LONG REVIEW――SEEDA 『1999/2009』
ストレートに『1999/2009』と題されたSEEDAのベスト盤。ジャケの写真は『SEEDA』(2009年)のリリース時にbounceの表紙を飾った穏やかな表情だ。選曲がまた興味深いので最初に整理しておくと、SHIDA名義での初作『DETONATOR』(99年)からは1曲、『GREEN』(2005年)から3曲、『花と雨』(2006年)から2曲、『街風』(2007年)から3曲、『HEAVEN』(2008年)からはエディットを含めて3曲、『SEEDA』から2曲……となる。再デビュー作とも言える『ILL VIBE』(2003年)の曲がないのは意外だが、その後に出た盟友I-DeAの『self-expression』(04年)から名曲“Dayz~just like smokey~”が選ばれているし、他にも客演曲がいくつか収められることで、折々の節目はわかる作りになっている。
とはいえ、シングルズでもなく、いわゆる代表曲集でもなく、ファン投票のまとめでもない。恐らく“MIC STORY”や“自由の詩”“WISDOM”があれば〈ベスト〉っぽく見えたかもしれないし、“Whoa”や“Sai Bai Men”があればクロニック……じゃなくクロニクルとしての強度は高まっただろう。が、ここではそうされなかった理由を受け取るべきだし、『HEAVEN』あたりから活動休止前後までの音源を追ってきた人なら、その意図もある程度わかるんじゃないか。この『1999/2009』から浮かぶのは、日常の移ろいを書き留め、何気ない思索を言葉に変える、ひとりの普遍的なアーティストとしてのSEEDA像である。
恐らく外面的な部分だけで〈ハスラー・ラップ〉なるものを曲解している人も多そうだが、少なくともネガティヴィティーを戒める彼のそれは過去を自慢したり美化するものではない。10年間の〈ある側面〉を切り取ったこの『1999/2009』は、過去の曲を通じて現在の姿を表明した〈新しい名刺〉である。トラップ系フロウの逸曲“FLIP DAT”やNORIKIYOの“REASON IS...”が鮮烈な勢いを示す一方、ORITOのブルージーな歌が要所で聴こえてくるからか、全体の聴後感は『HEAVEN』にも近い。軽やかな散歩のような初出の“Sunshine”、STICKYの決然たるブルース“DAY N NITE”(のリミックス)があり、直球のメッセージを残すJAMOSAの“RED”が結びに置かれているのも印象的だ。
余談ながら……件の表紙に使う写真を選ぶ際、最初に本人サイドから提示された候補は別のものだった。それでもあの写真を使いたくてOKを貰ったのは、『SEEDA』に投影されたその男の現在地を明白に示す表情だったからだ。その境地から次へと進む彼がこの先どんな音楽を届けてくれるのか、いまはそれが楽しみでならない。