YES GIANTESS 『Siren』
柑橘系のキャンディーのような、一度頬張ったらクセになる甘酸っぱいメロディーに胸キュン! 百花繚乱の現行USインディー・ロック・シーンのなかでも、イエス・ジャイアンティスの音世界はかなりポップなものだと思う。
「そうだね、僕らはマイケル・ジャクソンやプリンス、デビュー当時のマライア・キャリーとか、80~90年代前半の〈ビッグ・ポップ〉に影響を受けているんだ。だから自然とポップなサウンドが表現されているんだと思うよ」。
そう語るのは、フロントマンのジャン・ロゼンフェルド。イエス・ジャイアンティスはこのジャンを筆頭に4人のメンバーによってボストンで結成された。
「僕やドラムスのジョーイ(・サルコウスキ)は、ローティーンの頃はパンクが好きだった。ギターのザック(・フライド)はオルタナ、シンセサイザーのチェイス(・ニコル)はポップ・パンクやエモなどが好きで聴いているよ。たいてい僕がソングライティングをし、チェイスがプロデューサー的な役割で、他の2人がいろんなアイデアを肉付けする感じだね」。
そんな彼らの作るポップ・サウンドは、学生時代にメンバーと共同生活を送っていたというパッション・ピットのアヤド・アリ・アダミーらの紹介によってボストン以外の地域でも話題に。そして、このたびファースト・アルバム『Siren』が完成した。
「これは伝説のなかに存在する魅惑的で美しい生き物のことを示しているんだ。歌以外では表現しにくい、漠然としたこのうえない幸福感について書くことが多いから、アルバム全部の曲に繋がりがあると思うよ。僕は自分を小さいと思わせたり、逆に大きく感じさせてくれる微細な感情に影響を受けやすいんだよ」。
盟友パッション・ピットの元メンバーであるアダム・トッド・ラヴィンスキーの他に、エコー&ザ・バニーメンやウィップなども手掛けてきたリアム・ホウ、さらにカイリー・ミノーグやケイティ・ペリーなどを手掛けるスタースミスがプロデューサーとして参加している本作。最近のUSインディー・バンドにあるようなユーフォリック(陶酔的)なムードを感じさせるものとはひと味違い、レトロ・フューチャーなネオン・ライトがキラキラ輝く、キッチュなサウンドが全体に響いている印象だ。特にシンセサイザーの音色がその世界観をうまく導き出している気がする。
「純粋におもしろいと思ったサウンドをプレイしただけさ。僕は長い間、ギターとロック・ドラムの音を魅力的に感じられなかった。でもシンセは、ただ聴いていてもどんな音が出ているのかよくわからない。だから曲の世界を開き、広げて、どこで何が起こっているのかをちゃんと把握しないといけない。それがおもしろいから使っているんだよね」。
しかし、彼らの音楽には不思議なポップ・ワールドに潜入してしまったような感覚だけでなく、ほんのりセンティメンタルな気分を抱かせられる部分があるのも魅力的。特に歌詞においては、〈世界で自分ひとりだけが取り残されてしまったのではないか?〉という不安を吐露したものなど、誰しもが心に抱える闇をストレートに表現しているような気がした。
「悲しみや絶望を感じる瞬間もあるけど、最後には昂揚感を持ちたい。僕は人生を、そしてバンド活動をそういうモチヴェーションで歩んでいる。歌詞はもちろん、サウンド全体からもそんな思いが滲み出ていると思うよ」。
そう、このアルバムを聴いていると、遊び心を散りばめながらも、真剣に音楽や人生に取り組むバンドの姿が浮かんでくるのだ。
「僕らはフレッシュでマジメな感覚を持つバンドだと思っている。裏で僕らを操作している人間なんていなくて、純粋に4人ができる限りの努力をしているだけなんだ。それを曲や演奏から感じ取ってもらえるといいね」。
PROFILE/イエス・ジャイアンティス
ジャン・ロゼンフェルド(ヴォーカル)、ジョーイ・サルコウスキ(ドラムス)、ザック・フライド(ギター)、チェイス・ニコル(シンセサイザー)から成る4人組。ボストンの大学で知り合って共同生活を始め、2008年頃から楽曲制作を行うようになる。その後、ネオン・ゴールドと契約し、勢力的なライヴ活動を展開。2009年にラ・ルーやリトル・ブーツの前座に起用され、同年4月にファースト・シングル『Tuff N Stuff/You Were Young』を発表。2010年4月にタワレコ限定のミニ・アルバム『Yes Giantess EP』で日本デビュー。〈サマソニ〉への出演決定でさらなる話題を集めるなか、このたびファースト・アルバム『Siren』(Neon Gold/KSR)を日本先行でリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2010年07月26日 21:43
更新: 2010年07月26日 21:43
ソース: bounce 323号 (2010年7月25日発行)
インタヴュー・文/松永尚久