INTERVIEW(3)――生活の歌
生活の歌
――サンプリングを使ったトラックにしても、それがヒップホップ的である以上にいい意味でポップスとして消化されてますよね。
「だから逆にいろんな反応が気になりますけどね。すごく熱心に日本人のヒップホップを聴いてるような人はこういうのどう聴くのかな?とか。意外とでもロックの人が聴いたらこれでもヒップホップだなあと思われるのかなとか。ラップ=ヒップホップぐらいに思ったりするような人もいるような気もしますし」
――でも、それでもなおサンプリングへの思いは強く感じます。
「サンプリングはやっぱり質感がいいですよね。愛着的にもわざと汚い音でっていうものは絶対入れたいなと思った。ただ、“SUPA RECYCLE”は特に古いお宝を甦らすっていうテーマの曲だし、“I REMEMBER SUMMER DAYS”とかもノスタルジックなイメージがあったんで、やっぱり古い音だなとか、歌詞をベースにその曲が良くなりそうな音の方向に進めてったみたいな感じです」
――音への影響も含め、歌詞の世界観こそがこのアルバムを支える核というわけですね。
「いろいろ振り返ったりしつつ、自分の生活や友達や、アルバムを作ってたここ何年間かのことや、音楽活動としていっぱいDJをしてるからそのナイトライフ的な景色とか、作りもんのファンタジーを歌うよりは、〈生活の歌〉みたいな曲が多い感じでまとまりそうなのは見えてたんで、生活感のなかでだけ作りました」
――ただ、生活感といっても、それはやけのはらさん個人の生活がディテールまで表現されてるっていうことではなく、やけのはらさんを取り巻く世界とかそこで纏った空気が曲になってるってことであって。
「まさにそういうニュアンスをまとめたいっていうのは大事にしてて。知らない人のゲストとかは違うなっていうのもそうだし、ジャケットも写真で、そっから広がっていくような、空気感を感じ取ってもらえるようなものにしたいなっていうのがありました」
――そこにあって、キミドリの“自己嫌悪”のカヴァーもアルバムにもやけのはらさんのスタンスにも無理なく寄り添ってるっていう。
「それがわかってたからカヴァーしたんですよね。キミドリって日本人のヒップホップのなかで群を抜いて一人称感が少ないっていうか。例えば歌詞のなかで〈オレ、スチャANI〉ってあったらカヴァーできないし、その人しか歌えない曲じゃないですか。だけど、キミドリの歌詞ってそうじゃなくて、ポップソングみたいな歌詞の作られ方してるし、普通の若者目線でおもしろいなあって気付いてて、なんとなくカヴァーしてみようかなって」
――プロデュース面で力を借りた人たちも当然、そうした空気を共有する人たちですよね?
「そうですね。直接電話できる範囲の人にだけ頼んで。ヴォーカルは、去年ぐらいまではECDさんやサイプレス上野くんとはいっしょにやってもいいかなと思ってたんですけど、ゲストを入れないほうが全体の世界観がブレないし、シンガー・ソングライターの人のアルバムだったらそれがあたりまえかなって思って、結局ゲストなしにしました」
――実際、ラップという形をとっていてもヒップホップ・マナーを感じさせないぶんだけ、シンガーソングライター的な側面が強いですよね。フィーチャリングで声を乗せるゲストもほぼ七尾旅人さんだけだし。
「(七尾旅人との共演では)単純に自分の非力さを再認識しましたね。この人、歌上手いな、みたいな。パソコンでミックスしてても、自分だったらもうちょっとここきれいにしたいなって思うようなところもピッチがまったくぶれてなくて、直す必要がない。そこで襟を正しつつ、2日くらいしたら忘れてるっていう」
――はは。ではDJの活動でアルバムに反映させたことはありますか?
「全体の落としこみ方とか音の響き方とかについてはDJからのフィードバックはすごくあると思います。逆にむしろここまでいっても、DJベースで作ったと思えるぐらい。自分を中心に据えて声を出したんだけど、それをまとめこむのも自分だから」
――本作ではエンジニアもご自身で務めたんだとか。
「自分で録りもミックスもしてるんで、いわゆるラッパーとして勝負ってよりも、曲作ったりDJやったりっていう自分のいままでのいろんなエッセンスを総合的に入れ込みたかったから、最終的な落としどころは自分でやるしかなかった。そこで細かい曲のクォリティーを上げていくってとこは、時間かかったっていう面で大変でした」
――そうした成り立ちからも〈ソロ・アルバム〉っていう言葉がふさわしいっていう。改めてアルバムとしてどういうものになったと?
「がんばって自分のできる範囲でいい音楽を作ろうって思って作っていって、何かの文脈を共有してなくても、何かのポイントや趣味が合えば楽しんでもらえるようになったんじゃないかなと思います。だからお気軽な気持ちでつまみ食いしていただけると嬉しいです」
ロング・レヴューへ▼文中に登場したアーティストの作品を紹介