serial TV drama 『マストバイ』
大衆性と変態性をそのサウンドに併せ持ち、インディー・シーンを超えてその名を轟かせてきた5人組が、いよいよメジャーの舞台に!
2004年に結成され、ライヴを重ねながらキッズを中心に支持を集めてきた5人組、serial TV dramaが、ミニ・アルバム『マストバイ』でメジャー・デビューを果たす。ギタリストでメイン・ソングライターの新井弘毅が「ずっと、趣味って感じではなかったですね」と語る通り、インディー時代から活動的にも音楽的にも貪欲な向上心を見せてきたバンドだけに、満を持して大きなステージに上がると言えるだろう。
「(結成時は)当時の若者らしく、エモとかをやりたいとは思ってて、でもJ-Popも好きだったので、歌も聴けて、演奏も全部がカッコいいバンドになりたいとは思ってました」(新井弘毅:以下同)。
〈J-Pop〉というキーワードが出てきたからって、ありきたりな音楽性と思うことなかれ。彼らは楽曲を制作することにおいて、単純に世の中へと寄り添ったり、単純に粗を削ぎ落とすやり方をせず、ポップなメロディーを大事にしつつも自分たちらしいスタイルを構築してきたのだ。
「訳わかんないもののほうが楽しいと思ってます。音楽に興味ある人は音楽的要素で楽しめると思いますけど、その域を超えておもしろさを届かせるには、正当に戦うよりはトリッキーにいきたい」。
エモ、ハード・ロック、プログレ、ギター・ロック、ダンス・ロックなどなど、さまざまな時代性やジャンルを、彼らは惜しげもなく楽曲に採り入れている。しかも、新井がライヴで披露するギター・ソロに象徴されているように、その採り入れ方は時にとても大胆だ。
「初めて聴かせた時はキョトンとされて。でも、いまってわかりやすいもの、素通りで聴けるものが多いけど、アーティストがしっかりと引っ張ってあげることも必要だと思うので、難題はあえて突き付けていきたい。結局それが自分たちにも返ってくると思うし、音楽自体がもっと盛り上がってほしいから」。
さらに彼らの音楽シーン全体への視線は、こういうバンドがいないとか、こういう音が最近ないといったところにも向けられ、それがモチヴェーションになることもあるという。
「抗うことがロックだったはずなのに、作り手の多くが受け入れる方向に流れていっていると思う。それはロックの歴史を考えると違うんじゃないかなって」。
確かにロックとは、誠実に向き合えば向き合うほど、天の邪鬼な楽曲が生まれてくるジャンルなのかもしれない。彼らの楽曲は、メロディーだけ聴くと素直に良い曲だけれど、突っ込んで聴くと、笑わせられたり、考えさせられるようなものが多い。今作で言う“コピペ”という楽曲などは、チャイニーズなテイストがふんだんに採り入れられていて、キャッチーにも捉えられるし、一方ではユーモアにも捉えられる。
「ストレートにやることがどんだけのことなのかは、意味深に投げかけていきたいです。くだらないことを本気でやって、くだらなくないレヴェルで発したい」。
さらに、そういった何層にも楽しめるような〈濃い〉ことをやっても、ヴォーカル・伊藤文暁の声が爽やかで柔らかいので、しつこく聴こえないところも彼らの武器である。また、“オオカミ”のようなアグレッシヴな曲に伊藤の声が乗る〈ミスマッチの妙〉もまた、バンドならではの化学変化だと思う。
「最初はマッチさせることを考えていたんですけど、みんなの個性をぶつけたほうが、おもしろいものになるんじゃないかなって思った結果が、今回の作品に繋がっていて。“オオカミ”みたいなミスマッチな曲も、あえて見せちゃいたい」。
入り口は広く、中は濃いシリアル・ワールドが展開された今作。これぞまさしくマストバイ!
「(タイトルについて)深く考えてはいないんですけど、とりあえず『マストバイ』だろって(笑)。これからも、音楽に興味のない人でも興味が持てるような仕掛けをもっとしていきたいですね」。
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2010年08月11日 16:42
更新: 2010年12月10日 11:31
ソース: bounce 323号 (2010年7月25日発行)
インタヴュー・文/高橋美穂