ってメールしたら、〈だべ?〉っていう小田原弁の返信が来ましたけど(笑)」

渡辺「いちばん苦労しましたね、この曲は。僕のなかにはないリズムだったというか……」

――かなりトリッキーですよね。複雑なキメもけっこうあるし。

渡辺「こなしきれてない感じがあったんですよね、自分のなかで。〈hozzyが作ってきたデモのイメージに近付くにはどうしたらいいか?〉って、かなり試行錯誤しました。この曲も去年のツアーでやってたんですけど、そこでいろいろ試せたのも良かったですね」

田中「また一歩、はぐれメタルに近付いたな」

藤森「それが言いたいだけじゃん」

渡辺「(笑)でもライヴでやることによって、曲が身体に馴染んでたことは確かだと思うんですよ。それはレコーディングでも活かせたんじゃないかなって」

hozzy「理想ですよね。まずライヴでやって、ある程度自分たちのものにしてからレコーディングするっていう。去年のツアーってやっぱり大きいですよ、そういう意味でも」

――『ミズカネ』リリース後にもツアーが控えてますが、そこでまた楽曲も変化してくるんじゃないですか?

藤森「うん、絶対変わると思いますね。アルバムの半分くらいは既にやってるし、これまでのアルバム・ツアーとはまた違った雰囲気になるんじゃないかなって。いま話してて思い出したんですけど――さっき、自分の曲を初めてメンバーに聴かせる時は緊張するって話したじゃないですか」

――はい。

藤森「“沈黙(月まで響くような彼らの幻灯)”や“おいしいパン食べたい”って、初めて披露した場所がライヴだったんですよ。どっちもhozzyの曲なんですけど、弾き語りで歌って、メンバーもお客さんもそこで初めて聴いたっていう。ツアー中にアレンジしていたんですけど、実は最初から意識が外に向かってたんじゃないかなって。インタヴューのはじめにhozzyが〈外に向いてるアルバム〉って言ったけど、まさにその通りだったんですよ、最初から」

hozzy「ああ、そうかもね」

藤森「それくらい伝えたいっていう気持ちがあったんだと思うし、心を開く方法がわかってきたんじゃないかな。そういう意味でも、藍坊主っていうものが明確になったアルバムなんじゃないかな、と」

――うん、そうだと思います。聴き終わった後に残るものも、いままでのアルバムのなかでいちばん暖かいんですよね。

hozzy「良かった。それがすべてです」

 

▼藍坊主の作品

 

ツアー情報

aobozu TOUR 2010「こぼれるシルバー」
日時/会場:2010年3月20日(土) open 17:00/start 18:00 @ 東京・恵比寿LIQUIDROOM

料金:前売 3,500円/当日 4,000円(共にドリンク代別)

問い合わせ:HOT STUFF(03-5720-9999)

 

日時/会場:2010年4月2日(金) open 18:00/start 19:00 @ 大阪BIGCAT

料金:前売 3,500円/当日 4,000円(共にドリンク代別)

問い合わせ:清水音泉(06-6357-3666)

 

日時/会場:2010年4月4日(日) open 17:00/start 18:00 @ 愛知・名古屋CLUB QUATTRO

料金:前売 3,500円/当日 4,000円(共にドリンク代別)

問い合わせ:ジェイルハウス(052-936-6041)

 

日時/会場:2010年4月17日(土) open 17:30/start 18:00 @ 岡山IMAGE

料金:前売 3,500円/当日 4,000円(共にドリンク代別)

問い合わせ:夢番地岡山 086-231-3531

 

日時/会場:2010年4月18日(日) open 17:30/start 18:00 福岡DRUM Be-1

料金:前売 3,500円/当日 4,000円(共にドリンク代別)

問い合わせ:TSUKUSU(092-771-9009)

 

日時/会場:2010年4月24日(土) open 17:30/start 18:00 @ 長野LIVEHOUSE J

料金:前売 3,500円/当日 4,000円(共にドリンク代別)

問い合わせ:スーパーキャスト 026-263-1000

 

日時/会場:2010年4月29日(祝) open 17:30/start 18:00 @ 宮城・仙台MACANA

料金:前売 3,500円/当日 4,000円(共にドリンク代別)

問い合わせ:G/i/P(022-222-9999)

 

日時/会場:2010年5月1日(土) open 17:30/start 18:00 @ 北海道・札幌PENNYLANE 24

料金:前売 3,500円/当日 4,000円(共にドリンク代別)

問い合わせ:WESS(011-614-9999)

 

日時/会場:2010年7月4日(日) open 16:30 / start 17:30 @ 東京・日比谷野外大音楽堂

料金:前売(全席指定) 3,500円

問い合わせ:HOT STUFF(03-5720-9999)

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掲載: 2010年02月17日 18:01

更新: 2010年02月24日 19:27

インタヴュー・文/森朋之

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