インタビュー

『Tiger Suit』に集約された名称ジム・アビスのキャリア

 

ジム・アビスといえばカサビアンやアークティック・モンキーズのプロデューサーとして知られ、一般的にはロック系の職人という印象が強い。しかし、いまほど彼の名前が知られていなかった90年代後半までは、エンジニアとして参加したマッシヴ・アタックのダブ盤『No Protection』他、モノやスニーカー・ピンプス(KTの新作に元メンバーのクリス・コーナーがシンセで参加)、アンクルらトリップ・ホップ周辺の作品をプロデュースしてきた人物だ。

また、ジムがロック・バンドから重宝されるようになったきっかけとしてミュージックの2002年作『The Music』が挙げられるが、これだって非ロック志向の強かったメンバーが〈ちょっと意外な人選〉として指名した結果だったりもする。その流れを受けて、2000年代に入るとDJシャドウらを手掛ける一方、ギター音を轟かせてロック寄りにシフトしたマキシム(プロディジー)や、 いわゆるダンス・ロック系のバンド(ウィップやブラック・ゴースツ他)など、ジャンルの境界線を持たない(or超えようとする)アーティストとの仕事が目立つようになっていった。

アデルという前例はあるものの、ジムが生音系の女性シンガー・ソングライターを手掛けることは稀。だからこそ、彼がKTをプロデュースするという情報が流れた時はちょっと意外な気がしたが、踊らせることを意識し、〈ネイチャー・テクノ〉を実践した今回の新作の指揮官として、これほど相応しい男は他にいなかっただろう。数々のロック・バンドとの仕事を通じて学んだ生音を活かすコツと、本来備えていた電子音の魅力を引き出すテクニック——それらを結集させた『Tiger Suit』は、現時点でのジムのキャリアを総括する作品としても受け取ることができるかもしれない。

 

▼関連盤を紹介。

左から、カサビアンの2004年作『Kasabian』(RCA)、アークティック・モンキーズの2006年作『Whatever People Say I Am, That's What I'm Not』(Domino)、マッシヴ・アタックの95年作『No Protection』(Circa/Virgin)、モノの98年作『Formica Blues』(Echo/Mercury)、ミュージックの2002年作『The Music』(Capitol)、アデルの2008年作『19』(XL)

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掲載: 2010年09月22日 18:00

更新: 2010年09月22日 18:34

ソース: bounce 325号 (2010年9月25日発行)

文/山西絵美